62 馬人到着
突然ですが、問題です。
上が特別強化荷車(馬車サイズ)。下が人。これな~んだ?
一人の寂しさを紛らわすように、こんな事を考えながら、やる気を無くす名前の場所へと急ぐ虚無な時間。
さて、ひたすら長引かせて勿体ぶる演出を一人でしても意味が無いので、そろそろ自分に答えを教えてあげましょう。
そうです、正解は私です。
普通、上下では無く、左右に分かれているものですよね。
ええ、自覚しています。ですがその前に、引く生き物が居ません。
牛? 馬? そんな癒しと人を支えてくれる存在は置いてきました。
私との旅に付いて来れないからです。
なので、私は荷車を引いていましたが、これがどうにもやり難いのです。
普通に進んで居たら、凸凹悪路で揺れる荷車の全てが私に伝わるのですから。
引き方をしばらく試行錯誤していましたが、もう我慢出来なくなり、持ち上げる事にしました。
特別強化されているだけあって、持ち上げても底は抜けません。
重量は思ったほどでは無く、片手で持てるほどでした。バランス的に支えられないので、両手で支えていますが。
持ち上げると、どれだけ走っても後ろから振動に引っ張られる事も無くて快適でした。
運び方を変えて突き進むと、二日後には目的の場所が見えてきました。
「あそこが最前線の拠点ですか。ここからでは人が動いているようには見えませんね」
メガネ視力で確認してみましたが、私が見える範囲では外に出てはいないようです。
もっと先に行けば、邪悪なるものと戦っている音なんかが聞こえてくるのでしょうか?
今までは襲撃されていたので、心構えも出来ていなかったのですが、今回は自ら行くので、緊張してきました。
「里長さんを捕まえられるくらい早く動けるんだもの。何があっても大丈夫っ」
自分にエールを送り、私は拠点に近づいました。
(な、何かが変です……)
誰かが私の存在に気付いてもおかしいはずなのに、誰も出て来ません。
そもそも、拠点前に見張りが居ないというのがおかしいです。
耳をすませば、この先に複数人が居るという事だけは分かるのですが、それにしたって中への連絡役すらも居ないのは如何なものか。防犯、防衛の観点から見てもこれでいいのでしょうか?
この隙に泥棒がやって来たらどうするのでしょう。
入れ食い状態になるのではないでしょうか?
それとも、中世的な世界観の合戦というのはこれが当たり前なのでしょうか?
疑問ばかりが浮かびます。それでも進んで行くと、先程から聞こえていた声の主達の居るテントの所まで来てしまいました。
(結局、誰とも会わずにここまで来てしまいましたが、良いのでしょうか?)
テントの向こうは最前線だというのにとても賑やかで楽しそうな声がします。
(なんだろ。なんだか鳥肌が……)
この世界に呼ばれてからというもの、丁寧語が言葉でも思考でも基本だったのですが、何故かこの時は元居た世界の感覚に戻っていました。
近寄りたくない。関わりたくない。そんな考えが、テントの向こうの賑やかな声を聞く度に浮かび、私の心を揺さぶって来るのです。
寒気すらも感じ、これは只事では無いと思っていました。
「ちょっと涼んでくるわー」
テントの中からそんな声が聞こえてきました。
私は、何処かに隠れなくちゃと思いましたが、荷車のせいで動くのが遅れてしまいました。
慌てふためいている内に、テントの中から人が出てきました。
「ん? やっぽー」
遭遇してしまった人が挨拶をしてきました。
「ヒュッ」
残念。私の体は固まってしまいました。ここで私の旅は終ってしまいました。
第三部 潜入聖女様最前線24時編 完




