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第1話 お飾りの聖女

(短編を連載化させた作品は)初投稿です

「聖女ラズリー……いや、卑しい半人の国賊ラズリー! 貴様との300年に渡る契約を破棄し、国外追放とする!!」


 絢爛な謁見の間にがなり声が響き渡る。


 皇帝陛下にある日突然呼び出された私は、いきなりの追放宣言にこれは夢か何かじゃないのかと疑わざるを得なかった。


「グリフォニア陛下、せめて私を追放とする理由をお聞かせください」


「決まっておろうが! 貴様が『聖女』などと持て囃され300年もこの国に寄生し、贅を貪っておったからだ!! 女神様に祈るなど信心深くあれば誰にでもできる!!」


 は? 『聖女』としての仕事……女神アルコア様への〝お祈り〟や国防の要である神聖結界の構築が、寄生? それに自分の意思で贅沢なんてしたこともない。


 皇城の地下の小さな一室で、食べ物は自分の魔法で育てた野菜や果物のみ。衣服も国から与えられたものだけの最低限の衣食住で生きてきたというのに。


 あ、この生活は私が自ら望んでしてきたことだからね。物欲ぜんっぜんないの。



 ……いや、贅を貪ってるというのは建前なんだろう。


 恐らくは、私のことが邪魔になったんだろうね。


「それで……その真意は? 私がどのように邪魔になったのでしょうか?」


「フン、今言った事が真意だ。聖女はアルコア様と言葉を交わす事ができる、などと言う嘘にこの国は300年騙され血税を貴様の糞尿に変えられ続けてきたのだ!! この穢らわしいハーフエルフめが」




『くすくす……ほんとに〝嘘は〟ついてないみたいよ?』



 ……アルコア様、それマジすか?







 神聖帝国デルタノルド――


 建国からおよそ300年。この国は世界屈指の大国へと成長してきた。


 その大きな理由は、女神アルコア様による恩恵だ。この国に属しアルコア様を信仰する者は、その対価として『神聖魔法』の行使が可能になる。





 ……というのが表向き。


 実際は『聖女』である私がアルコア様に『お願い』して、国民たちに神聖魔法を授けてもらっているのだ。


 神聖魔法は武力としても産業としても何にでも応用可能で、この国のありとあらゆる運営は神聖魔法に大きく依存している。


 言ってしまえば私は国と女神様との仲介を担っているのだ。



 その事を皇族が知らないはずはない。


 だがアルコア様が『嘘はついてない』と言うからには、何か勘違いがあるのだろう。


「よいか、元聖女ラズリーよ。我は寛容であるから貴様を契約破棄と追放で済ませてやるのだ。

 ……アルコア様は信心深き全ての者に平等に祝福を授けてくださる。貴様1人が祈ったからといって、我らに祝福を授けるなどあり得ない。貴様のしてきた事はアルコア様への侮辱に他ならないのだ」


 落ち着いたのか急に穏やかに語りかけてくる皇帝グリフォニア。

 アルコア様は平等に祝福を授けてくださる……か。本気でそう思ってるあたり、もはや救いはあるまい。


 ……いや、他国へ神聖魔法を用い軍事侵攻を始めた先代皇帝の時から愛想は尽きていた。あの人は一代で帝国を築き上げた英雄王……なんて呼ばれているけど、実際はただ欲深いだけだ。


 それでも聖女を続けていたのは、かつて私を救ってくれた初代国王への恩義と契約に他ならない。


 けど、こうも蔑ろにされるならもういいや。私は聖女ではあるけど聖人君子でもなんでもないのだから。



「追放命令を受け入れましょう。ただし……」


「何だ?」


「1週間だけ、猶予を与えます」


 それだけ呟くと、私は謁見の間を去った。



 こうして私は、300年仕えた国を追放される事となった。










 *











 お城を出てからは、兵士に見張られながら『神聖結界』の外へ出ていくことになった。


 その道中の民たちからの視線は、どれも冷ややかで憎しみさえ混じっていた。

 時には罵声と共に石を投げつけられたりもした。


『血税を貪る屑女』という噂があらかじめ流されていたのだろう。


 ……昔はもっとみんないい人たちだったのにな。






 さて、私を神聖結界の外へと追い出すと、兵士さんたちは特に何もせずに去っていった。


 もっと何かされるかと思ったけど、まあ神聖結界の外なら魔物とかうじゃうじゃいるし食い殺されるとでも思っていたのだろう。


 生憎だけれど、私は神聖魔法に頼らずとも普通の魔法だけでめちゃくちゃ戦えるのです。


 それもこれもアルコア様が神域で修行をつけてくれたおかげだけれど。




 さてさて。断言するけど、この国は近々滅亡する。


 まず帝都をドーム状に包んで守ってる『神聖結界』なんだけど、あれは実は私の力によるものでアルコア様の神聖魔法とは関係ないんだよね。

 だから私がいなくなれば、結界の維持もできなくなりじきに崩壊する。


 アルコア様の力がなくとも、この結界があるだけで帝都は国の体裁を保てただろう。けど、私ほどの結界術の使い手は恐らくこの世界には存在しない。


 まあいくら説明しても信じてはくれなかったけど。




『――で、あいつらどうするのラズリーちゃん? 処す? 処す?』


「ステイステイ、まだだよ。一応は1週間猶予は与えてあげるつもりだからね」


 かつて神聖帝国の前身となる王国は、この私ラズリーと契約を結びアルコア様の御力を得た。私はアルコア様と契約しているけれど、神聖帝国そのものはアルコア様とは別に契約なんてしていない。


 そして国と私との契約は先ほど破棄されている。

 アルコア様にもはや帝国に肩入れする理由はない。


 けれど私は今までの義理で1週間だけ神聖魔法の恩恵の削除を先伸ばしにしてもらっている。その間に悔い改めて私に謝罪するようなら、再契約も考えてあげようかと思うけどね。


 ただまあ、そんな事は起こらない。断言できるね。


『これからどうするの?』


「うーん、1週間は帝都近くの森で野宿しようかな」


『私の神域で寝泊まりしてもいいのよ?』


「はは、それはさすがに畏れ多いよ~」


 女神アルコア様はとても気さくな御方だ。

 今夜の夕食の相談に乗ってくれたり、したことはないけど多分恋バナとかもいけるクチだ。


 しかし、アルコア様がなぜ私にここまで良くしてくれるのかは実はわからない。

 どうしてと聞いても、『知る必要はないわ』とはぐらかされる。


 そこが少し不気味だけど、害意は無いみたいだし、1人の友人として彼女のことを信頼している。


 これから1人で生きていくけど、寂しくはならない。


 さて、今日の晩御飯は何にしようかな。アルコア様、何かオススメってありますか?








 *






 ラズリーを追放した直後――皇帝グリフォニアは、暗部の者を密かに呼び出した。


「頃合いを見てラズリーを殺せ。……子供のような姿をしておるが、300年は生きている魔女だ、油断するでないぞ」


 先代皇帝は女神アルコアの名の元に数多の国を飲み込み帝国を築いた。

 それで気をよくしたのだろう、皇帝と対等でありながら政治干渉はしない契約の聖女すらも見下してしまうようになった。


 生まれついての帝王である今代の皇帝は、更に傲慢であった。


 『女神との仲介者』――そんなもの、嘘に決まっている。グリフォニアは祖先からの伝承を鼻で笑い、聖女ラズリーを贅を貪る国家の寄生虫であると信じて疑わなかった。


 しかし政治には関わらない――とはいえ、建国当時から国を形だけとはいえ支えている聖女。その影響力は絶大だ。

 自身と次代の権力を絶対のものとすべく、そしてある人物の助言もあり、グリフォニアは聖女ラズリーを地に落とすと決意する。


 ラズリーは滅多に街に出ることはない。記者を買収し聖女の悪評を吹聴させ、少なくとも帝都の民衆たちはラズリーを悪と認識している。

 それだけでなく、コツコツと長年をかけ貴族のような上流階級たちに『共通の敵』としてのラズリーの印象を植え付けた。


 そして、先日の追放。聖女の評判は地に落ちているとはいえ、処刑してしまうのは聖女を信仰する一部の因子を刺激してしまう恐れがある。


 故に、一見恩情ある追放という形とした上で誰にも知られない闇のなかで命を奪う。




 完璧な策であった。




 ……もはや女神は彼らを見捨てているという点に目を瞑れば、だが。

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― 新着の感想 ―
NPCを一気読みして影魔ちゃんも再度一気読みしたので、これを機にこれも一気読みしてやるぜ! (短編の方も当然読んだ)
[一言] 勘違いも甚だしいですね 300年も経つと、正式な記録も失せてしまい、正規の歴史さえ分からなくなってしまうんですね
[気になる点] >軍事侵攻を始めた先代王の時から >かつて私を救ってくれた初代国王への >かつて神聖帝国は、この私ラズリーと 王国の国王なのか、帝国の皇帝なのか
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