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第17話 猟犬

昨日は投稿できず、その上遅れて申し訳ない……体調が優れません

 農村のあちこちから炎が立ち上っていた。

 煙の臭いのなかに、時折強い鉄の雑ざった生臭さが通り抜ける。


 逃げ惑う村人の背中を切りつけ、男たちは笑っていた――




「私は好きにしていからぁっ、娘だけはやめて……!!」


 頬を赤く腫らした女は、男の足に泣き縋り付く。しかし男は女に見向きもせず、壁際で怯える少女にしか興味はなかった。


「はっ、誰がてめえみたいなババァの体で喜ぶんだっての」


 男は視線を向けることもなく片手間に女の首を突き刺した。


「お母さんっ!!? お母さんっ! 嫌、いやぁぁぁぁ!!!」


 物言わぬ肉塊と化した母親の姿に、少女は壊れたスピーカーのように叫ぶ。


 直視したくない現実と、これから奪われる尊厳。


 少女は、帝国の『三角』の印のコートを纏った目の前の男を心の底から憎み、呪った。


 純潔を、尊厳を、命を。

 弄ばれ嗤われ悪戯に踏みにじられ。


『帝国』を、その場の誰もが憎んでいた。









 *








「がはははっ! 今回も大漁大漁! いい仕事だぜまったく!」


 オレの名はガル。しがない『帝国軍偽装兵第三部隊』の隊長をやっている。


 偽装部隊とは帝国軍の装備そっくりに作った服や鎧を身に纏い、村々を襲撃する『暁の星(エオステラ)』の秘密部隊だ。


 気取った帝国兵のコスプレをしてそこらの村から食い物や金品を頂戴し、暁の星(エオステラ)が活動するための糧にする。ついでに帝国への恨みも募らせてくれりゃ、一石二鳥。後続の部隊が『助けて』やりゃあとはみんな虜さ。


 つまりオレたちは暁の星(エオステラ)を支える重要な役割を任せられたエリートっつー訳だ。


「ガルさん見ろよあの女、ヤってる最中に糞漏らしやがったぜ! ぎゃははは!!!!」


「おーおー、可愛そうに。殺すなよ? できるだけ辱しめてから憎しみってやつを醸造してやるのさ」


 オレたちは慈悲深いからな、皆殺しにはしない。半数は生かして『帝国の悪評』を広めてもらう。


 暁の星という希望を掲げるためには、必要な犠牲ってワケ。



 奪うことが好きだ。


 犯すことが好きだ。


 辱しめる事が大好きだ。


 奪い犯し辱しめる事が何より好きなオレたちにとって、この仕事はまさに天職。


 しかも『正義』だ。

 オレたちは正しい事をしているのさ。


 さぁて、次なる任務はちっちぇえ村じゃなくて『街』だとか。

 大した戦力もねえ弱小貴族が領主らしいが、念のため偽装部隊の全てを動員して攻めるらしい。


 確定事項として領主を殺すことは決まってる。街を乗っ取るんだからな。


 2000人もの大所帯であの街を犯す……。ククク、今から興奮してきちゃったぜ。











 *









 日没後の闇の中、私の視界の先には『軍勢』が立ち並んでいる。確か2000人だっけ。ちょっとしたプチ戦争できるくらいの戦力はあるね。


 その誰もが帝国兵の服を着ている。……ほとんどが精巧な偽物。ちらほら本物を着てるのもいるね。帝国兵から奪ったのだろう。


 帝国の『三角』の刻印を使ってこうも悪事をされるとね……。見限ったとはいえ、古巣が貶されるのは少しムカつくな。


「ヴェルディちゃん、大丈夫?」


「大丈夫だよ、お腹ぺこぺこなだけ」


 お腹空いてるんだ? さっき食べたばかりのような気がするけど。まあ本人が空腹だけど頑張るっ! て意気込んでいるなら言うことはない。


 ほんじゃ撃退前にまずは一応は撤退勧告でもしておきますかね。



「これはこれは帝国の兵士さん方、夜分遅くにこのような大勢でシリスの街に何用でしょうか?」


 先頭に立ってる服装から高い階級と思われる人物へと話しかける。


「おやおや、お嬢さん方こそこのような暗い時間に街の外を出歩くとは危険ですよ? 街まで御送りしましょうか?」


「いいえ、その必要はありません。それより皆さん……帝国兵の服なんて着て何をしてらっしゃるのでしょう?」


「……!? こほん、これは妙な事を仰るお嬢さんだ。我々は紛うことなき帝国の剣、忠誠の刃でございますよ?」


 うーん。このまま御託のキャッチボールしてもいいんだけど、隣のヴェルディちゃんがきゅうきゅうお腹鳴らしてるんだよね。


 よし、さっさと建前だけの勧告しておくか!!


「……暁の星(エオステラ)の偽装部隊だろ?」


「こ、このガキっ……!?」


「さしずめシリスの街に襲撃してから本命の後続部隊とお涙頂戴の演劇でもするつもりでしょ? させないよ。警告はするね、即刻立ち去るなら危害は加えない。だがそれ以上進むなら、命の保証はしない」


 警告はしたよ。


「クックック……はぁっはぁっはぁ!!! おいこのガキずいぶんと推理力あるじゃねえか!!! しかしまさかこの2000の軍勢をガキ2人でどうにかできるとでも?」


「できるよ。だから警告してるの。さっさと答えろよ、撤退か開戦か」


「馬鹿にしてくれるなぁ! 開戦に決まってんだろうが! 野郎共、手始めにこのメスガキをマワすぞ!!!」


「お嬢ちゃんの体に大人の〝弱肉強食〟ってやつを教え込んでやるよ」


 ぴくりとヴェルディちゃんの耳が反応した。

 OK、答えは『死』ね。


「ヴェルディちゃん」


「はいお姉ちゃん!」


「お腹空いてるんでしょ? 好き放題していいよ? 怪我しないようにね」


「わぁい!!!」


 私の言葉にヴェルディちゃんは目を輝かせ――


『いただきまーす!!!』


 ――あの巨大な『魔獣』の姿へと変身した。そしてそのままどすどす地面を揺らしながら軍勢の中へと嬉しそうに飛び込んでいったのであった。







 ……〝いただきます〟?







 *









「まっ、魔物だ!! 陣形を組――」


 そう叫ぼうとした男の首が飛んで――そのまま、灰色の魔獣の口の中へ消えていった。


 魔獣――ヴェルディは神域にて行ったアルコアと戦いの修行により、『力』の扱い方を学んでいる。


『わははー! あははー! ごはんがいっぱいだぁ!!!』


 ヴェルディが走り回り爪を振るうと、ただそれだけで何人もの偽装兵が輪切りになって吹き飛んでゆく。そしてそれを空中でぱくっと食べてゆく。


「なんだあの魔獣!? 魔銃が効かねえ……!!!」


『銃』と呼ばれる、蕃人がここ近年に持ち込んだ武器を装備した何人かがヴェルディへと発砲するが……その毛皮にあっさりと弾かれた。


 ヴェルディはラズリーのように女神アルコアと契約し、複数の神聖魔法を扱えるようになっている。


 ――だが、それだけではない。



 禁術により〝魔獣キリム〟と変貌したヴェルディ。

 この禁術は、ヴェルディの肉体に無数のさまざまな動物を融合させた。


 そして『キリム』は、融合されたありとあらゆる動物の能力を瞬間的に行使できる。



 例えば今ヴェルディが使ったのは『ラーテル』の毛皮である。大きさは小型犬ほどでありながら、分厚い毛皮はライオンの牙すら通さない。これにより銃弾を防いだのである。


 そして、ヴェルディの右手に突如大量の『針』が生えて、何人かを串刺しにした。そしてやはり、そのまま口の中へと放り込まれてゆく。


 体毛を硬質化させ針のようにするハリモグラの能力だ。



「ちっ、近づけさせるなあの化け物を!!! 魔銃も魔術師もとにかく一斉に撃て!!!!」


 ヴェルディへと全方位から弾丸と炎の弾が襲いかかる――が、しかし。




 ヴェルディもまたアルコアの『祝福』を受けている。


 着弾する直前、ヴェルディの姿が消えた。


「な、なんだと!? どこへ消えた!?」


 ――その答えは、背後。


 ばくっと一口で何も理解できていない五人ほどを丸呑みにする。



 ヴェルディが与えられた神聖魔法『鋭空間支配(ティンダロス)


 空間を拡張したり『鋭角』を起点に転移したりと、極めて汎用性の高い能力だ。


 ふっと消えたかと思うと、背後で口を開け――


 これによりヴェルディは自らの胃袋の空間を拡張し数万人は収まるほどの容量を持たせ、好き放題に人間を食べ漁っている。


 そしてやがてはヴェルディは、進軍してきた2000人中の800人をそっくり胃袋に収めてしまうのであった。








『――けぷ』







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― 新着の感想 ―
すみませんちょっと自我出します  好きすぎるこの回!! いや素晴らしすぎませんかねぇ!? こういうかわいい子が!! 仮の姿を解いて暴れ回る!!! なんすか僕の好み知ってるんですか!?ってくらいぶっ刺さ…
ティンダロス…猟犬!?
出、出たー! 猟犬の王公認の鋭角だー!
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