76 感動の再会 崩れ落ちますね
(あら!?)
まさかの展開でした。最低でも二人は必要だという扉が、片方を押しただけで動いたのです。
自分でもこの事実が受け入れられていないというのに、とんでもなく大きな音と共にあの大きくて重たい扉が開きました。
「うっひゃぁ~。こんな大きな扉を片手でだなんて、信じられな~い」
「流石、我らをここまで投げ飛ばしつつ、抱え運んできたお方だ。器が違う」
受け止めようによっては称賛ですが、絶対に違うと分かる二人の発言。
自分でもまさか、ここまでの状態になっているとは思ってもいなかったので、ちょっと震えが止まりません。
「と、とにかくです。あそこを見てください。居ましたよ」
二人に、部屋の奥の方であんぐりと口を開け、目が飛び出しそうなほど見開いている懐かしい人の事を言いました。
「おお。おお……」
パパンが声を震わせ、部屋に入っていきました。
「パパン、感動の再会だね」
息子である彼も声が喜んでいました。
「やっと、やっと出会えたな。我が半身よ」
両手を広げたパパンは、いつでも胸に飛び込んでくるがよいと、着た瞬間に抱きしめる準備が出来ていると、王様と向き合って待っていました。
しかし、当然の事ながら王様が飛び込む訳がありません。
「え、エレナ様。この人の形をした黒い生き物は一体何なのですか!?」
大臣が間に入り、盾となっているその後ろで、王様が訊ねてきました。
「何とはおかしな事を言いますね。一番理解しているのは王様ですよね。あなたが邪悪なるものと呼んでいた存在ですよ」
「なっ……」
「聖女様、寝返ったというのですか!?」
王様は言葉を失い、大臣はこの状況なので私を敵扱いで猛抗議です。
鋭い視線が突き刺さります。
「邪悪なるものの真実について、知らなかったとは言わせませんよ」
大臣の視線に耐えつつ、私は王様への追求を続けました。
「待ってください、エレナ様。何か、何か……。そう、何か誤解をされているようだ。そこにいる邪悪なるものに何を吹き込まれたのか分かりませんが、騙されているのです。あなたはっ」
どうやら王様自身の口から全てを語るつもりは無いようです。
「そうですか。どうやら、感動の再会に差す水が切れてしまったようです。パパン、止めはしません。存分に抱き合ってください」
「おお、では遠慮なくっ」
私の言葉に、パパンは喜んで王様の下へと駆けて行きました。
「パパン、やったね。おめでとう」
門出に、息子の方は拍手でパパンを見送っていました。
「なりません。王を守るは側近の、大臣の使命!!」
職務に忠実な大臣は、味方の居ない状況で一人奮戦せんとパパンに立ち向かっていきました。
(この国の中枢に居て、とても忠臣な人だ……)
この国の良心を見たような気がして、少し心が温かくなりました。
だからとパパンを止める事はしません。これはしなければならない事ですから。
「変わらず良く尽くす家臣だ。褒めて遣わそう。しかし、もっと肩の力を抜くが良い」
自分にしがみ付き、足止めをする大臣に、パパンは労いの言葉をかけました。
「お、王様……」
パパンの凛とした声に、大臣が忠誠を尽くす者を呼びました。
「さあ、宴を開く準備をするのだ。皆が全てを忘れ、幸福に満たされ、堕ちていくような宴を」
(パパン、言い方ぁ……)
立場上そういう言い回しになるのかもしれませんが、悪役的表現ですよね。
大臣はパパンの言葉を聞くとしがみ付くのを止めました。
「さあ、知らせに行くのだ」
「はい、王様」
年甲斐も無く駆けていく大臣。私達の事など視界に入っていないようでした。
「なるほど。このようにしていたのですね」
仕組みが分かると、旅に出てからの疑問も全て解決しました。そして、彼らが邪悪なるものとして忌み嫌われるようになった理由も。
「き、貴様。大臣をそそのかしおったな」
さて、こちらも大詰めですね。しっかりとこの目で顛末を見届けましょう。
「そそのかすとは随分ではないか。自身を悪く言うものでは無い。私達の足場はとても脆いのだ。そこに水を撒く事、愚行だと知らぬ訳では無いだろう?」
「次は私をそのようにそそのかすというのか?」
「はっはっは。何を言う。あるべき姿に戻るだけの事」
息のかかる距離まで詰め寄るパパン。
「よせ。止さぬかっ。ぬわぁぁぁぁ」
王様の体はもう逃げられないと理解しているのでしょうか。言葉だけの抵抗でした。
そして、パパンが触れたと同時に叫び声を上げました。
目的の一つが達成されました。
「後は王様から真実を告げてもらえば良いですね」
私も、達成感に満たされていました。
「ち、父上……?」
背後から聞こえる絶望に染まりきった声が。
振り返ればダイブロス王子でした。
「これは丁度良いですね。さあ、次はあなたの番のようですよ。ダイちゃん」
私は、パパンを祝っていた彼の肩を叩きました。
「俺っちにもその時がやって来たって訳か。じゃあ、聖女っち。行ってくるぜ!! ひゃっほ~い」
若さでしょうか? 衝動を抑えきれないとばかりに、彼は王子に向かって飛び込んでいきました。
「いけません。ここは引くのです、王子!!」
マクシタテルンさんが剣を構え、王子の前に立ちました。
この国は、補佐に恵まれているのだと、改めて思いました。
「マクシタテルンさん。邪魔をしてはいけませんよ」
流石に武器を持った相手に素手というのは分が悪いので、私は回り込んでマクシタテルンさんの動きを封じました。
「なっ!? 聖女様、何を。それにこの力……」
抵抗をしていましたが、私を振りほどく事が出来ません。蟻が一匹で象の力に敵わないのとおなじです。
「すぐ済みますからね。終ったら全てを話しますから」
「くっ。まさか、聖女様が堕ちるとは……」
事情を知らなければそう見えても仕方がありません。まあ、その誤解もすぐに解けるでしょう。
「さあ、今。今が一つになる時っ!!」
一方の王子達は、王子の胸に頭突きするような姿勢で彼が飛び込んでいました。
王子の体に吸い込まれていく彼もパパンと同じく喜びに満ちている事でしょう。
それぞれがそれぞれの体に戻っていったのを確認すると、私はマクシタテルンさんを解放し、距離を取りました。斬りかかられるのは嫌ですから。
後は二人に全てを任せましょう。そう思い、ふぅっと息を落としました。
「ヘビウェイッ!!」
ズシッとくる懐かしい負荷。それでいてあの時よりも更に数倍強力な重み。
私は踏ん張るには遅く、床に押し付けられてしまいました。
そうです。彼女が現れたのです。




