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その頃、ルベルトの周りでは (天の声視点)

先にこちらを片付けてから、過去の真相を。


今回、狡猾で胸糞な女の話となります。

ご注意を。

(∩´。•ω•)⊃[]イグスリドゾー


ルベルトは前日に、誰に言うともなしに事務所でつぶやいた。


「あぁ、このままでは期日に間に合わないな……仕方ない、明日は休日返上で事務所で処理するか」


そのルベルトの言葉に、同僚のひとりが声をかける。


「おや、オーヴェンくん、休日出勤かい?」


「あいにくそうなりそうだ。持ち出し禁止の資料があるからね」


「ああ、それなら持ち帰りができないから事務所に来るしかないね。ご苦労さん、頑張って」


「ありがとう」


そのやりとりを、アラベラ・マルソーは黙って聞いていた。







そして迎えた翌日。

ルベルトは前日に告げた通りに事務所へと訪れた。


鍵を開けようと鍵穴に差し込もうとすると、既に解錠されており部屋の中に誰かがいた。


(……かかったな)


ルベルトはドアノブに手をかけてドアを開ける。


そしてやはり室内には、ルベルトが想定していた人物が立っていた。


ルベルトはその人物の名を口にする。


「……マルソーさん」


ルベルトが来たのに気づいたアラベラがその姿を見て微笑む。


「オーヴェンさん、お仕事ご苦労さまです」


ルベルトは今日必ずアラベラがやってくると確信していた。

ここ数日、アラベラはルベルトと二人きりになろうと躍起になっていたから。


二人でランチに行かないか。

資料室の書架の高い棚の本を取ってほしい。

給湯室に虫が出たからちょっと来てほしい。


アラベラはそうやって何度かルベルトを誘い出そうと試みていた。

しかしルベルトは“今ではない”と、その都度のらりくらりと躱して避けていたが。



でも昨日、敢えて休日の事務所に来るとアラベラの耳に入れて彼女をおびき寄せたのだ。

なんのために?……それは当然…………



「休日なのに、どうして事務所へ?」


ルベルトは何もわからないフリをしてアラベラに尋ねる。

対するアラベラはゆったりとした足取りでルベルトに近づき、上目遣いで答えた。


「あなたが休日であるにも関わらずお仕事をすると聞いて、少しでも助けになりたくて来たの」


いつもは敬語で話す彼女が砕けた口調でそう言い、

休日のプライベートな雰囲気をルベルトに当ててくる。


ルベルトとアラベラの距離は林檎一個分の近さだ。

いつものルベルトならアイリル以外の女性にそんな距離で接することはない。

彼のパーソナルスペースは広いのだ。


ルベルトはアラベラを見下ろしながら言う。


「……あいにく、事務員のキミに手伝ってもらうような作業はないんだけどね」


「でも、お茶を淹れたり疲れたらマッサージをしたりと、何かとケアができるわ」


「お茶なら自分で淹れられるし、疲れたら婚約者に慰めてもらうから間に合ってるよ」


「あの魔法店に務めている可愛らしいお嬢様ね。……でも、あんな初心(うぶ)な子にあなたを慰めることなんてできるのかしら?」


「……どういう意味かな?」


「そのままの意味よ。……ねぇ、本当は私の気持ちがわかっているんでしょう?」


「キミの気持ち?」


「意地悪な人ね。わかっていてシラを切るんだから。いいわ、本当は自分から言うのは主義に反しているのだけれど……私、あなたのことが好きなの。ねぇ、夫に先立たれた寂しい心を温めて……?」


アラベラはそう言ってルベルトを見つめた。

潤んだ瞳から発せられる、熱い視線をルベルトの視線にからませて。

だがルベルトの瞳に()()()()()も見られないことがわかり、彼女は内心舌打ちしながら次に人差し指に指輪をしている右手でルベルトの頬に触れようとした。

先日、ゴミが付いてるとルベルトの首筋に触れようとした同じ右手で。

あの時と少し違うのは指輪の種類が変わっていることである。


ゆっくりと、ゆっくりとアラベラの手が近づいてくる。

ルベルトはそれをただ黙って見つめていた。

それを肯定と捉えたアラベラが目を細めて薄く笑う。


“男なんてみんな同じね”


そんな見え透いた考えがその笑みから感じ取れた。


(前回は失敗したけど、今度の()()()は大丈夫なはず)


アラベラはそう確信していた。

今日こそは、この最本命のルベルト・オーヴェンを堕とせると。

これからの自分の人生のパートナーとして最も相応しい男。

今は伯爵家の令息でやがて平民になるとはいえ、出自が貴族だという箔は残る。

堅苦しい貴族の妻になりたいわけではないアラベラにはちょうど良い、見目も魔法弁護士という肩書きも申し分ない相手なのだ。


アラベラは親子以上に歳の離れていた夫亡き後、これからの自分を養ってくれる優良な男を求めて魔法律事務所の事務員という職を選んだ。


平民や下級貴族の中でも、魔法弁護士は花形の職業だ。

高給取りな魔法弁護士の妻というだけで誰もが羨む、そんなステータスが市井にはある。

そしてアラベラは勤め出したときから、ルベルトに目をつけていたのだ。


優秀な弁護士として事務所のエースと呼ばれ、高身長で端正でありながらどこか甘さも感じる顔立ちはアラベラの好みど真ん中であった。

婚約者がいると聞くがそんなの関係ない。

必ずこの男を自分のものにしてみせる。


アラベラはこれまで何かとアプローチをしてルベルトにモーションをかけてきた。

が、この男……まったく靡かない。

どうやらまだ小娘である婚約者に相当入れ込んでいるらしい。


(聞けばまだ女学院に通うようなガキだそうじゃない。私の方がいろんな悦びを味合わせてあげられるのに)


きっとまだルベルトは童貞に違いない。という大きなお世話な決めつけもして、アラベラは更にムキになってルベルトにモーションをかけた。

〈あからさまな誘惑は所長に見つかれば事務所の風紀を乱すとクビになる恐れがあってできなかったが〉


だがどれだけ優しくしようとも、彼を特別扱いしようとも、さり気に色目をつかおうとも、ナチュラルにボディタッチをしても、ルベルトはアラベラに興味すら抱かなかった。


(この私がここまでして堕ちない男なんてはじめてよっ……こいつ、不能なんじゃないのっ?)


とこれまた大きなお世話な決めつけをしながら内心歯噛みをする。


アラベラは半ば意地になっていた。

どうしてもルベルト・オーヴェンを手に入れたい。

(かしず)かせて愛を乞わせたい。


アラベラは違法魔道具の闇売買を生業としている亡き夫の弟を頼った。


既婚者である義弟とは夫が病に倒れ昏睡状態になっているときに、“慰め”と称して一度だけ体を重ねたことがある。


その義弟に強請り、魅了魔法(チャーム)と同じ効果を得られるネックレスを手にいれた。

もちろん国に製造も所持も禁止されている違法魔道具である。


だがそんな綺麗事なんて言っていられないしどうでもいい。

欲しいものを手に入れるためならどんなことでも平気でする。

アラベラとはそういう人間であった。


そしてアラベラは魅了ネックレスを用いて、ルベルトにモーションをかけた。

使用方法は簡単だ。

魅了ネックレスに触れながら相手の目を見るのだ。

できるだけ恋情をこめて。

その恋情を魔道具を媒介として相手の瞳から深層心理に送り込む。

するとたちまち相手の心理に自分への疑似恋情を植え付け、愛していると錯覚させるのだ。

……相手の心に隙間があればの話だが。


結果的にいえば、ルベルトに魅了をかけるのは失敗であった。


(どうしてよ!心に隙間とやらが無かったから術にかからなかったのっ?隙間が無いってどういうこと?何かでギッチギチだってことっ?)


アラベラは内心だけでなく実際にも歯噛みをして悔しがった。

しかし諦めが悪いのがアラベラ・マルソーという女である。


彼女はもっと確実に相手を堕とせる魔道具を義弟に要求した。

そのためにまた関係を迫られて面倒くさかったが、本命を手に入れるためにはやむを得ないと相手をした。

そうして今度は物理的に直接相手を操る魔法薬を注入できる指輪タイプの魅了魔道具を手に入れた。

当然指輪(魔道具)自体も違法であるし、中に仕込まれている魔法薬も違法なものである。


それを使用するためにアラベラは首に何かゴミが付いていると嘘をついて、ルベルトの首筋に触れようとした。


が、その瞬間バチンッと何かに指ごと弾かれた。

指には強烈な痛みが走り、魔道具は一瞬で損壊した。

ワケがわからず狼狽えるアラベラに、ルベルトは飄々とした様子で『自分には防御魔法をかけている』と言った。


(は?防御魔法っ?ふざけんじゃないわよっ!)


アラベラは途端にバカバカしくなった。

ルベルトは欲しい。

欲しいが何をどうしても堕ちない男に時間や労力をかけるのは惜しい。

まぁかといって諦めるわけでもないのだが。

時間は有限だ。

対ルベルト攻略の良い方法が見つかるまで、キープとなる男を用意しておこう。

アラベラはそう思い、それからは水面下で他の数名の男たちにアプローチをはじめたのであった。


それが功を奏したのか、

ルベルトがいきなりアラベラに近づいて来るようになったのた。

何かと用事を見つけてはアラベラに声をかけてくる。

そして彼の方からアラベラを含む事務所の皆にランチを共にすることを提案してきたのだ。


(本当は私と二人でランチをしたいけど、まだ婚約中であることを気にしているのね。弁護士は世間体が大切だものね)


と、アラベラは悦に浸った。


そうして常にさり気なく彼の隣を陣取り、ルベルトをヤキモキさせるために時々他の男(その者は既に軽い魅了をかけてある)にボディタッチをして見せつけるなどをしてアラベラは時を待った。


今ならきっと簡単に魅了(チャーム)に引っかかるはずだ。


そう思ったアラベラは新たに指輪タイプの魅了魔道具(言うまでもなく違法)を用意して二人きりになるチャンスを待ったのだ。


だがなぜか中々チャンスが訪れない。

二人きりになれるように適当に理由をつけて誘ってみてものらりくらりと躱されてばかり。


そうやって苛立ちを募らせていたときに、ルベルトが休日出勤をすると言っているのを耳にしたのだ。


来た。好機だ。このチャンスを逃してなるものかと、アラベラは休日の事務所でルベルトが来るのを待っていたのだった。


そして今、ようやくそのときが訪れようとしている。


指輪(魔道具)を嵌めた手で彼に触れ、その瞳を覗きこむ。

そしてアラベラを愛していると、真実愛するのはアラベラだという感情を植え付けるのだ。


もうすぐ。

あともう少し。


そしてアラベラはルベルトの頬に触れた。


(あなたは私のものよ、ルベルト・オーヴェン)


ルベルトの青い瞳を見つめようとしたその瞬間。


ドンッ!!


「ぎゃあっ!!」


前回の比ではないくらいの衝撃でアラベラの体が弾かれた。


後ろに弾き飛ばされ強かに尻を打ったアラベラの頭上から冷たい声が下りてくる。



「そこまでだ。アラベラ・マルソー。違法魔道具使用の証拠記録、確かに取らせてもらったぞ」





知ってました?


“モーションをかける”って、タヒ語なんですって……


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