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第21話 おまもりを探そう!

「ん、おぉっ……?」


 ふみっ、ふみっ

 何かが私のお腹の上で交互に動いてるような……?


 明け方、私は正体不明の振動に目を覚ました。


 その振動の正体は……


「ヴェルディちゃん?」


 ヴェルディちゃんが寝たまま、お布団の上から私のお腹を両手で交互に踏み踏みしているではないか。


 なにこれ?


 猫がたまにやるっていうアレ?


 いや可愛すぎるでしょ? ピンクの肉球がたまらん。


「ヴェルディちゃ~ん?」


「うにゃ……」


 名前を呼んでも止まる気配はない。


「こうなればほっぺむにむにだぞ~?」


「うにゅ~~~……?」


 両のほっぺをつまんで横へ引っ張る。

 するとびにょ~んと伸びた。顔の面積が4割増しになるくらいに。


「うにょ……お姉ちゃんしゅき……」


 ここまでされてもまだ続けるか。

 寝ぼけてるのかわざとなのか……いやこれわざとだわ。薄目開けてちらちら私の様子見てるもん。


「もー、仕方のない子だねぇ」


 私が半身起こしてもまだ続ける。仕方がないので、私は寝ぼけたヴェルディちゃんを抱き締めて再び横になる。


 まだ明け方だもん? もっと寝ようよ。


「えへっ……」


 ふみふみは止み、代わりに私の首筋あたりに湿っぽい感触が当たる。ヴェルディちゃんのお鼻だ。


 このじっとり感触の上にスピスピ音がして、なんだかむずむずするなぁ。


 そんな私を横目に、ヴェルディちゃんはまた夢の中に落ちていったようだった。







 *







 ――なんてことがあった日のお昼過ぎのこと。


 今日は収穫祭二日目だ。

 今日もまたお祭りを楽しみたいね。なんなら昨日は飲めなかったお酒も超久々に飲んでみたい。


 最後にお酒飲んだのって、百年くらい前にアルコア様の『城』でいただいた黄金の蜂蜜酒以来なんだよね。


「お姉ちゃん、なんだか嬉しそう?」


「ふふーん、今日は久々にお酒飲んじゃおっかなって! ヴェルディちゃんも大きくなったら一緒に飲もうね!!」


「えへへ、ボクはやく大きくなるよ!!!」


「楽しみにしてるよ~?」




 ――




「お酒ぇ? ダメダメ、子供にお酒は売れないよ!!」


 私は泣いた。


 私はエルフだから見た目より歳いってるとか何と説明しようと、『子供にお酒は売れない』の一点張りでどのお店もダメでした。


 ……コンチクショウ。

 でもそれだけ法が守られて治安がいいって事だよね。ポジティブに考えましょ。


「お姉ちゃん……元気出して」


「ありがとうヴェルディちゃん……」


 うつむく私の頭をなでなでしてくれるヴェルディちゃんだけが癒しだよ。


『……帰ったら何かいいお酒出してあげるわよ』


 アルコア様もありがとう。


 よーし、お酒は帰ってから飲むとして、今はお祭りを楽しむことに全力だぁー!



「あぁっ!? 無いっ!!!」


 !?


 後ろからいきなり女の人の叫び声が響いた。

 思わず振り返って見ると――


「ミルスさん? どうしたんですか?」


「あぁ、ラズリーちゃんか。……ちょっと大事なものを失くしちゃってね」


 大事なもの?

 ……神様の、大事なもの?


 いやそれ絶対ヤバいやつじゃない? 見つけ出すために街を焦土にされたりでもしたら洒落にならない。


「さ、探すの手伝います!」


「いやぁ、さすがに申し訳ないよ、自分でなんとかす……」


「探させてください!!!!!!!!」







 ――と、いう訳でミルスさんの失くしもの捜索が始まった。


 見た目は掌に収まるほど小さな紅い布の袋、だそうで。中には石を削って作った人形が入っているとのこと。

 普段は鞄に入れてたそうだけど、さっきお財布を出そうと見たらなくなってたとか。


『御守りみたいなものでね』


 ……と言ってるが、御守りじゃないでしょそれ……。御神体とかそんな辺りの大事なものじゃない? あの焦りようから察するに、現世で活動するために必用なものなのだろう。



「見つかんないなぁ~……」



 落とし物なら落ちてるはず、なんだけどなぁ。ミルスさんの通ったという道は三人がかりで調べて回ったけど無かったし。


 となると可能性があるのは――


「スリ、かな」


 神様からスリとか罰当たりにも程がある。

 しかしそれだと、この大勢の中から犯人を見つけ出さなきゃいけなくなる。


 1度でも見たり触れたりしてれば探知能力や結界術で探せるんだけどなぁ。


「あの……やっぱりいいです、わたしでなんとかするので……」


「いやいやいやいや、大事なものなんでしょう!? 絶対に探し出してみせますよ!!!!」


 手がかり全くないけどね!!!

 万が一にも街を焦土にされる訳にはいかないの!!!!


 うんうんと唸っていると、ふとヴェルディちゃんが何か思い付いたようだ。


「お姉ちゃん、もしかするとボクなら見つけられるかも」






 *






「リューちゃんすっげえ、そんなのまでパクったんだ!?」


「へへ、おれにかかれば楽勝だっての」


 少年たちは歓喜していた。

 今日は年に二日しかないお祭り。だがバカな大人みたいに真面目に正攻法で楽しむなんてダサい。


 彼らは特にお金に困ってる訳ではない。家に帰れば母親の作る温かいご飯を食べれて、暖かい布団でぐっすり眠れる。

 生活に不満はない。


 ただ、刺激がほしかったのだ。


 間抜けな大人たちからバレないように、すれ違いざまにモノを盗む。より大きくて価値のあるものを盗めれば、『偉い』。


 彼らはそんな〝ゲーム〟にハマっていた。


 盗んだものに興味はない。用が済めば捨てる。ただ刹那的なゲームの達成感を味わうためだけに、愚かな子供は罪を犯した。





 *




「あの子たちで間違いない?」


「うん」


 ヴェルディちゃんの力に頼って私たちは、路地裏でたむろしている子供たちにたどり着いた。


 どうやったのかというと、ヴェルディちゃんの『嗅覚』だ。

 人間の体からはいろんな匂いが発せられている。汗、皮脂、分泌物や排せつ物……とにかくいろんな匂いを纏っており、ヴェルディちゃんはそれが分かるそうだ。


 そんないろんな匂いは人間に擬態(というより人間と変わらない肉体なのかも?)しているミルスさんも同様で、御守りに染み付いたミルスさんの匂いを追ってここまでやって来たって訳。


「んだよお前ら? ここはおれたちの秘密基地だぞ」


 目付きの悪い少年たち4人……歳は10くらいかな。

 身だしなみはしっかりとしてるあたりストーリートチルドレン……ではなさそう。


「単刀直入に聞くけど、“紅い包みに入った小石”に心当たりはある?」


「……! 知らねえよ」


「ふーん、そう」


 よし、あれを使おう。一瞬だけだけど、“嘘をつけなくなる結界”をだ。


「君たち嘘つきだね? 嘘はよくないよ?」


「はっ、だからなんだよ? ダッセエ大人に憧れてんのかおねーさん?」


「質問に答えてよ。盗んだよね? 紫色の髪の女の人から」


盗んでない(はい、盗みました)。……っ!?」


 突然の異常な現象に驚き、口を押さえるリーダー格の少年。


「り、リューちゃん!?」


「ち、違うっ、口が勝手に……!」



「他にも盗んだものはある? いつもやってるのこういうこと?」


やってねぇ!(いつも楽しんでいます)……っ!? 楽しんでねぇっ(とても面白いです)


 はぁ、ゲーム感覚か。生きるために仕方なくやってたのならともかく、こいつらに慈悲はいらないね。

 あんまり子供をいじめる趣味はないんだけど、こういうのを許すとろくな大人にならないからね。今のうちに摘んでおくとしよう。


 私は『嘘をつけなくなる結界』を解除する。


「盗んだものはどこにあるの?」


「い、言わねえ!!」


「リューちゃん! 相手はたかが二人なんだ! やっちまおうぜ!!!」


 うーん、私とヴェルディちゃんを倒して逃げようってつもりか。愚かなガキだ。


 少年たちは棒きれを持って私たちを囲むが……こんなの戦いにもなるまい。


 2秒ほどであっさりと決着はついた。

 そして私はリューちゃんと呼ばれていた体格のいい少年の顔を掴んで、そのまま持ち上げた。


「は、はなせっ……」


 宙ぶらりんになった足がじたばたもがくが、無意味。


「リューちゃんを離せ!」


「卑怯だぞ!!」


 子供はこれだから。

 ……いや、子供に限らないか。自分たちだけの内輪の世界が全ての人間は、愚かに歪んでいく。


 そして自分たちの内輪の『ルール』が通じないとなると途端に被害者面をする。


「言葉遣いには気をつけろよクソガキども? 貴様らは今瀬戸際にいるのだぞ? 生と死の。このまま目の前で握りつぶしてやろうか?」


「っ……!?」


「なぜ悪いことをしちゃいけないか、冥土の土産に教えてやるよ。――殺されるから、だよ? 〝私はあなたを害しません。代わりにあなたも私を害さないでください〟……それが社会の最低限のルールなのさ。それを破ったっていうなら、どうなっても文句は言えない」


「ご、ごめんなさい、ごめんなさいっ! 許してください!!!!」


「何に?」


「ぬ、盗んだこと、謝るからっ! リューちゃんを離して!!」


「謝ったから、何? 私たちは何を得られるの?」


「盗んだものを返します! もうこんなことしません! だからっ……」


 ミシミシとリューちゃんとやらの顔から異音が響く。


「ご、がっ、あぁ……」


 リュートちゃんとやらは苦悶に呻く。

 ……そろそろいいかな。


 さすがにこのくらいにしておくか。


「うぎゃっ!?」


 私はリューちゃんとやらを固まってる三人に投げつけると、もう一度問う。


「帰ったら家族には自分が泥棒をしてたって事を正直に話しなさい。

 あぁ、私の事は言っちゃダメだよ? 言ってもいいけど、その時はどうなるかわかるよね?」


 ぶんぶんと4人は首を縦に振る。

 これでいい薬にはなったんじゃないかな。


「じゃ、盗んだもの返して」


「こ、これです!」


「おっけー。他のは私のじゃないし、後で憲兵さんにでも白状した上で渡しなさい」


 そうして私はミルスさんの『御守り』を奪還した。

 怖がらせはしたけど、いきなり殺す気はさすがにないよ? だって子供だもん。


「確かに。……あぁ、そうそう。ひとつ言いそびれてたけど――


 次はないから。もしも次同じことしたら、お前らの頭を握り潰す」


「ひっ……」






 *







 ラズリーが彼らの元を去った後――


 少年たちは、命の危機が去ったことを心底安堵していた。


「リューちゃん、これからどうするよ」


「……もう、こんなことすんのやめるよ。真面目に勉強する」


 命の危機を初めて体感した彼らの心境は、見違えるほどに変わっていた。

 このまま大人になれれば、真っ当な人間になれるだろう。


 しかし――




「ねえ」


 ラズリーと共に去ったはずの獣の少女が、彼らの前に再び現れた。


「な、まだ何か……?」


「お姉ちゃんは優しいから許してあげたけど……ボクはそうじゃない」





 メキメキ――





 少女の姿が異形のものとなり、彼らすら一飲みにできそうな化物へと変貌する。


「ひ、ひいぃっ!?」


「や、やめてっ! こないでぇっ!?」


「たすけてママぁっ!」


『お姉ちゃんを傷つけようとしたこと、地獄の底で悔やめばいい』


 互いに縋りつく4人へと、怪物の鋭い牙の並んだ巨大な口が迫る。


 そこで4人の意識は失われた。










「ホントに食べちゃう訳ないじゃん。お姉ちゃんが許したんだから」


 口から泡をブクブク出してる4人に背を向け、ヴェルディはお姉ちゃんの元へと走り去ったのであった。

万引きキッズへの作者の私怨。



『面白い』『続きが気になる』『書籍化しろ!』

と思っていただけたら、ブクマと星評価をよろしくお願いいたします。


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― 新着の感想 ―
こええええええ!
孤児でもないから殺しちゃっていいのでは?とか思わんでもない。
正直ヒヤッとした!!! ヴェルディちゃんならやると思ってしまってた!!!!  でもこういう、大切な人が許したし仕方ないけど許すかって感じの考え方も好きだ……なんか信頼感というか、暴走してない愛というか…
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