7 探り合う二人
「どうぞ、入ってください」
私がそう扉の向こうに呼びかけると、ゆっくりと扉が開かれた。
(あれ? メイド様じゃない!?)
覚えの無い人は、光る粉でも髪に振りかけているのかと思うほどに光の粒子をまき散らしていました。正体不明の金髪長髪男が近付いてくる事に恐怖を覚えました。
(え、誰!? 何者なの!?)
初対面の人にはお口チャックで身構える私です。先ほどはお世話をしてくれているメイド様だと思っての対応でしたが、今は見知らぬ相手への恐怖と防御で体はガチガチの防御体勢でした。
「お食事前に失礼します、聖女様。私はこの国の魔術師団に身を置いている師団長のニットレッカーと申します。以後、お見知りおきを」
冬場には会いたくない名前だった。物腰柔らかだけれども、動く度にまき散らされては床に落ちる前に消える謎の粒子が気になって仕方の無いこの人は、私にどのような用事があるのでしょう?
警戒を緩めず、やはり言葉を語らない私でしたが、相手が正体を明かして挨拶をしてくれたので、私も彼の挨拶に応えるためにベッドから降りました。
(えっと、膝を曲げて、右手は執事の基本姿勢のように直角で、お腹を支えるようにくっ付けると。それで、左腕は、スカートを広げて挨拶をするように横に動かすっと)
お貴族様が出てくる映像作品でよく見かけるタイプの挨拶ってこんな感じだったかなぁと思い出しつつ、ぎこちないながらもやってみました。
「私めに挨拶をしていただき、とても感謝します。聖女様。ですが、その挨拶はスカートの動作以外は男性のものですよ」
なるほど。この世界にもその様な使い分けがされているのね。
事前に学んでいなかったために失礼を働いてしまいました。
さて、ここからどうしましょう。お貴族様はプライドが高いと相場が決まっています。
ここは頭を下げ、円滑な人間関係を目指すべきでしょう。私と今後関係を持つのかは分かりませんが。
「それはとても失礼しました。よろしければ、女性の挨拶をお教え願えませんか?」
私が頭を下げつつ、そう願い出ると、ニットレッカーさんは目を大きく見開いて固まってしまった。
「あ、あの?」
更に火に油を注いでしまったのかなと、目の前で手を降っても反応が無い彼に不安になる。
「はっ!? 失礼しました。まさか、私めに頭を下げ、願われるとは思っていなかったもので」
これは勘ですが、それだけでは無い気がします。
「もしかしてですけど。私は無口で言葉を極力交わさないと聞いていましたか?」
そのような話がえらい人達に伝わっていてもおかしくはないという自覚はありました。
とは言っても、必要であればマクシタテルンさんとの時のように会話はします。
何も言わなくなる時は、会話が続かなくなるか、王子が私の心ゲージをゼロにした時くらいでしょう。
まあ、面会謝絶でメイド様に追い払って貰っているので、マクシタテルンさんと一緒にやって来た二回目の出会い以降は顔も見ていませんけどね。
それでも日に数回は王子は様子も見ようとやって来ているようです。
王子なりに気をかけているのでしょう。ですが、それに絆されて出会ったが最後。好印象を抱きかけた所でそれをマイナスにする発言で、私の心ゲージがマイナスに振り切れ、戻って来なくなる気がします。
私は、そんな相手と会話するだけでも疲れますし、大暴投した球を取りに向かおうとは全く思いません。
王子に頼らずとも、有益な情報ならマクシタテルンさんが説明してくれるでしょうし。
「そ、そげぶなことはありません」
動揺激しく台詞を噛んだ。ニットレッカーさんの瞳は短い間隔の振り子のように激しく泳ぎ、呼吸も速く、胸に手を当てて落ち着こうとしていました。
このままにしておくのは危険だというのは、医学に明るくなくても分かりました。