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アイリル、何かを詠まされる

あの雨の休日からの休み明け。


落ち着きを取り戻した様子で、ルベルト様はランチタイムの魔法店を訪れた。


その手に何やら大きな本を携えて。


「リル、これからしばらく事務所の連中とパワーランチを共にすることになったから一緒に昼食は食べられないんだ。ごめんね」


心底残念そうにするルベルト様。

彼ったら私も同じように残念に思っているのを前提に言うものだから、私の反発心がワキワキと湧き上がってしまう。


「謝る必要はないわよ。もともと私は食材がもったいないから仕方なく一緒に食べていただけだものっ。別に一緒にランチをしたいわけじゃないわ」


ツンとしてそう言う私を、ルベルト様はなぜだか安堵の表情を浮かべて見つめていた。

ど、どうしてそんな目で私を見るのかしら。

あの雨の日からどことなく、ルベルト様が変わったように感じるのは気のせいかしら……。


そんなことを考える私を他所に、ルベルト様は店内に客がいないのを確認してから手にしていた本を店のレジカウンターの上に置いた。

見ればとても古い魔導書だった。


「……これは?」


私が尋ねるとルベルト様は本のページをパラパラと(めく)りながら答えた。


東和連邦(東方の国)の古い魔導書だよ。この中に、ぜひリルに()んでみてほしい箇所があるんだ」


「え?《《読む》》の?私が?どうして?」


「とても大切で必要なことなんだ。だけどこれは本人が詠唱をしなければならないから、リル自身に口に出して詠んで貰いたいんだよ」


「でも私、東方の言語なんて()()ないわ」


「大丈夫。リルに()()上げて欲しいところをこの国の文字で起こしてあるから、これを詠んでくれればいい」


ルベルト様はそう言って私にペラリとメモ用紙を渡した。

たしかにこれなら私にでも読めるわ。


「じゃあリル。口に出して、一語一句間違わずに詠んで」


「もう……なんなの?」


なぜルベルト様が私にこんなことをさせるのかワケがわからない。

だけど真剣な表情の彼を見たら拒否なんてできなかった。


私は仕方なく、ルベルト様に渡されたメモに書かれた文字を読んだ。


『汝、我の求めに応えよ。

我は其方の力を求めし者なり』


…………?

読んだけど……それだけ?

術式みたいだから口にしたら何かが起こるのかと思ったけどとくに何も起こらないわね。

一体なんなのかしら?

と私が首を傾げるのと同時に、ルベルト様が「よしっ」と言い、商品を陳列していた魔法店の店主(旦那の方)が「うわあっ!?」と大きな声で悲鳴を上げた。


ルベルト様も店主も私の後ろの遥かに高い位置に視線を留めている。

ルベルト様は満足そうに、店主は驚愕に満ちた顔をして。

そして二人で何やら話している。


店主(オーナー)、貴方はかなり優秀な魔術師なんですね。そんじょそこいらの者では《《アレ》》を見ることも感知することもできないのに」

「あ、あれはっ……東和の……?」

「そうです。でも他言無用に願います」

「いや誰かに言ったとしても普通は見えないんだからこっちが変人扱いされちゃうよ。変人扱いは慣れてるんだけどね」

「アハハ」


「なによ?二人でコソコソと。なにを話しているの?」


私が二人にそう言うと、ルベルト様も店主も「いや?」「知らない方がいいこともあるよ」と言ってヘラヘラと愛想笑いを浮かべた。


なんかイヤな感じだわ。


ジト目になる私に、ルベルト様は「じゃあそういうことだから」と言って事務所へと戻って行った。


そういうことってどういうことよ。


でもルベルト様が言った通り、次の日から彼が魔法律事務所の人達と街へランチに出かける様子を目にするようになった。


その中に、ルベルト様の隣で美しい笑みを浮かべるアラベラ・マルソーさんがいたのは言うまでもないのかもしれない。


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