83 合流
あの謎の声の挑発に乗り、失敗した私は、宴の会場に戻ってきました。
私が全力で通り過ぎた後なので、台風が通り過ぎた後のような惨状に。
「聖女様、残念でしたね」
申し訳無さを感じていると、アワーフレッタさんが慰めの言葉をかけつつ出迎えてくれました。
「はい。後一歩でした」
いえ、後一歩どころではありません。彼女への気遣いを無駄にしないようにと強がりましたが、その距離は遥かに遠いのです。
「あなたでも無理な事ってあったんだね」
それは、私に向かってかけられた言葉でした。
「なっ、誰ですか。そのような事を言うのはっ」
聖女様に対して無礼であると、アワーフレッタさんが失礼な発言の主に言いました。
「お堅いわねぇ。流石魔術師団の有望株と言うべきなのかな? それはさておき、アワーフレッタさん。お会いしたかったんですよ」
「は? え?」
アワーフレッタさんは、一切面識の無い相手にそう言われ、戸惑っていました。
「あの、あなたは一体……」
アワーフレッタさんの問いかけに、彼女はこう答えました。
「私はエリンナ。そこに居るエレナの被害者二号よ。一号さん」
「え、エレ……ナ……!?」
強力な不意打ちにあったような反応をするアワーフレッタさん。
「久しぶり、エリンナ。でも、被害者とは何ですか。失礼過ぎますよ」
一緒に怒られるような事をした覚えはありますが、彼女がそこまで言うような事はした覚えがありません。
「そう? だってあなたのせいで長の屋敷は滅茶苦茶だし、その前はおかしな扉の開け方をしてたでしょ。他にも色々な事があったよね? それの事後処理をしていたのは誰だと思ってるの?」
チクチク刺してきますね。
確かに勘違いで恐怖のどん底に叩き落としたり、ちょっと元気になったお爺ちゃんを寝かしつけるために竜巻もどきを生み出したりしたので、事実である事を挙げ連ねられると返す言葉がありません。
「ええっと、エリンナさん。聖女様を呼び捨てだなんて、いくら親しい間柄であったとしても不敬ですよ、不敬」
ちょっと気圧されていますが、アワーフレッタさんはエリンナを窘めました。
「えー、そんな事全然無いよ。ねえ、エレナ?」
「そんな大層に思わなくで大丈夫ですよ。彼女とはお城を出た後に苦楽を共にした仲ですし、私も敬われる方が背中が痒くて」
だからそんな、今にも歯を噛み砕きそうな表情で目の周辺の血管が切れそうなくらいに見開くのは止めて頂きたいです。アワーフレッタさん。
と心の中で願いつつ、ちょっと二人の間に危険な空気を感じていました。
(どうしたのでしょう。エリンナったら、妙にアワーフレッタさんを煽っているように見えるけど、これは一体……)
性格的に合わないのでしょうか?
「で、では、私もお名前で呼んでも? 聖女様のお名前を」
何時になく真剣な表情のアワーフレッタさん。
「私の、ですか? もちろんですよ。寧ろ、その方が嬉しいです。アワーフレッタさん」
これでもっと距離が近づけると、彼女の提案に賛成したのですが、アワーフレッタさんは膝から崩れ落ちてしまいました。
「エレナは中々酷い子だよね。私も同情しちゃうなー」
それまで煽っていたエリンナが、何故か同情モードに。私は別に何も悪い事をしたり、発言した覚えが無いのですが……。
全く分かりません。助けてかみ……は止めて、聖女様。
「で、エレナはもう一度あの亀裂を目指すんだよね?」
挨拶はこれくらいでと言う感じで、真面目な雰囲気で問いかけてくるエリンナ。
「目指すって、もう亀裂は閉じられてしまいましたよ。エレナ様が降りる時に」
「まだその時では無いって感じなのかな? そこの所はどうなの、エレナ?」
どうやらあの声の主は、私以外の人にはあのゲームセンターで聞きそうな台詞を言っていなかったようです。
「あの亀裂は、初回限りのサービスだったようです。今度は自分で開けなければいけないみたいですよ」
「最初だから特別にって事だったんだ」
「存在すら分からなければ、誘いようも行きようもないですよね」
二人は、理解したと言葉では言いつつも、微妙な顔をしていました。
「あ、サービスって言葉が分からなかったんですね?」
私が確認すると、実はそうだと二人は頷きました。
なるべく言葉は選んでいるつもりですが、度々やってしまいます。
「初めての人に優しくしてあげたという風に考えてください」
言いようは沢山ありますが、とりあえずはこれで良いでしょう。
「じゃあ、あの亀裂をもう一度エレナが開けないと駄目なんだ。でもそれって出来るの?」
私が壁だと思っている一つをズバッと聞いてくるエリンナ。
「方法すら分かっていません。普通に生きてきた人が空間に亀裂なんて入れられないですよね」
「「……」」
ちょっと間が出来ました。
「私達では出来ませんが、エレナ様でも無理なんですか?」
あれ? っと思った後に、私なら出来てもおかしくないという口振りなアワーフレッタさん。
「無理ですよ。だって、私の世界には空想の中でしか魔法は存在しないんですから。魔法でだって出来ないような事を、私が出来る道理はありません」
「そういえば、こちらで初めて魔法に触れたのでしたね。ですが、私達よりも魔法の使い方を熟知していたようですが」
回復魔法の熟練度上げや、負荷魔法を使ったトレーニングの事を指しているのでしょう。
ですが、あんなのはゲームや小説。漫画を嗜んでいれば一度は思いつくような発想です。
「……待ってください。という事は、私は今ある手段を用いればこの問題を解決する事が出来る……?」
負荷魔法を用いて再度鍛え直す所までは考えていました。
私が思っていたもう一つの壁は、自身を更に成長させられるかです。
(今度は、ただ体を鍛えるだけで乗り越えられる壁なのでしょうか? 何か、空間を割くような手段を魔法に求めるべきなのでは?)
二の作、三の作を用意するべきなのでしょうか? 記憶を探り、案を考えますが、何も思い浮かびません。
体を鍛え直す以外では何も出てこないのです。
「エレナ。悩んでいるならさ、体を動かそう?」
私の肩をポンと叩き、エリンナは言いました。
「エリンナ、ありがとうございます……」
停滞はいけないという言葉と友情にちょっと瞳が潤みました。
「よーし。それじゃあ、アワーフレッタさん。以前にやっていた訓練をやってもらえる? いやー、どれだけとんでもない事をしてるのか見て見たかったのよね。あ、場所はどこでやるのが良いの?」
切り替えが早く、ウキウキしている様子で気付いてしまいました。
ええ、私の感動を返してください。
今の彼女は、今後の創作活動のネタになりそうな展開を楽しんでいるに過ぎないようです。
「エレナ様。本当に彼女はご友人なのですか?」
ワクワクが止まらないエリンナを指差し、尋ねるアワーフレッタさん。
この状況でそうだと言うのは、何だか騙されている人のような感じになるので、とても答えたくない気持ちになりました。
「まあ、訓練は必要だと思っていましたから。早速ですが、また付き合ってもらえませんか?」
敢えて答えず、私はお願いしました。
「エレナ様の頼みです。断る訳がありません」
嫌な顔も反応もせずに受け入れてくれるアワーフレッタさん。
「ありがとうございます。全力で重いのをお願いしますね」
「お任せください。更に高みを目指しますよ。フフフ……」
やる気に満ちたフフフ笑いが気になりますが、これは彼女にとっても成長できる機会なので嬉しいのでしょう。互いの利害が一致しているのです。
「では行きましょうか」
アワーフレッタさんに連れられ、私達は場所を移動しました。




