68 カオス 吐いてセイッ‼
「心配無いって、聖女ちゃ~ん。土の臭いがするだけで、加齢臭じゃないからさ~」
「輪をかけて軽々しく言わないでください。ある意味これは、あなた達と人間の戦いと同じなんですからっ」
お一人様お楽しみタイムを終えた邪悪なるものが、今までと変わらずさらっと軽く答えてくれました。ですが、たとえ正解であってもすんなりと受け入れられない乙女心。
女子にとって、十代の自分にとって、例え自室を永住の地と決めた身としても、加齢臭は存亡に関わる重大な問題なのです。
「お、お待ちください、聖女様。今のは、あなたから母性を感じて」
「疑惑で疑われているというのに母性を感じないでください!!」
中和のつもりが、こちらはこちらで別の劇物を放り込んでくるので、更に濃度が増すばかりです。
「落ち着きなって。ほら、続けて呼吸するんだ。ヒーヒーハーってさ」
「ヒーヒーハー?」
間違ったラマーズ法のような呼吸でした。やってみると、吐き出すばかりで呼吸が出来ません。
「ごめん、間違えたっぽい」
自分の頭を左手でコツンと叩き、謝る邪悪なるもの。今までで一番邪悪な事をしてくれたと思いました。
「騎士団の皆さん。この存在は切り捨てれば消えてくれるんですよね?」
私なら、剣を使わずとも手刀で行けるかなと、騎士団の皆さんに尋ねました。
「待って待って。一旦おちつこ? ほら、呼吸法でさ」
「では、お手本を見せますから続いてくださいね」
私は、先ほど学んだ吐き出し法を一度行い、邪悪なるものに振りました。
「ヒ、ヒ、ハー」
圧をかけて実行してもらうと、邪悪なるものは先ほどよりも私が知る呼吸法に近付けてきました。ここは修正が必要ですね。
「ほら、吸わずに吐いて~。吸わずに、吐いて~。後十回」
修正させ、回数を指定しました。
「意識が遠のくって。神様の所に行っちゃうって」
それじゃ丁度良いです。伝言を頼んでおきましょう。
「お会いしたら、聖女が役目を果たしてますよって伝えて来てください」
恐らく、今後の人生を考慮しても、この時が一番うまく冷笑する事が出来た瞬間でしょう。
「え、聖女だよね? 今代の聖女って、聖女なの?」
邪悪なるものにも確認され、更に疑問を持たれるとは……。
いままでの聖女様、怒らなさ過ぎだったのでは無いでしょうか?
「確かに、色々と不自然な事は多いが、彼女は間違い無く聖女様だ。たった一人で最前線に現れ、荷車を引いて現れた聖女様だ。え、あ、そう。あの量の補給物資を人が引いて……。引いて?」
フォローするなら最後まで。疑問に思うのなら最初から。と私は心の中で騎士団の人達に対して思いました。
今一度、繰り返さなければならないようです。
「みんなー。私の言葉を繰り返してねー。へんじはー?」
両手をメガホンの代わりにし、それぞれに求めました。
「「は、はーい」」
躊躇までぴったり重ねて返ってきました。それでは行くとしましょう。
「今代の聖女様は、規格外ー。セイ」
「え、せい?」
「せいって何?」
繰り返しを求めましたが、そこに引っかかりましたか。
「ほらほら、繰り返してー。今代の聖女様はー?」
両手をクイクイさせ、全員の声を求めました。
「「きかくがいー」」
「はい、良く出来ました。良いですか、皆さん。常識とは変わるもの。認識とは改めるものと覚えてください。代が変われば、今までと違う聖女だって出てきます。なので、皆さんはそこを疑問に思ってはいけません。分かりましたか?」
騎士団の人達と邪悪なるもの達は、互いに顔を見合わせてどうするべきかと困っているようでした。
(彼らが困惑するのも当然ですよね。というよりも、何故私は、ここで怪しい洗脳まがいの事をしているのでしょう?)
自分も流れに身を任せ過ぎて迷子になっているような気がしてきました。




