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77 私上最大の重圧

(う、うごけない……)

 出遅れただけではありません。私の力量が敵っていないのです。

 正真正銘、言葉通りに指一本も動けない状況の中、私は城の兵士に囲まれていました。

「騒動で呼ばれてきてみたら、何をやっているんですか、聖女様っ」

 酷く悲しんでいるような声。ですが、私は喋る事もままなりません。

 唸り声すら出せないほどの負荷でした。

「ほら、どうしたんですか? どうしてこちらを見てはくれないんですか? あなたはそんな人では無いでしょう?」

 矢継ぎ早に疑問を投げかけられても、私は動く事が出来ません。

(仕上がったと自惚れていた。お城を抜け出し、多少の荒事もそよ風程度で動じないと思っていた。里での交流もあって、もう敵は無いとさえ思っていたのに、彼女は更に研鑽を積んでいた。私を超えるほどに)

 心が震えていました。悔しいという思いでそうなったのではありません。

 私は自身の成長にブレーキをかけていたようです。

(まだ。まだまだ、私には壁が在ったんだ!!)

 元の世界では壁があれば寄りかかり、そこで快適になる方法を探していました。

 そこで静かに過ごす方が良かったから。上を見て、空の高さを縮めようとする気持ちなど欠片もなかったのです。

 ですが、今は違います。私は乗り越える楽しさを知り、育ちを楽しむ事を知っています。

 あの日の自分に言ったら、きっと喜ぶでしょう。

「大丈夫。行ける」

 届かない過去への自分に送る言葉が浮かんできたら、震えていた心が熱を帯び、燃えてきました。

 心の中で、回復魔法を連呼し続け、負荷に悲鳴をあげ、感覚でも音でも筋線維が切れているのが分かります。

 それを片っ端から回復魔法の連呼で治していきました。でもまだです。まだ負荷の方が強く、負けていました。

 でも挫けません。折れません。

 だって、今この瞬間も、私の体は順応していっているのですから。

 アワーフレッタさんとの日々が、その証拠となって心を支えていますから。

 今だってあの時の経験に偽りわないと証明するように、指が少しだけ動くようになりました。次は関節を少し動かせました。その次は状態を浮かせることが。次は両手足で踏ん張れるようになってきました。

 私のその姿に、囲っていた兵士達がどよめいていました。

「聖女様がこれに耐えているだって?」

「それどころか、起き上がろうとしてないか?」

「俺の、俺の知ってる聖女様じゃない!!」

「教官の話は本当だったっていうのか!?」

 要約すると、自分達が抱いていた聖女像とはまるで違う姿を見て、恐怖や恐れを感じているようです。

 これに対して思う所はありましたが、今は自分の方で手一杯です。

 何せ、最後の一息が足りないのです。

 魔法の熟練度が足りないのでしょうか。しっかりと直立して見せなければ、打ち勝った事にはなりません。

(もう一息……。もっと適応した強い体になるように。もっと。もっと――)

 ただ肉体を回復するだけでも、状態異常の回復をするだけでも無く、屈強な体が必要なのです。そんな想いが強くなったその時です。

 ふと、頭の中に一つの単語が浮かびました。

(これ? これを唱えれば良いの?)

 この状況で口にする事に抵抗がありましたが、これも私が得た力。また一つ乗り越えた証なのでしょう。なので私は叫びました。

「ケチルナァぁぁぁぁっ」

 するとどうでしょう。体が一瞬光りました。その後から負荷による影響を感じなくなりました。

 そうです。二人での時間の中で、幾度も感じていたあの感覚です。

 私は、屈伸をしたり、ボクシングの真似事をしたりして体の動きを確かめました。

 負荷無しの状態と遜色有りません。

(最後の一押しが足りないと思っていましたが、これが新魔法の効果なのでしょうか?)

 体が回復し、疲労という状態異常も無くなっています。

 今までの魔法でもそこまではありました。

 ですが今回は、新魔法を使った瞬間に動けるようになったので、体が強化されている気がします。

 それがケチルから始まった回復魔法最上位のケチルナによる効果なのでしょう。

 さて、負荷を乗り越えた私は、何よりも先にしなければならない事がありました。

 私が一歩動くと、兵士達は一歩引きました。

 それまで床で倒れていた相手が軽快に動き出した事で、圧倒してしまっているようです。

 そんな中、一人だけ引かない人物が居ました。

 私はその人の下へ向かい、視線を合わせて言いました。

「ありがとうございます、アワーフレッタさん。それと、黙って居なくなってごめんなさい」

 彼女に告げなかった理由はありますが、それが謝罪をしない理由にはなりません。

「聖女様と誰よりも濃い時間を過ごしていたと自負しています。なので、何時かは旅立つと思っていました。すぐに順応されてしまいましたけど、あなたを捕まえる事も出来ました。どうです? 私、凄くなりました?」

「はい。アワーフレッタさんは、やっぱりとっても頼りになる人です」

 和解? と再会を祝した私達は、喜びで抱き合いました。

「ぐえぁ」

 蛙みたいな声が耳元で聞こえたと思ったら、アワーフレッタさんが泡を吹いて糸が切れた人形のようにぐったりとしていました。

 ケチルナは肉体強化の効果を持っていると確信出来ました。

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