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閑話 過去のアイリル。オーヴェン伯爵家訪問

※今回は閑話としまして、前世(過去)のアイリルがルベルトの生家であるオーヴェン伯爵家へ定期的に訪問していた際の様子を、前世(過去)のアイリル視点でお届けいたします。



「はぁ……」


私はもう何度目かわからないため息を馬車の中でついた。

それを見たメイドのサラが私に言う。


「お嬢様。ため息ばかりつかれても、オーヴェン家への月に一度の訪問は無くなりませんよ」


「わかっているわ……でも、ルベルト様のお父様(伯爵様)がどうしても苦手で……。だって、いつも私のことを怖い目で見てくるのよ……?」


「オーヴェン伯爵様は元々お顔が(いかめ)しいお方なのです。それに、お嬢様が伯爵様の前でおどおどビクビクされるのも良くないのでございますよ」


「だって……だって……」


「だって、ではございません。いずれお義父上になられるお方です。いつまでも苦手意識を持って逃げまわっておられないで、良い関係を築けるように歩み寄られてはいかがです?」


「い、いやよ……こ、怖いもの……何か粗相をして叱られたらどうするの……」


「叱られるような粗相をなさらなければいいのです」


「無理よ……誰か私の代わりに伯爵様にご挨拶をしてくれないかしら……」


「お嬢様。いつまでもそんな全てにおいて他力本願ではいけません。……困りましたねぇ。これからはいつものお勉強に加え、社交を磨く練習をされる方がよろしいでしょうね……帰ったらロワニー先生にご相談されてはいかがですか?」


「でも……ジネット先生はこの頃、素敵な男性とお付き合いを始めたばかりでとても幸せそうなのよ。それなのに通常のお勉強以外にもお手間を取らせてデートの時間が減ってしまったら……申し訳ないわ」


「ではおひとりでなんとか社交を磨く努力をされる他ありませんね。もちろん私も精一杯お手伝いはさせていただきますが」


「ひ、ひとりだなんて無理よ……何をしたらいいのかわからないもの。だ、誰かに決めてもらわないと……」


「お嬢様……もう少ししっかりなさいませんと、後々(のちのち)ご苦労をされるのはお嬢様なのですよ」


「もう充分苦労しているわ……」


「はぁ……」


「サラだってため息をついているじゃない」


「お嬢様のが感染し(うつり)ましたね」


「ふふふ……」


サラとそんなことを話すうちに、馬車はオーヴェン伯爵家へと到着した。


バーキンス家(我が家)の馭者が馬車の扉を開ける。

するとそこにはいつも通りにルベルト様が立っていて、私を出迎えてくれていた。


「やあ。来たね、アイリル嬢」


ルベルト様はそう言って手を差し伸べてきた。

私はその手を取り馬車を降りてエスコートを受ける。


「ごきげんようルベルト様」


私が挨拶をするとルベルト様は穏やかな笑みを向けてくれた。


「また少し背が伸びたのでは?」


「そうですか?私ももう十七歳になるのでそんなには伸びないと思うのですが……」


「ん?そうなのかい?僕が十七の頃なんてまだまだ伸び盛りだったけどな」


「ルベルト様はとても背が高くていらっしゃるものね」


「縦にばかり伸びた自覚はあるな」


「ふふふ……」


「……」


「……」


会話が途切れてしまった私とルベルト様。

その後ろを歩いていたサラが遠慮がちに言った。


「発言を失礼いたします。お嬢様の身長はそんなにお変わりはございませんが、男性と女性では成長期にズレがございますからオーヴェン伯爵令息様がお嬢様の年齢の頃にはまだまだ伸び代がございましたのでしょう」


「なるほどね。男女の差か、確かにそうだ」


「サラの言うとおりね」


私はお喋りが得意ではない上に、大好きなルベルト様にお会いすると緊張していつも以上に口下手になってしまう。だからこうしてサラがよく会話を拾って話を広げてくれるの。

サラがいないと会話が途切れてしまったときにどうしようかと不安になるわ。

ルベルト様もどちらかというとお父上に似て口数の少ない方だから本当に困ってしまう。


まぁ私は何もお話しなくてもお顔を見れただけで嬉しいけれど、ルベルト様はどう感じておられるのかしら。

知りたいけれど知るのが怖いわ……。


そんなことを考えているうちにお屋敷の玄関を通ってエントランスに着いた。

そこからまずはルベルト様のお父上であるオーヴェン伯爵様にご挨拶に伺うのがいつものルーティンになっている。


ルベルト様が執務室のドアをノックすると、オーヴェン伯爵家の家令が対応してくれた。

入室の許可が出たのでルベルト様に連れられて執務室の中へと足を踏み入れる。

入り口から向かって正面の大きな窓を背にして置かれたデスクを前にして座るオーヴェン伯爵様と目が合った。


私は慌ててカーテシーをしてご挨拶をする。


「ご、ごきげんよう、お邪魔しておりますオーヴェン伯爵様っ……」


私の挨拶を受け、オーヴェン伯爵様の重く静かな声が執務室に響く。


「……よく来たアイリル嬢。息災そうで何よりだ」


「お、おかげさまで、元気にしておりますわ……お気遣いいただき、ありがとう存じます……」


「……」


「……」


「……」


オーヴェン伯爵様も私もそしてルベルト様も次の会話が見つからず黙ってしまう。

ここで私が気の利いたお話でもできたらいいのだけれど、そんなのは無理。絶対に無理だわ。


「……じゃあアイリル嬢、いつものサンルームへ行こうか。お茶の用意ができているんだ」


ルベルト様がそう言ってくれたおかげで退室のタイミングができた。

私はほっとして頷いた。


「はい。そ、それでは伯爵様、失礼いたします……」


「……ああ。ゆっくりしていきなさい」


「は、はい。ありがとうございます」


私は再びカーテシーをして、ルベルト様に連れられて執務室を後にした。


はぁ……

心の中で盛大にため息をつくと、執務室の外で待機していたサラと目が合った。


“その様子ではまたおどおどしてしまったんですね”

というサラの無言の圧に肩を(すく)めるしかなかったけれど。


その後はいつもとおりにルベルト様とサンルームで時折サラの助け舟を得ながらお茶をいただき、いつもとおりにオーヴェン伯爵家の庭園を案内してもらい、いつもとおりの時間に帰宅の途に就いた。


はぁ……疲れたわ。

ルベルト様にお会いできるのは本当に嬉しいけれど、とにかく疲れたわ……。


ルベルト様との交流は毎回我が家だといいのに。

私はもともと外出もあまり好きではないし……。


今回の訪問もいつも変わらない感じだったから、お父様にもジネット先生にもとくに報告することはないわね。


私は帰りの馬車に揺られながら、そんなことを考えてまたひとつため息をついた。






前世(過去)のアイリルはかなり引っ込み思案だったようですね。

ルベルトもなんか堅い?


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