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お見舞いの品

「う~ん……何がいいのかしら……」


「なに?何か悩みごと?」


私が勤め出してからすっかり恒例となった、ルベルト様とのランチタイム。

ルベルト様もお忙しい方だから毎日というわけにはいかないけど、都合のつくときはいつも私をランチに誘いにくる。


今日もランチ(どき)に近くのデリで購入したというチーズやハムやハーブペーストとパンを携えて魔法店にやって来た。

美味しそう。

べ、べつにすっかり餌付けされてるとかそういうのではないんだから。

ただ食べ物に罪はないものね、余すことなく食べてあげなくては。

仕方なく、ね。


私は仕方なく、それらの食材を受け取って魔法店の小さなキッチンでブルスケッタを作った。

そして仕方なく、二人分のお茶を淹れる。


そうやって今日も仕方なくルベルト様と一緒に食事をしている最中に私がひとり()ちた言葉をルベルト様が拾ったの。


私は彼に答える。


「悩みごととは少し違うの。病気療養中のジネット先生のお義母様に何かお見舞いの品をお届けしたいと思っているのだけれど何がいいのかしらと……」


「ああ、なるほど。普通に花や果物とかは?」


「それはもう、体調を崩されたとお聞きしたときに贈ってあるのよ。お義母様の体調が良くなっているとジネット先生のお手紙に書いてあったから、それなら今度は何かお慰みになるものをと思って……ほら、ずっとベッドにいると気が滅入るでしょう?」


私がそう言うとルベルト様は頷いた。


「確かにそうだね。……そうなると、小説とか画集とか本を贈るのはどう?」


「私も本がいいなぁと思ったんだけど、一体どんなジャンルの本を贈ればいいのか迷ってしまって……」


「それなら東方の国の書籍はどうだろう。俺の先生に聞いたことがある。先生のお母上は東方の時代劇や俳優が大好きで、とくにムギリョウタロウという往年のスターの大ファンなんだってさ。ちょうどそのムギリョウの没後十年を追悼して写真集が発売されるらしいよ」


「まぁ、それはいいわね!それにするわ」


「なんなら伝手(つて)ですぐにでも写真集を入手できますよ?御用立ていたしましょうか?アイリルお嬢様」


「なんだかその仰々しいもの言いが釈然としないけれど、すぐにでもお届けしたいからお願いするわ」


「かしこまりました我が姫君。それとついでと言ってはなんだけど本を届けるのも請け負うよ。来週、久しぶりに先生に会うんだ」


「え?ジネット先生の旦那様にしてルベルト様の魔法の先生でこの国の筆頭魔術師のあの方に?」


「うん。少し気になることがあってね。その相談をしたくて。だからリルの見舞いの品は先生に渡しておくよ」


「それならお願いしようかしら。それにしても、気になることってなぁに?」


「色々と確定したら話すよ。まだ俺の推測に過ぎないことだからね」


「そう。わかったわ」



ルベルト様の気になることが気になるけれど、本人がまだ話す段階ではないと判断したのなら仕方ないわね。


まぁそれをいうなら私の方にも気になっていることはあるもの。


ルベルト様の恋のお相手であるアラベラ・マルソーさんなんだけど、同じビルで働いているのだから当然何度か顔を合わせるわけで。

だけどその度に彼女、違う男性と一緒にいるのよね。

ルベルト様の同僚の男性だったり、同じビルで働く違う職種の男性だったり……。

ルベルト様はそのことをご存知ないのかしら?


婚約解消を告げられるまであと三ヶ月を切ったというのにルベルト様は相変わらずな調子だし、(どう見ても仕事以外の時間をほとんど私に費やしている)アラベラ・マルソーさんと逢瀬を繰り返しているようには見えないのよね。


二人の恋って、婚約解消を告げられた日に近接して始まったのかしら?

それとも私が知らないだけで、ルベルト様とアラベラ・マルソーさんは秘密裏に逢瀬を重ねているの?


あぁ考えれば考えるほど胃がムカムカするわ。

考えたってなるようにしかならないんだから、今はこの美味しいブルスケッタのことだけを考えましょう。

そうやって私はまた、ぱくりとブルスケッタを頬張った。





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