87 のしかかける部隊長
「アワーフレッタさん。もう少し負荷を軽くしてもらえませんか?」
「あ、はい。ただいま」
徐々に負荷が軽くなっていきました。これはお城を出ようと考える数歩手前の負荷くらいでしょうか。
「……あんたがどんな非常識な事をしていたのか。身をもって知ったわ」
息絶え絶えでやっと四つん這いに状態になるエリンナ。
「負荷を解除しますね」
とアワーフレッタさん。
「里の出なだけあって、今くらいなら大丈夫なんですね。では、加減も分かった所で、ここから体を慣らしていきましょうか。あ、そちらの皆さんも一緒にどうですか? アワーフレッタさんに鍛えられているんですよね?」
エリンナに回復魔法をかけつつ、負荷の中での組体操とか、組み手なんて言うのも集団で訓練してる感じが増して良いなと思いました。
「あ、良いですね。さあ、全員聖女様の近くへ」
部隊長らしく、威厳ある振る舞いで指示を出すアワーフレッタさん。
それに比べ、部隊員の死地に向かわんとする表情は何でしょう。鍛え方が足りないのではないでしょうか?
「ちょっと待って。あなた達、全員集合」
何故か部隊の人達を引き攣れ、円陣を組みだすエリンナ。
「エリンナさん、どうしたのでしょう?」
小首を傾げ、彼女達の方を見るアワーフレッタさん。
声も潜めているので、普通の人は聞き取れないでしょうが、私にはエリンナ達の間でどのようなやりとりが行われているのか聞こえていました。
「あなた達。負荷魔法の訓練で褒められた事は?」
「無いですよ。聖女様はこれくらいすぐに克服しましたよとか言われ続けています」
「負荷の中で運動も出来ないなんて軟弱だって言われます」
「さっきの私を見て、耐えられそう?」
「ムリっす。多分、普段より重いっす」
「よーし、ちょっと待ってて」
エリンナがこちらを向きました。
「アワーフレッタさん。先ほどの負荷は、彼らの普段の訓練と同じですか?」
「いえ、倍ですね」
「分かったわ。ありがとう。はい、再集合」
また円陣を組むエリンナ。
その後、この死線を生きて乗り切ろうと、何故か部隊長のようなポジションで皆を鼓舞するエリンナを中心に団結していました。
「それじゃあ、行くわよ。オー」
彼女の呼びかけに「オー」とメンバー全員の声が重なりました。
「私の部隊なのに……」
羨ましいのでしょうか。それとも、取られたという感じで寂しいのでしょうか。
アワーフレッタさんは、ぽつりと呟きました。
「さあ、アワーフレッタさん。覚悟は出来たわ。いつでもやっちゃって」
エリンナ率いる部隊の皆さんの表情には覚悟と気合が表れていました。
「分かりました。では始めますね」
一歩下がり、私達を視界に捉えると彼女は範囲負荷魔法を唱えました。
私にとっては、お城を出る前に仕上げと感じた負荷。
(アワーフレッタさん、さっきよりも威力上げてますよね?)
気付いたので彼女の方を見ましたが、何食わぬ顔。
まあ、私には走るも跳ぶも赤子が転がるくらい簡単な負荷なので、もしもの時には動けるので静観しておきましょう。
さて、そんな私には何でもない負荷ですが、他の人達はどう感じるのでしょう?
「あふぅ。あふぅ……」
体力を使い切った後のような呼吸で大地に受け止めてもらっているエリンナ。
他の人達は声も出せていません。
このレベルに立ち向かうには鍛え方が足りなかったようです。
仕方が無いので、私は部隊の皆さんに回復魔法をかけて回りました。
「んー、エレナ様すみません。皆と一緒ではエレナ様の訓練になりませんね」
目指す目標があればと、アワーフレッタさんは私との共同訓練を考えたのでしょうが、彼女の言葉通りです。
後進を育てている状況ではありません。
「……まち。……まち」
エリンナが頑張って何かを言おうとしていました。
「どうしました、エリンナ。言い残すとか、縁起でも無い事をしようとしていますか?」
体を動かす力も無いようで、呼びかけてもリアクションが返ってきません。
仕方が無いので、アワーフレッタさんに魔法を解いてもらいました。




