第10話 自称勇者の力
我が家に引きこもってから、1週間くらいが経過した。
今のところ敵襲はなく、探知範囲内に殺気を放つ存在もいない。
探知をくぐり抜けるようなヤツもいるし、警戒するに越したことはないけどね。
「うにぁぁぁぁ~……」
そんな私の膝の上で、猫みたいな声を出してゴロゴロしているヴェルディちゃん。
過去を打ち明けてくれたあの日以来、ヴェルディちゃんはなんだか私に一層べったりくっつくようになった。
うんうん、よしよし。
ほんっとにこの子かわいいね。
こんな日常が続けばいいけれど、現実はそうもいかない。
「……! お姉ちゃん」
「うん、そうだね。ついに来たみたいだね」
突然結界のすぐ側に現れた、強い殺気。
人数は10人くらい。その中でも一際強い殺気を孕んでいるやつがいる。
「ちょっと行ってくるね。大丈夫、ちょちょいとやっつけてすぐ戻ってくるから!」
私の毛布にくるまったヴェルディちゃんを奥に隠し、外出するかのように装って玄関から外に出る。
「おや? 私に何かご用でしょうか?」
外に居たのは、白装束の人間10人ほど。
その中でも特別大柄で、フードから顔を出した強面の男。髪は灰色で、どこか遠くにヴェルディちゃんとの繋がりを感じさせる。
「とぼけんじゃねえ、俺様の息子を返してもらおうか」
「息子……? なんの事でしょう?」
息子?
いやヴェルディちゃんは女の子だし、違うよね。ついてないことはお風呂で確認済みだし。
え、とぼけるまでもなくマジで人違いじゃないの?
「ケダモノのガキ……ヴェルディの事だ。今すぐ渡すってんなら痛い目には遭わせねえぜ?」
「はて? 私の同居人は女の子なのですが……?」
「あ? ……あぁ、なるほど。性別変わっちまってるのか。まあ禁術だしな、そういうこともあるか」
……え? もしかしてヴェルディちゃんは元々男の子だった、ってこと?
『今さら気づいたのかしら?』
気づくわけないでしょーが!!
え、えぇ? じゃあ私って多感な二次成長期直前の男の子とお風呂入ったりしちゃってたってこと? 胸を押し当てたりしちゃってたってこと? とんでもねぇ痴女やんけ!!!
あまりにもあんまりな事実に呆然としそうな自分を諌め、私は真顔を崩さず目の前の『お父さん』から目を逸らさない。
「クックッ……しかし笑えるな、元から能無しだったのが玉無しにもなっちまったたぁ、こいつは傑作だぜえ!! うひゃひゃひゃひゃ!!!!」
「……何だと思ってるんですか?」
「あぁん?」
真顔は崩さない。
でも、私は我慢の限界だった。
「自分の子供を何だと思ってるんですか……!? 何故自分の子供を傷つけられる? 何故子供の尊厳を奪う事ができる?!」
「あぁ? 何言ってんだお前? 子供は親の所有物に決まってんだろ?」
「そうですか……。よく分かりましたよ、お前が自分の持ち物さえ大事にできない愚かな勘違いしたガキだって事が」
子供は親の所有物なんかじゃない。
そんな当たり前の事すらこいつは知らないのだろう。
そもそも1000歩譲って所有物だとしても、それを大切に扱えない奴の元にヴェルディちゃんを返す訳にはいかない。
「くはっ、ガキはそっちだろ? この寛大な俺様が話し合いで解決しようときてやったのに、それを蹴ったのはてめえの方だ。
もういい、ヴェルディはてめえを嬲り殺してからゆっくり探すとしよう」
「お前ごときが私に勝てるとでも?」
「物を知らねえガキめ。よぉく覚えて冥土に伝えておけ? この俺様は〝勇者ボルガ〟様だ!! 嘗て魔王を屠ったあの伝説のなぁ!!! 弱肉強食! この俺様こそが食物連鎖の頂点だって事を!!!!」
勇者ボルガ? あぁ、そういえば十数年前に西の方に発生した魔王を倒したやつがいたっけ。
それがこいつか。
「ふっ!!」
ボルガが剣を抜いて私へ斬りかかってきた。
確実に私を仕留められるよう、素早く無駄のない動きだ。
さすがは勇者。洗練されている。
だが、私からすればまだまだ青二才。
「甘い!」
「!!?」
私が行ったのは〝カウンター〟だ。ギリギリまで接近してから、結界剣の刃を顕現。足さばきでボルガの刃を避けつつ胴体に一太刀。
「ぐうぅっ! お前強いな!!!」
寸前、ボルガは後方へ飛び退いた。
一撃で身体を両断するつもりだったのに、腹の薄皮1枚しか斬れなかった。
さすが、と一応は心の中で称賛しておこう。
まあまだ様子見だが。
「おいお前ら! ヴェルディはあのボロ屋の中だ! 俺様がこのガキをぶっ殺すからお前らはヴェルディを捕まえてこい!!」
他の白装束たちはボルガの配下なのかな。
自分は私の足止めで、彼らに本命のヴェルディちゃんの捕獲を命令したけれど……
想定内なんだよね。
見えていないようだけれど、お家の周りには私の『結界』が張られている。
外敵に対して、攻撃を行う結界が。
バリバリバリバリッッッ!!!!
青白い電力が群がる白装束どもの体に迸り、焼き尽くす。
私とヴェルディちゃんに対して敵意や害意を抱く存在が結界に触れると、電撃が走るよう設定してあるのだ。
「な、まさか、神聖結界……!? って事はてめえ、聖女ラズリーか!?」
「ご明察。それでどうするのさ、もう諦めて帰っちゃう?」
「な、嘗めんなよ!!」
ボルガはこの私に臆することなく剣を振るう。
でももうその太刀筋は解っちゃった。癖とか動きの緩急とか、だいぶ分かりやすいね。
つまり、太刀筋を悟られる程度の実力しかない。
つまらないし、もう終わらせちゃおうか。
「神聖魔法――」
私は結界剣にいつもの絶対切断を付与。更に絶対防御と、雷撃魔法を込める。
「うおおおおっ!!!!」
ボルガは私の緋色に迸る剣に対して防御を試みる――が、無意味。
「――弱いね、あんた」
緋色の刃は、勇者と呼ばれた男の身体を袈裟斬りに引き裂いたのであった。
やったか!?(フラグ)
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