82 おかしな神 伸ばす手
聞き逃してもおかしくない程に短い二文字の言葉に、私はパパンを二度見してしまいました。
(この世界って、神様が居たの!?)
聖女様崇拝が凄いのは何度も目の当たりにしてきましたが、神様に関しては爪の先程度も出てきていなかったので、驚きでした。
それが急に神様だなんて、後出しにも程があります。
「聖女。今代の聖女よ。私は今、堂々と皆の者にも聞こえるように話しかけています」
親切なお言葉でした。神から聖女へ、どのようなお言葉をかけられるのか。それに興味を持った人々が私の方を一斉に向きました。ちょっとしたよくあるホラーな場面でした。
(どうして急に私に話しかけてきたのでしょう? いえ、それよりも、何故これ見よがしな感じで話しかけてきたのでしょう?)
空を見ろと言った辺りから疑問がいっぱいで、シリーズ化出来そうなくらいです。
「疑問がいっぱいシリーズ……。それは私が注目されそうですね。ですが、不届きな気付きについてはまだ不問には出来ません」
「不届きな気付き? 何の事を言っているのか分かりませんが?」
ここでやっと神様? と言葉を交わしているので、私には相手の指す部分が分かりません。
「この世界に神が居た事に気付いた点です。急に世界から生き物が生えてくる訳がないでしょう。全ては私が生み出したのです」
そんな、著作権は全て私に帰属するみたいな主張をいきなり現れて言われても……。
特に何も所有権を主張していないので反応に困ります。
「えっと、はい。そうでしたか。では、一つ教えてはいただけませんか?」
「答えられぬことは無い。言ってみるが良い。聞こう」
「何故、人の感情を二つに分け、邪悪なるものが生まれるようになったのでしょうか?」
こんなおかしな仕組みのせいで私は異世界に呼び出されてしまったのです。理由を知りたいと思うのは当然でしょう。
という訳で、私は神様? の言葉を待ちました。
「それはだね――」
一呼吸置くように溜める相手。
「それは……?」
私も待ちました。ですが、長い。長すぎます。二分くらいは待ったでしょうか。
「教える訳無いじゃん。ジャン」
「は?」
なんだこいつは? そんな感情が声に出ていました。
「今代の聖女よ。その鋭い視線が私の心にズキューンと来た。この刺激がとても気に入った。故に教えぬ。教えぬぞ。答えられるがな」
いえ、肩透かしされた怒り視線はあなたの言葉の後でした。なので、彼の発言は滅茶苦茶でした。
本当に神様なのかと、声の主を疑いました。
「悔しいようだな。ならだここまで来てみるが良い。しかし、入り口が分からなければこちらへは来られぬだろう。故に初回はこちらの世界への入り口を示そう。さあ、空を見上げよ」
何が起こるのかと、人々は静寂の中で空を見上げました。
それは突然でした。空に亀裂が入り、人が通れそうなほどの穴が出来たのです。
意味が分かりませんが、先程の言葉通りなら、相手が私を誘っています。
いえ、表現を変えましょう。これは煽りです。相手は私を挑発し、煽っているのです。
「私、ちょっと行ってきます」
「お待ちください、聖女様。あのような現象を起こせる魔法を私は知りません。とても危険です」
絶対にただ事では無いとアワーフレッタさんが私を引き留めました。
その優しさは嬉しいのですが、行かなければならないのです。
実は、先程の静寂の時に相手がこう言ったのです。
(私の下へ来られたのなら、故郷へ返してあげよう)
誰もこの発言に反応した素振りは無かったので、私だけに言ったに違いありません。
そういう訳で、私は彼女に引き留められても行くしか無いのです。
「ケチルナ」
覚えたての魔法で体を強化し、私は助走を始めました。
跳び箱で使う踏切板のようなものがあれば尚良かったのでしょうが、そんな便利な物を急に用意なんて出来ません。
正直に言うと、あの亀裂との距離がどれほどのものか分かりません。
跳んで届く距離であるかも分からないのです。もしかすると、あの亀裂は自称神様が使った幻想を見せる魔法かもしれません。考えると気持ちが大地に引っ張られていく気がしました。
(いいえ、届いてみせる……)
頭と心にある邪魔なものを投げ捨てようと頭を振りました。
とにかく今は、現状で可能な最大限の方法であの亀裂を目指すしか無いのです。
(行くわ!!)
助走からの全力の屈伸。そこからの大ジャンプ。空がどんどん近く、狭くなっていきます。
亀裂が視界の割合をドンドン占めていきます。
(行ける)
後もう少し。そう思って手を伸ばしました。ですが、途端に亀裂との距離が出来、私は目標を見上げるしか出来なくなりました。
ふと視線を動かすと、遠くに一際明るい場所が。場所的にそこはお城で、王国の全体を上から見ている事に気付きました。
(お城よりも跳んだのに……)
きっと、私史上一番高くまで跳んだはずです。それでも届かなかった。
失敗したのです。
「残念無念。後少しの所だったね」
落ちていく最中、相手が私に言いました。
ケチルナ込みの全力ジャンプは、王国の敷地を遥かに飛び越えていました。
自由落下の着地地点は平原。人通りも無く、周囲への被害はなさそうです。
盛大に巻き起こる土煙。私は、頭上の空を見上げていました。
閉じ始める亀裂。
もう一度やると言うのがセオリーかもしれませんが、既に現状で最高最大の跳躍をした後です。次を求めても届かないという自覚がありました。
そこにまた声が聞こえてきました。
「あらら、心が折れちゃったのかな? まあ、道は示したからね。何時でも扉を開き、こちらへ来られるようにはしておくよ。では聖女、次の挑戦を待っているよ」
ゲームセンターのゲームで聞きそうな台詞で〆ると、空にあった亀裂は完全に消えました。
それきり、声も聞こえなくなりました。
手に力が入り、痛いくらいに拳を握っていました。
人生で一番と自覚出来ます。ええ、私の心に火が入りました。




