80 パパンが語る真実
「パパン。ねぇ、パパ~ン」
渋い笑い声でかけずり回っている王様を呼ぶ王子。
「どうした、息子よ。ん? おお、聖女様ではないか。という事はそろそろという訳だな?」
汗だくで、息が荒いながらも全てを聞き取れる話し方をする王様。
「ええ、まあ、そうなのですが、呼吸を整えてからの方が良いのでは?」
「いやはや。体よりも頭を動かし続けていたせいでしょう。今のように走り回る事が楽しいのだよ」
嘘や建前の無い、輝く笑顔で王様は言いました。
「そうですか。ですが、その体は高齢でもあります。以前の感覚では怪我をしてしまいますよ」
後釜の王子が居るとはいえ、それではいけないと、私は王様に回復魔法を使いました。
「おお、これが聖女様の魔法……。心地良い疲労も消えていく……」
感謝されているのでしょうが、なんだか申し訳ない感じがしました。
「おかげで呼吸も整った。では皆に全てを話すとしよう」
そう言って王様は全員に向けて呼びかけました。
場に居る全員が手や足を止め、王様の下へと集まってきます。
「皆、集まってくれた事に感謝する。聖女様もやって来たので、そろそろ我が王国。大陸に隠されてきた秘密を皆に伝え、今宵の宴の理由を話そうと思う」
訳を知らずにお集まりの皆さんは、何だろうと首を傾げつつ王様へ拍手をしました。
「この大陸は何百年もの間、不定期に現れる邪悪なるものと種の存亡をかけた戦いを続けてきた。そして、戦いの数だけ聖女様の力を借り、勝利してきた。それが長年この国で語り継がれてきた歴史である。……そうされてきた。しかし、それは真実を闇に葬った一側面だけを語り継いだ歴史なのだ」
傾聴していた人々の雰囲気が変わりました。温度が下がったような冷たさと、張り詰めた空気が場に広がったのです。
中には、王が世迷言を言うようになったと、今にも不穏な行動を取りそうな人まで。
「アワーフレッタさん。降ろしますね」
今まで抱えていた事を忘れていた私は、そう言って彼女を降ろしました。
「気付かれない程度に魔法をかけますね」
彼女も感じ取っていたのでしょう。小声でグラビィを唱え、一帯に気付かれない程度の負荷をかけてくれました。
もしもに備えて彼女が使用した魔法の範囲の広さに驚かされました。以前は二人の人がぶつからない程度に動き合える範囲だったのが、何メートルも先まで届いています。
私にも魔法の効果はありますが、この程度は負荷の内には入りません。それに、兵士達との能力さがあるので、私なら十分に対処出来ます。
頼りになるサポートを受け、私は警戒を続けました。そんな中、王様のお話は続きます。
「邪悪なるものは敵では無い。そして、邪悪なるものは誰の中にも存在している。我々が邪悪なるものと呼んだ存在。それは、私達の中にある妬み、嫉み。怠けなどの我々が自身を正す為に切り離そうとしていた感情なのだ。我々は、何百年もの間、自分達の心の闇と戦い続けてきたのだ」
心の闇との終らない戦い。そう言えば聞こえが良いですが、いきなりそんなファンタジーで手垢が付くほどに使い倒された設定を出されても、聞いた人達は素直に受け入れられない事でしょう。
私も最初に聞いた時はなんだそれは!? と驚きと疑いが同時にやってきました。
「この大陸は、そういった心の面が積もり積もった結果、我々が呼んでいる邪悪なるものが現れる仕組みになっていたのだ」
不規則だった出現も、その時代時代で人のマイナスな面の溜まり方が違っていたからだとはパパンの説明。私は、邪悪なるものの大元である彼から聞いたので、そうなのだと理解出来ましたし、その手のオチになる創作をいくつも履修していました。
なので、始めこそはなんだそれ!? でしたが、受け入れる事が出来ました。
そもそも別の世界から来た私なので、他人事に近かったというのが一番大きな理由だったのかもしれません。
さて、この世界で、この大陸で生きている人達はどのような反応を見せるのでしょうか?
「では何故、私達を戦わせたのですか?」
話を聞いていた人達の中から、当然の声が上がりました。
「邪悪なるものは人を怠惰にさせ、人を堕落させる。邪悪なるものに負けた者は欲に溺れる。それでは国が、大陸が滅びてしまう。それ故に討伐せねばならないのだ!!」
王様が声高に言いました。
これが長年にわたる王国が邪悪なるものを敵と見なし、戦い続けてきた理由。
全ての人間が勤勉では無くなり、享楽のみに執着しては営みなど無くなる。
それを問いかけた人も、聞いていた人達も理解出来たのでしょう。誰も反対の意見を言わず、場が静かになりました。




