第24話 緑の風
投稿遅くなり申し訳ない。
ヴェルディは兵士と共に街の外――暁の星の軍勢を待ち構えていた。
街からは離れており、ここならば多少大規模な魔法を放たれようとも被害はない。
「ヴェルディくん……本当に一人で戦うつもりなのかい?」
「うん。正直兵士さんたちは邪魔」
「邪魔って……」
ヴェルディという少年は、領主であるベープいわく『恐ろしく強い』という。この軍勢相手にある程度は通用する強者なのだろう。
しかし、子供は子供。
いざとなれば彼を抱えて逃げるつもりでいた。子供を死なせる訳にはいかないからだ。ベープからの命令もそういうものであった。
「離れてて。巻き込んじゃうから」
そんな兵士さんたちの心情も知らぬまま、ヴェルディは『魔獣』へと姿を変えるのであった。
*
「ふむ……」
市街地の際より、双眼鏡を覗いてヴェルディの戦闘を観察していたベープは、ある違和感を抱いた。
「報告では3000の敵兵が南から押し寄せてきていた、と聞く。これは間違いないな?」
「はい。遠目からの目視だったために正確な数は不明ですが、三千は下らないかと」
「そうか。……まずいな」
――三千だと? いや、違う。
とてもまずいことになった。ヴェルディへ伝えにゆくべきではあるが……今邪魔をする訳にもいかない。
しかし、今すぐにでも対応しなければならない。
敵兵の数が、明らかに少ないのだ。
「私が見ている限り、敵兵の数は1000程度しかいない」
「なんですと? それはつまり……」
「あれは陽動だ。恐らくは戦力を集中させるための。つまりは大半が、別の方角から攻めてくる……ということだ」
「兵士の見間違えという可能性は……」
「であればいいのだがな。……その可能性は低いだろう」
「ベープ様!」
その時、他の箇所を監視していた兵が顔を青くして伝令へ現れた。
「北東より暁の星のものと見られる軍勢2000人が接近中です!!」
「やはりか……。……すまない。全兵に伝えよ! 北東部より来る外敵に備えよと!!」
シリスの街の戦力は500人。
彼らは一般人よりかは戦い慣れているが、それでもこの平和だった街で暮らしてきたのだ。
実戦経験はほとんどなく、戦場に出ればほんの時間稼ぎにもならないだろう。
それでも、だ。
この街を守るために、彼らへ『死ね』と命じなければならない。
「すまない、すまない……」
ベープは、長年の友たちを死地へと送り出さざるを得なかったのであった。
*
暁の星聖騎士団、騎馬隊。その数2000。その役割は、最高指導者であるアルスが『悪』と定めた敵を滅ぼす組織の剣である。
そして、彼らの大半は先のマッチポンプの騒動後に新たに入団した人員だ。
暁の星という組織の信頼は失墜し、崩壊しかけているはずだった。
しかし最高指導者であるアルスの一声で不思議な事に持ち直し、アルスが呼び掛ければ人々は涙を流しついてくる。
そうして暁の星は、以前よりも更に大きな組織となっていた。
「これより我ら聖騎士団は、肥沃な土地を独占し私益を溜め込む悪しき豚どもからこの地を奪還する!」
騎士団長――アベラは、女とは思えぬ猛々しい声で騎士たちを鼓舞した。
雄叫びがあがり、士気は最高潮だ。
しかし、そこへ南の別動隊からの伝令が現れた。
「アベラ騎士団長……別動隊が壊滅いたしました」
「何だと?」
「正体不明の魔物の襲撃を受け、多くが食い殺され――」
「私は質問しているのではない。……壊滅したのであればなぜ貴様は生きている? よもや自分だけ尻尾を巻いて逃げてきたのではあるまいな?」
「ち、違います! 私はただ報告しなければと――」
「貴様、この私を否定するのかっ?!」
「そ、そのような意図は……」
「そもそも!! この短時間で千の兵が壊滅するはずがないだろうが!!!!!!」
「お、おやめくださ、ぎゃっ――」
アベラは鞘から剣を抜き、伝令へ来た兵を斬り捨てた。
紅い飛沫が舞い上がり、アベラの頬も僅かに朱色に染める。
「こやつは悪しき豚どもの手先だったのだろう。我が正義に曇りはない。皆のもの! 私に続け!! 後続部隊は精霊召喚! これより正義を執行する!!!」
「は! アベラ団長に続け! 我らが正義は絶対である!!!」
そうして、2000人もの『聖騎士』たちは正義の名の元にシリスの街へと襲いかかったのであった。
――――
「あ、あんなのどうしようもねぇじゃねえかよ……」
道を塞いだりするまでもなく、戦場へ投入されたシリスの街の兵たち。
そんな彼らの武器は質の悪い槍と剣のみ。
――相手が人間だけならば、死ぬ気で時間を稼げると思っていた。
時間さえ稼げば、別の場所から『ヴェルディ』という単身で戦況をひっくり返せる戦力が来てくれるはず。
そんな領主の言葉を信じていた。
しかし、だ。
「なん、だよあの化物は……」
迫る聖騎士たちの後方に、燃え盛る真っ赤な翼をはためかせる小ぶりな『竜』が現れた。
小ぶりと言っても、その大きさは高さ3m以上はある。
それが、少なく見積もって10体以上。
――下位炎竜精霊である。
「く、来るぞ!!」
竜にばかり気を取られてはいられない。
聖騎士の騎馬隊が戦場を駆け、『正義』を執行しに彼らへ剣を振るう。
「う、うおおおお!!」
彼らは、死力を尽くした。
持てる力を振り絞り、立ち向かった。
しかし気持ちや根性だけでは覆せぬ差が、彼らにはあった。
「悪しき豚どもを皆殺しにしろっ!!! 一人も逃すな! 一人もだ!! 逃せば無辜の民の脅威となると思え!!!」
一人、また一人。
聖騎士の眩く光る剣に倒れてゆく。
仲間たちが、どんどんやられてゆく。
対してあちらの損害は0。一人も倒せていないのである。
「精霊部隊! 放て!!!」
騎士団長の指示を受け、『竜』どもの口から焔の弾が街へ向けて放たれた。
「あ、ああっ……街が、俺たちの故郷が……」
炎の弾は、建物物に当たり燃え上がらせる。
このままではやがて、炎は街中へと広がってしまう。
「燃やせ! 聖なる炎で焼き尽くしこの地を浄化するのだー!! フハハハハ!!」
騎士団長アベラの笑い声が響く。
街を守ろうとした彼らに、もはや希望などなく。
「おしまいだ、もう……ちくしょう」
誰かが武器を手放し、その場で項垂れ呟いた。
しかし。
その時、柔らかな風が、戦場を吹き抜けた。
「なん、だ? 温かい……?」
「あ、あれ……?」
兵たちの体に、不思議な高揚感が湧いてくる。
それだけじゃない。傷を負っていた者、騎士に斬られ絶命していたと思われる者も。
戦場でシリスの街のために戦っていた者たちの傷が、まるで最初から無かったかのように癒えていた。
死んだはずだった者も起き上がり、不思議そうに自らの手を見つめる。
「お、おい、見ろ! 火が消えていくぞ!!」
『風』は、街の中にも吹き込んだ。
広がろうとしていた炎も、一瞬で消えたではないか。
「な、なんだあれは?」
騎士団長は戸惑う。正義の名の元に蹂躙していたはずだったゴミのような兵隊が、なぜか淡い緑色の光を纏い、再び立ち上がったのだから。
「すげぇ、力が湧いてくる……」
「これもしかして〝神聖魔法〟か……?」
「なんだって!?」
『風』が吹き抜けた後に彼らの体に宿る不思議な高揚感と力。
その正体は神聖魔法なのではないか。
そんな話が兵たちへと広がってゆく。
「まさかアルコア様が?」
「それしか考えられねぇだろ? ……しかしアルコア様の神聖魔法は白い光だったような?」
「なんでもいいじゃねえか。今は、あいつらをどうにかするんだ」
「あぁ、そうだな!」
彼らの中に先程までの絶望はもうない。
武器を握り、敵を見据える。
「いくぞーーー!!!!!」
「うおおおおおお!!!!!!!」
そうして彼らは、4倍以上もの戦力差へ挑む。
そこからは……半ば蹂躙に近い光景が広がった。
聖騎士たちの刃はなぜか彼らに通らず、10人がかりでも兵一人を殺せない。
中にはたった一人で100人の聖騎士を倒した者もいた。
数の優位は、神の気まぐれでもはや無いも同然と化していた。
『良かった、間に合ったぁ……』
緑色の〝風〟は、愛する街の危機に間に合った事を心底安堵するのであった。
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追記:前日譚となる短編を投稿いたしました。
ミルスさんや街の過去について触れています。《https://ncode.syosetu.com/n0098jq/》




