第23話 ヴェルディ、奔走す
明日はちょっと更新厳しそうなので、そのぶんを投稿です
「う、うぅっ……」
ヴェルディの瞳から雫が滴るも、滴り落ちることなく頬の毛に吸われてしまう。
――お姉ちゃん……いかないで。
――初めてボクを大事にしてくれた人が、『結婚』するために何処かへ連れて行かれちゃった。
――許さない、結婚なんて。お姉ちゃんはボクのものだ。ボクだけのものだっ!!!!!
――でも、お姉ちゃんはあいつを殺さなかった。殺せなかった理由があるんだ。
考えなきゃ……。でもはやくしないとお姉ちゃんが……
『落ち着きなさい。ラズリーちゃんなら大丈夫、まずは深呼吸よ』
「アルコアさん……?」
ヴェルディは脳内に直接響くアルコアの声に従い、深呼吸でうるさい心臓を落ち着かせる。
『落ち着いた?』
「……うん」
『私は距離関係なくラズリーちゃんと会話することができるわ。伝えたい事があれば気軽に言ってちょうだい。逆もしかりね』
「……お姉ちゃんはどうしてあいつを殺さなかったの? 何か理由があるんでしょ? だから、ボクに任せようとしてる」
『さすがはヴェルディちゃんね、その通りよ。街のどこかに設置型の爆撃魔法が仕掛けられたらしいわ。ラズリーちゃんを連れ去ったヤツの心臓が止まると起爆する仕組みみたいなのよ』
「……!! それをボクに探し出してほしいってこと?」
『そう。街そのものを人質にされてるの。設置された爆撃魔法の規模や数も分からない以上、ラズリーちゃんは従うほかない。けれどヴェルディちゃんが爆撃魔法をどうにかしてくれれば、ラズリーちゃんも自由に動けるってこと』
「わかった。ボクが必ず見つけ出すよ」
『ふふ、ラズリーちゃんから伝言よ。〝信じてるよ〟――ですって』
「お姉ちゃん……」
『ああ、あともう一つ。領主さんにも共有してほしいって。あいつらの目的はラズリーちゃんだけじゃないから』
*
「お、おはようございます」
「おや、君はいつぞやの獣人の子……ヴェルディちゃんだっけ?」
「あの。ベープさんに、用があって……」
ヴェルディは領主であるベープの館前へとやって来た。
そこでは警備兵がいつも退屈そうに船を漕いでいる。ヴェルディはそんな警備兵に声をかけ、ベープさんに会いたい旨を伝えた。
「そっか、けどごめんな。ベープさんは今忙しいんだ」
「あの! ラズリーお姉ちゃんが誘拐されたって伝えてください!」
「なんだって?」
彼らの中でラズリーという少女は、恐ろしく腕の立つ強者という印象だ。有事には力を貸してくれることもある、大切な街の仲間。
そんな仲間が事件に巻き込まれたというのなら、報告しない訳にはいかない。
「わかったよ。少しここで待っていてくれるかい?」
「ありがとうございます」
――数分後。
「待たせたねヴェルディくん。……他の人間に聞かれたくない話もあるだろう、館の中で聞こう」
ヴェルディはいつぞやの執務室へと案内された。派手さはない、モダンな雰囲気の一室だ。そこでベープは、ヴェルディをふかふかのソファに座らせて『事情』を聞く。
「ラズリーちゃんが誘拐された、というのは本当かい? 彼女の力なら大概なんとかなりそうだけど?」
「……街のどこかに、ばくげきまほー? を仕掛けられたんだって言ってた」
「……!!」
「お姉ちゃんが悪い人をやっつけたら、それが発動しちゃうんだって」
「……なるほど、理解しました。誘拐した相手に心当たりは?」
「えおすてら、って名乗ってた。お姉ちゃんはアルスとかいうやつと結婚させられるんだって」
「なんと……!?」
ベープは状況を完全に理解した。
『設置型爆撃魔法』を仕掛けられた、というのは事実としておこう。
そして、結婚――何かしらの契約の元ラズリー本人に何かをさせたいのだろう。その上で〝この街から引き離したい〟という意図も感じられる。
「もしや聖女ラズリーを不在にし、そこをまた〝軍勢〟で攻めるつもりか……? まずい、非常にまずい……」
熟考するベープ。
しかし彼の思考を切り裂くように、執務室の扉が勢いよく開かれた。
「ベープ様! 緊急事態です!! 農耕地帯の南10kmほどに武装した集団が確認されました! 目視ですが、その数は三千は下らないかと!!!」
「!!」
爆撃魔法の除去もしなければならないのに、軍勢と言っても差し支えない戦力が攻めてくる。この事態は詰みに近い。
「この街の戦力は500人……くっ、どう足掻いても無理だ。隣街へ援軍を要請する? 否、1日はかかる」
それでも、街を守らねばならない。
「拡声魔法で状況を伝え、農耕地帯の住民を市街部へ避難させろ! 隣街への救援要請もやれ!」
……ベープは理解している。そんなことをした所で、せいぜい一時間住民の死を先送りにするだけであると。
500人の戦力では時間を稼ぐ事すら不可能だ。
ここに聖女ラズリーがいれば、単身で数の差を覆せる特記戦力がいれば――
「ボクが戦うよ」
「!? 君、戦えるのか?」
「うん。実はボク、お姉ちゃんいわく〝聖女をも殺せる〟らしいの。だから、悪いひとたちはボクがやっつけるよ」
願ってもいない戦力だ。ラズリーと常に行動を共にしているとは思っていたが、まさかそれほど強いとは。
「子供を戦場に出すとはとても心苦しい……。しかしラズリーちゃんと常に共にいたという事は、あの擬装兵たちとも戦ったのでしょう?」
「うん。半分くらいやっつけたよ」
「なんと!! ……申し訳ない、この街をどうか頼みます……」
ヴェルディにとってもこの街は守りたい場所だ。
ラズリーと出会う前、飢えに喘いでいた頃に、食べ物を分けてくれた人たちがいる。優しくしてくれたおばさんもいる。
……死なせる訳にはいかない。
そうしてヴェルディは、『ラズリー以外の為に』戦いに赴くのであった。
*
「――!! ごめん、ここで停めてくれない?」
シリスの街の収穫祭を満喫し魔導車に乗って隣街へ帰ろうとしていたミルスは、不穏な気配を察知した。
シリスの街からはまだそれほど離れていない。察知できたのはそのおかげだ。
「隣街へはまだ徒歩で1日はかかるぞ?」
「いいの大丈夫。お金は払うからここで降ろして。もし何か問題があれば、この場所に連絡して。これわたしの住所だから」
「いいけどよぉ……」
お金も払われた魔導車の運転手は、しぶしぶ舗装された道以外に何もない平原でミルスを降ろした。
「ありがとう。行って」
「……気をつけろよ姉ちゃん」
車を見送ると、ミルスは他に誰もいないことを確認し懐から『紅い包み』を取り出し握りしめる。
「――」
何かを小さく呟いた途端――ミルスの姿は風に融けるようにして消えたのであった。
『面白い』『続きが気になる』『ヴェルディちゃん頑張れ!』
と思っていただけたらブクマと星評価をおねがいします。




