86 エリンナの墓穴
「冷静になったら堪えられなくなったのね……」
「え!? エリンナ、何を言い出すんですか!?」
覚えはありませんが、手段で仕返しでしょうか? お城を抜け出した事を物凄く根に持っていたのでしょうか?
「あの、アワーフレッタさん。あなたも何か言ってください」
違うという安心が欲しいと、私は彼女に求めました。
「このような機会はもう無いかと思いましたので、連れてきました」
「ね? 諦めなって、エレナ」
「あううぅ……」
声にならない声が出ていました。
「女は度胸と聞いた事があります。ここは大きく構えて何をされても受け入れましょう。さあ、一思いにやってください。アワーフレッタさん」
覚悟を決め、どこからでもどうぞ、両手も胸筋も開いての待ちの姿勢です。
「聖女様が許しを請うって……」
「以前の時に聖女様の心を折ってたって事?」
「聖女様が城を出たのって……」
「あの訓練ってやっぱり……」
ひそひそとアワーフレッタさんが連れてきた人達が話していました。どれも、アワーフレッタさんが私に対して酷い事をしたと言いたげな内容ばかりでした。
「ええっと、ちょっと乗っかってみましたけど……。どんどんおかしな方向へと進んで行くの、止めませんか?」
「え? 一人じゃ無理だから、集団でエレナに詫びを入れさせようとしたんじゃないの?」
「な、何を言ってるんですか、エリンナさん。私は、自分が育てている部隊に特訓風景を見せようとして連れてきただけですよ」
「本当にそうなんですか? 何も言わずにお城から飛び出した事への恨み辛みをぶつけに来たのではないのですか?」
「いきなり消えてしまった事については考えた部分もありましたが、ちゃんと戻って来てくださったではありませんか。それに、私が大きく成長できたのはエレナ様のおかげですよ」
「じゃあ、本当に集団を引き攣れて見学させに来ただけなのですね?」
「はい。それだけですよ」
彼女からは負の感情を感じられません。どうやら本当のようです。
ホッとした私は、アワーフレッタさんに言いました。
「では、早速私とエリンナに負荷魔法をかけてください」
「えっ!? 何で私まで?」
「私達、仲間ではないですか。一緒に汗を流し、共に成長するのは良い経験だと思いませんか?」
そう言った後、私はエリンナの耳元で「実体験は作品の表現に影響しますよ」と囁きました。
後に私の物語で一山当てようとしているのです。これには逆らえないでしょう。
「……う~。わ、分かった。私だって鍛えているんだから、負荷魔法くらいどうって事無いわ」
狙い通り、エリンナはやる気を出しました。
「それではいきなりですが、お願いします」
「はい、分かりました。グラビィ」
私にはまだまだ軽い負荷が来ました。さ~て、エリンナはどうなっているのでしょう?
隣りに居たエリンナの方を向くと、そこに彼女は居ません。眠っていました。
「もう、エリンナったら。まだお昼寝には速いですよ。昼食も食べていませんし」
「……」
返事がありません。
「エリンナ?」
ちょんちょん突いても何も反応がありません。
「ケチル」
初歩魔法を使ってみました。
「これ、ムリ……」
絞り出すような声が聞こえてきました。
「もう、だらしがないですよ。そんなんじゃ団長に笑われますよ」
「……」
何も返ってきません。どうやら本当に何も出来ない様です。




