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認識の外 後編

「酷く疲れた顔だな?」

 団長と合流した時、労いよりも先に体調を心配されてしまった。

「まあ、色々とありましたから」

 私と聖女様とで組織の人間は全員捕まえた。その後に私は、簡単に経緯を纏め、合流を求めて団長に連絡した。

「聖女様が捕まったと知った時はどうしたものかと思ったぞ。協力して事に当たったという内容も肝が冷えた。聖女様は戦力になったのか?」

「実際に荒事にはならなかったですけど、彼女はそうなっても問題無かったと思いますよ」

 誰にも気付かれずに牢屋の扉の金具を壊すとか、私達だって出来ない事をやる子だったし。

「そうか。それで聖女様はどちらに?」

「徹夜だったので、少し離れて休んでいます。えっと、あそこに居ますね」

 彼女を探し、その姿を団長に伝える。

「あそこに居られるのが……。では、やる事をやってから起こすとしよう」

「ではすみませんが、捕まえた奴らを放り込むのをお願いします。私は、証拠を運びますから」

 組織の人間と関わりたくない。ううん、あのおかしな思考の男と出会うような事をしたくない。

 聖女様だけでも疲れたというのに、あの痛いのを求めるおかしな男のせいで余計に疲れた。

 気を抜くと、あの男の熱弁が蘇り、背筋が震える。

 しばらくは夢に出そうな出来事だった。

「そうだ、これが終ったら、一度里に戻ってくれ」

「それは何時ものですか?」

「ああ。それと、少し休むと良い」

 聖女様が見つかり、私達も休んでいる場合では無いと思うのだけれど、心配されるほど疲れが顔に出ているのかな?

「そうだ、団長。彼女も里に連れて行ってはいけませんか?」

「聖女様を?」

「はい。聖女の役目に積極的では無い彼女の心が変わるきっかけになるかもしれませんよ」

 団長もお城での聖女様の様子は知っている。だから、こう言えば一蹴するような事はしないはず。

 一応聖女様の理由は聞いていて、我が儘の一言で片付けられないと思っている。

 私も大陸の人間だから、大陸が平和になるための一助になればと思わなくも無い。

 それと同時に、聖女様に大陸に良い印象を持ってもらいたいと考えている。

 それに、今は好機のようにも思えた。

 だって、この秘密部隊は元々、聖女様を極秘裏に守る為に創られたのだから。

 初代聖女様を巡り、その立場を利用しようと企む貴族が後を絶たなかったという。

 戦いを終え、王族の庇護下にあっても、聖女様は狙われていた。

 当初は部隊という存在は無かった。部隊の前身となったのは、聖女様を純粋に慕った者達。

 彼らは、己の心技体を磨き、鍛え上げて対処に当たっていたという。

 私達が本来住み、鍛錬に励んでいるその場所は、厳しい自然の環境の中にあった秘境だった。

 秘密部隊という形になったのは、二代目の聖女様の降臨。

 初代様の事があり、時の王様が聖女様を守るためと、秘境で鍛錬をしていた者達に密命を下して出来たのが始まり。

 そのため、護衛対象の聖女様自身もその存在を知る事は無い。

 聖女様が居ない時代は、王様直属の極秘任務執行部隊。

 表舞台に出られない上、大っぴらにも出来ないという事で、年々意識が薄くなっていく一方だった。

 それが、今代の聖女様は、ちょっとした経緯で秘密部隊の存在を知っている。

 今を逃す他無いと思う。だって、両者に利があるはずだから。そう思って提案をしてみた。

 団長はどうしたものかと少し唸って考えていた。

「本来であれば禁忌にも等しい行為だが、今代の聖女様は城を出るほどにお転婆なようだ。大陸に生きる人々の姿を見て、見聞を広めてもらうのも良いかもしれないな。何より、里の者が喜ぶだろう」

 小難しい理屈をこねつつ、最後に一番の理由を持ってくるあたり、団長だ。

「あ、私から誘ってみますね。いきなり団長からでは誤解すると思いますし」

「ああ、任せる。エリンナも同年代と話したいだろうしな」

 確かに余り同年代の子が居ない里だけれど、だから寂しいという訳では無い。

 彼女はその言葉遣いや振る舞いを見るに、人と接する事が苦手なようだ。

 想像を超える行動を平気でしているのに、妙な話だ。

「あ、報告でも伝えましたけど、団長が持っている聖女様像は捨ててください。そうしないときっと寝込みますよ」

「あの報告の事か。誇大報告は流石にいただけない。いくら何でも、聖女様が俺達に敵う訳が無いだろう」

 私は一切間違った報告はしていない。でも、団長の言い分は分かる。先ほど、遠目で彼女を見たのも、団長の言葉の理由だと思う。うん。私だって、あの報告を読んで、あそこで眠っている彼女の姿を見ただけならそう思っていただろう。でも、油断していなくても私達は負ける。二人揃って挑んでも負けるだろう。

 戦う事にはならないと思うけれど、信じないなら仕方が無い。

 団長には、その辺を会話の中で感じ取ってもらうしかない。

 後片付けを終えた後、聖女様を起こした私達は、命が刈り取られるような恐怖体験をするのだけれど、もう少し風化するまでは思い出すのは止めておこうと思う。



 気まずい空気の中、私と聖女様は里へ向かって旅をしていた。

些細な誤解ではあったけれど、未だかつてあれほど震えあがった事は無かった。

 そのせいで、彼女の気配がすると体が身構えてしまうようになってしまった。

 磁石が反発し合うように、ある程度の距離まで近付かれると、体が自然と距離を取るようになってしまった。

 普通に接しようと努めているけれど、全然体が聞いてくれない。

 聖女様も気にして、頑張って積極的に話しかけてくれているのに、会話が続かない。続けられない。

 正直、この空気のままでなら、里に着いた頃にはお互いに倒れてしまうかもと心配になる。

 けれど、解決させる手立てを思いつかず、私は手綱を握り続けていた。

(ほんと、地獄の一週間だわ……)

 困り果てていると、突然聖女様がグイグイ来た。

 どうしたのかと思ったら、いきなり自分のこれまでについて語り始めた。

 いや、聞きたいと言ったけれど、何の準備も出来ていないんだけれど。

 流石に過酷な訓練をしてきたけれど、馬を扱いながら話を書き記す訓練はしていない。

 体の拒否反応もあって、普段よりも記憶が仕事をしてくれていない中、彼女は問答無用で話を続ける。

 その内容は、私達が思い描いている聖女像とは全く違った。

 突然別世界に呼び出されて困惑している少女の日々。それを彼女は自身の世界での知識やあこがれを使って過ごしていくものだった。

 途中、幾つか私達でも出来ない特殊な訓練も含まれ、彼女の正気を疑う場面もあったけれど、今後の里の鍛錬にも使えそうな気がした。

 でも、この鍛錬を提案した時、私は里の人から正気を疑われるかもしれない。

 それがとっても心配だ。



 里に到着してからの日々は、聖女様と私にとって、想定外の日々となった。

 里への道中で、聖女様の本名がエレナだと知り、本名で呼べるくらいに関係を深める事が出来た。

「私、聖女様と友達なんです」

 なんて里の人以外でも羨ましがられる事間違い無しだと思う。

 けれど、里の人は全員がエレナを聖女様とは見ていない。

 里の人全員が喜ぶと思ったのだけれど、里の入り口での一件で、圧倒的な強者という見方をされてしまっている。

 確かに私も、あの誤解の一件がエレナとの初めての遭遇だったら、絶対に聖女様とは思っていなかったと思う。

 それぐらい、戦いにおいての彼女の身体能力は異常で圧倒的だった。

 里長を追いかけ、大木を蹴り倒す前に、襲い掛かった集団を自身の起こした風で吹き飛ばすとか、常識ではありえない世界が繰り広げられたんだもの。

 あの戦いの後、里長は体を痛めて動けなくなっている。

 里での立場を考え、里長は家に籠るようになった。

 外から来た相手と戦い、満足に動けない体になったとなれば、里の人に動揺が走るから。

 なので、事情を知る私が、里長のお世話をしている。

 その間、エレナが何をしているかというと、里の人と交流をしている。

 けれど、それはおしゃべりだったり、里の生活を体験しているという訳では無い。

 いや、ある意味で体験はしているのかも。

 彼女は今、組み手をしている。里での対人訓練である連戦組手だ。

 本来なら、途中で相手が変わるのだけれど、エレナが勝ち続けているために、一日中彼女が里の人の相手をしている。

 積まれていく里の人。それを見たら、聖女様として彼女を見る者はいないなと、改めて思う。

 私の場合は、彼女の世界の物語がとても興味深く、何時間でも会話が出来るけれど、里の人達は、何を話して良いのか分からないくらい警戒している。

 たまに王国に居る脳筋が拳で語り合えば親友だ!! とか言っているけれど、どうやらそれは、実力がある程度拮抗しているからこそのようだ。

 一方的で圧倒的な力の前には、互いの理解が深まる事は無い。



「……っと、いけない。いつの間にやら朝になってるわ」

 これまでの事を思い出していたら、朝になってしまった。

 聖女様の力を見せた途端、態度を改めた里長には驚いたけれど、やる気が溢れる里長をあんな方法で寝かしつけるエレナにも驚かされた。

 よく里長の家が壊れなかったなと思う。やっぱり、ここの木材を使って建てられているから、丈夫なのかもしれない。

「そろそろ行く時間ね」

 私は、体を伸ばして立ち上がった。

 今日は、エレナがオワンネに向かう旅立ちの日。

 昨日、目を覚ました里長との改めての話し合いで、彼女は渋々ながらも最前線に向かう事を決めた。

 昨日も抵抗があったみたいだから、きっと今日も渋い顔をしているんだろうなと思う。

 私は、彼女が無事に戻って来るの願い、その思いを彼女に伝えておこうと思う。

 もちろん、物語を完結させるためだけれど、一番は大切な友達とまた再会するためだ。

 私は、聖女様よりも影が薄く、普段は意識の外にある創造神様にも祈りつつ、家を出た。

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