第14話 ケジメ
今日は更新しないと言ったな、あれは嘘だ
気がつくと、ボクは真っ暗闇に一人立っていた。
いや、闇ではないのかな。自分の手や体は光を当てられたみたいにハッキリ見える。
ここはどこなんだろう?
夢、なのかな?
そもそもボクは何をしてたんだっけ?
なんだかとってもお腹が空いたなぁ。今夜はオムライスにしようかな?
うーん、それよりさっきなんだかとっても美味しいものを食べたような気が……美味しい、もの?
そうだ、思い出した。
ボクお姉ちゃんのことを食べちゃったんだ。
すごくすごく美味しかった。
蜜みたいに甘くて、ふわふわしていてとろとろで。
口の中でとろけて消えてしまいそうな、そんな味。
でも食べたのはボクの意思じゃない。
『お父さん』が命じた、ボクの中にいた別の誰か。その誰かが勝手にボクの体を動かしてお姉ちゃんを食べちゃったんだ。
でももう、その誰かはもういない。
お姉ちゃんがボクのお腹の中からその『誰か』をやっつけてくれたから。
その後は、お姉ちゃんを吐き出して……ボクはいつもの姿に戻って……
そこで記憶は途絶えている。
やっぱり夢なのかな。ここはどこなんだろう。
暫く進んでみると、ふと暗闇に何かが見えてきた。
『だ、だずげでっ……じにだぐ、ない……』
「お父さん?」
暗闇に、手足の無い『お父さん』が落ちてた。
『ヴぇ、ヴェルディ!? なんでてめぇがここに……いや、なんでもいい、助けてくれっ!! 俺様はまだ死にたくねぇっ!!!』
「……そっか。お父さんは『負けた』んだね」
『……? あぁそうだ! だから助けてくれ、ヴェルディ……!! またあいつらが俺様から奪っていくまえに……!』
相も変わらずなお父さんに、ボクは〝やらなきゃいけないこと〟を自然に理解していた。
親切な誰かがボクにこういう機会を与えてくれたのかな。
それとも、やっぱりただの夢なのかな?
『はやく、た、助けろ! ほら、〝お父さん〟に今までの恩返しをする時だろ? ここまで育ててやったんだから――』
うん、夢だとしてもいいかな。
これは〝ケジメ〟っていうやつなんだ。
ボクがこれから胸を張って生きていくために。
お姉ちゃんと一緒に笑って過ごすために。
必要なことなんだ。
『恩に着るぜヴェルディ……だがお父さんには、この通り手も足もなくてな』
ボクは『それ』に手を差し伸べて――
〝力〟を解放した。ボクの中にいた『誰か』がお姉ちゃんを傷つけるために使っていた力を、今度はボクの意思で。
『ヴェルディ? 何を……』
はは、お父さんが小さいな。
あんなに大きくて怖かったはずのお父さんが、今じゃもうてのひらより小さいよ。
――あぁ、お腹が空いたなぁ。
『ま、待て待て待てっ、やめろ、何をす――』
『〝弱肉強食〟だよ、お父さん』
そう言ってボクは、お父さんのお腹にかぶりついた。
『ぎゃあああああああっ!!!? やめ、やめてくれぇっ!!?』
一口で飲み込んじゃうのはもったいない。
少しずつ、少しずつ。味わいながらかつてお父さんと呼んでいたそれを、ボクはお腹に納めていく。
『す、ずまながった! 今までひ、ひどいことをした! 謝る! だから――』
『あむっ』
『あ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!?』
暗闇に真っ赤な汁が飛び散る。お父さんはボクに『ちゃんと美味しく残さず食べてね!』って言うみたいに踊ってる。
うんうん、1滴も残さずぜんぶ食べるからね。ボクは好き嫌いしない偉い子なんだ! お姉ちゃんに褒めてもらえるかなぁ?
『ぁ、ぶびゅっ……や、べで……だ、ずけ……』
そうだ、ちゃんとよく噛まないと。
えへへ。
もぐもぐ。うーん、やっぱりお姉ちゃんの方が美味しかったよ。
でもたまにはこういうのもいいよね。
――けぷ。
『ごちそうさまでした』
食べ終わっちゃった。
お腹いっぱい食べたからかなぁ。なんだか眠くなってきちゃった。
あぁ、目が覚めたらお姉ちゃんとまた……
お姉ちゃんの香りが恋しいなぁ。
*
ナラシンハがアルコアに滅ぼされた数秒後――
密かに暗躍していた『ヴンヴロット秘密教団』の支部のいくつかが壊滅した。
翌朝施設内には、信者たちの異様な死体が散乱していた。
皆、一様に体が裏返っていたのだ。内臓や骨や脳組織が外気に晒され、今際の際はさぞ悶絶していただろう。
その様相は、発見者いわくまるで『花』のようだと語られた。
ヴェルディちゃん編は次話でエピローグです。
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