63 恐怖 影人間
いえ、待ってください。まだ終っていません。
「おーい、やっぽー。サビ中? 今、サビ中?」
何を言っているのかさっぱり分かりません。私は、驚きを通り越して固まってしまった思考回路を再起動させ、戻ってきました。そんな私が最初にした行動は……。
「きゃぁぁぁぁぁ、影人間んんんんんっ!!」
自分でもこんなに大きな声が出せた事に驚きました。
そうです。私は、幽霊の類と遭遇した事に驚き、頭も体もフリーズしてしまったのです。
冷静に、極めて冷静に状況を整理していきましょう。
(全身真っ黒な人の姿。目とか鼻とか、腕や胸などの全身の中で当然ある、人の厚みが、隆起している部分が一切無い。まるで、紙に書いた平面の人のような姿をした存在だ。横の幅も無い。まるで、影法師みたい……)
私は、影法師という単語を浮かべた時、相手の足元を見ました。
影がありません。私の足元には確かにあるというのに。
「ちょちょ、音量。上げ過ぎだし。頭がガンガン太鼓祭りなだけど。耳は笛の音が鳴りっぱなしの祭りばやしなんだけど」
どうしましょう。相手の言語は確かに聞き取っているのに、内容が無いように聞こえて理解出来ません。
「おぉ~い。女の悲鳴が聞こえてきたけど、泣かしたのか? 泣かしちゃったのかい? どっちなんだい?」
今度はちゃんと騎士の人が出てきました。
それにしても、この頭の軽そうな言い回しは何でしょう? 本当に騎士団の人なのでしょうか?
「な~かしたっ。うう~ん、大歓声!! サビらせちまったぜ」
「おぉ~い、こんなか弱そうな子をサビらせるとか、半端ねぇ。略してパないの」
「そのパなさの原因、ここにあります。この体!! そう、この体が成せる業よね。嬢ちゃん、ごめんの~。ほんち、ごめんの~」
もう止めて。私のメンタルポイントは振り切れているから。
MP切れを起こしたら次に減らされるのは肉体と相場が決まっています。
二人の独特のやりとりに、頭が段々と痛くなってきました。
そう言えば、エリンナが私に助けを求めてきた事がありましたね。
記憶に新しいプロのアピールの時でした。私もそれに倣うとしましょう。
(誰でも良いから、助けて。ほんと、助けて……)
何故先程まで嫌な感覚が消えなかったのか、ようやく理解しました。
私が最も苦手とし、距離を置き続けているタイプの陽キャが居たからです。
「うぉっすうぉっす。何々? 外で何賑やか市場してんだ? 目玉の登場かい?」
また新しい影人間が出てきました。騒ぎを聞きつけ、まだまだ影人間と騎士団の人が続々登場してきます。
忍びの里でたくさんの人と接してきたので、多少はフレンドリーに接する事がで居るようになったかなと思っていましたが、こんなに遠慮したいタイプに囲まれては、無理でした。
「わ、私。届け物っ」
役目を精一杯伝えました。
「え!? お嬢ちゃんが? いやいや、流石に犯罪でしょ」
「うちら分別あるし。まず自分。次に女だし。お嬢ちゃんはその次の次だし。受け取りは許可できない」
「真面目系キターッ。けどわっかる~。でも俺はまず女だな。次自分。やっぱ守る奴が第一だしょ」
「お前ら皆、縦系男子かよ。縦長防壁さん、おっすっす。そんな俺は、責められる方が一番だな。あ、その目良いね~。受け取って良い?」
「「「空気読め、もろだし」」」
一人だけ嗜好について暴露した人に全員で突っ込んでいました。




