70 惨状を越えて
何と酷い有り様でしょうか。
「そ~れそれ。腹踊りだぁ~」
「一発芸。新兵の限界をやりま~す」
「こっちは合体芸で影絵をやるぜぃ」
私は今、テントの更に奥を歩いています。
そこは本来ならば鼻を覆いたくなるほどの血の臭いや、下か上に視線を固定して歩く凄惨な戦場になっているような場所でした。
ですが、最前線と呼ばれ、事前に心の準備をしていても尚足りないと思っていた戦いの中心地は、野ざらしで遠慮無用の大宴会場となっていました。
私が邪悪なるものに連れられ、横を通っている間も、先程のような声が至る所から聞こえてきました。
人も邪悪なるものも関係無く、武器はそれが当たり前のように持ち主でも判別すら出来ないほど乱雑に大地に置かれていました。
争そう事無く、血も流れず、息絶えた者の居ない、手と手を取り合った平和な空間。
それが最前線と呼ばれたオワンネの地の真実の姿でした。
私は、この光景を見て、こんな事を思っていました。
(お花見の席より酷い……)
半裸、全裸は当たり前。戦いに生きている集団だからでしょうか。お酒によって心はフルスロットルでアクセル全開。あるのは混沌。周囲を見回しても、秩序は行方不明でした。
木陰など探さなくても、別の一戦を交えている場所もありそうなほど、皆が皆、頭のネジを吹っ飛ばすほどに盛り上がっているのです。
「聖女様、ちゃんと歩けてる? 目隠しする?」
邪悪なるものが、私を気遣ってか、周囲の様子を見かねて訊ねてきました。
「ちゃんと歩けていますよ。それと、目隠しは色々な意味で危険かと」
あるべき姿を無くしたヒトの集団の餌になるか、特殊なお楽しみの最中だと思われるか。
そのどちらにも取られたくないので、私はお断りしました。
「じゃあ、耳栓? 後ろから耳に指入れちゃう?」
善意で更に特殊なお楽しみを提案するのは止めて欲しいです。
犯罪面よりもホラー面での怖い絵面を想像してしまったではありませんか。
「それをするなら自分でやりますよ。それよりも、これから会う邪悪なるものの大元はどのような存在なのですか? あ、全とか個という先ほど聞いた説明を抜いて」
私の条件に、彼は少し考えると答えてくれました。
「なら、王様だね。俺達を纏めているし、パパンだし」
“パパンだし”という意味が分かりませんが、ボスという意味では邪悪なるものの存在と合わさっているので納得出来ました。
「魔を統べる王という感じでしょうか。まあ、あなた達は魔と呼ばれていませんけど」
「魔王パパンかぁ。いーね、それ。王に対して魔王。対になってるの感じがしていーね」
「そ、そうですか?」
本人ではありませんが、喜んでいるので良いのでしょうか?
質の悪い緩んだ集団を抜け、更に奥へと進みました。
人混みを抜けると、森が見えてきました。
「あの森の先なんだぜ」
効果音が聞こえてきそうな切れのある捻りを入れ、彼は教えてくれました。
「あの奥ですか。そこであなた達は生まれるのですか?」
もしかしたら出現する瞬間も見られるかもしれないと思い、尋ねました。
「出てくるのがこの奥ってだけだぜ」
どういう事でしょうか? 現れる=生まれるでは無いのでしょうか?
「まあ、その辺の疑問もパパンに聞けば一発スッキリだぜ」
「言い方ぁ……」
表現に苦言を呈しましたが、彼はどこ吹く風。
言い争うのも私が疲れるだけなので、止めました。
その後も進んで行くと、なんだか肌がピリピリしてきました。
これは俗に言う強者のオーラでしょうか? 戦闘民族ではありませんが、ちょっとワクワクしてきました。いえ、戦うつもりは微塵も無いのですけどね。
「あの、そろそろなんですか?」
この感覚の正体を確かめるために尋ねました。
「さっすが、聖女。ほら、見えてきたぜ。パパ~ン!!」
姿を見つけたと、急に駆け出されてしまいました。




