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聖女様を探して

 城を飛び出した聖女様を追い、城を出たダイブロス王子とマクシタテルン。

 馬を走らせてから約一日。彼らは王国に最も近いギャッツ村の近くまで来ていた。

「待て。人が居る」

 村の入り口の所に三人の人影を見つけ、ダイブロスは馬を止めた。

「守衛をしている者達では? この見晴らしです。盗賊の類では無いかと」

 よほど高速で移動する存在でも無ければ、奇襲には向かない平らで森からも離れている地形。

 聖女様が居なくなってからのダイブロスは、気を張り続けていた。

 必要以上に警戒心を強くしている事に、マクシタテルンはその身を案じていた。

「私が先に行きましょう」

「いや、自分が行く。二人旅だ。全てをまかせる訳にはいかない」

 問答する時間も惜しいと、ダイブロスは三人の人影に近付いた。

「そこで止まれ。何者だ!!」

 多少声を張ればやり取りが出来る距離まで来た時、ダイブロスは止められた。

 村の入り口では無く、その手前でというのは平時には無い対応。

 これにダイブロスは、村で何かが起こっていると感じ取った。

「我々はエルルート王国の騎士。人探しの途中なのだ。話を聞かせてはもらえぬだろうか?」

「王国!? 本当に王国の騎士なのか?」

 突然やって来た事に驚いているのか、それとも別の理由か。守衛の反応を探るダイブロス。

「騎士団の紋章がその証だ。近くに来て確認してもらいたい」

 彼の言葉に、三人が会話を始める。距離があるために内容を聞き取る事が出来ない。

 しかし、さほど時間がかからず、話が纏まったようで、男が一人、彼の所へやって来た。

「ではまず、紋章を確認させてもらおう」

 ダイブロスが男の姿を確認すると、まだ若い。青年で自身よりも幾つか下のようだった。

(筋肉の付き方と良い、王国の騎士だと言っても動じぬ胆力。中々のものだ。役目を果そうと確固たる意志も感じられる。良い人材だな)

 急を要する事態で無ければ、今この時に騎士団へ誘っても良い。ダイブロスはそう思った。

 しかし、状況はひっ迫しているため、彼は諦めた。

「ああ、こちらだ」

 ダイブロスは首飾りを男に渡した。

 騎士団に属していると証明する物は幾つもある。

 しかし、剣を渡せば、武器を渡した事になる。鎧を確認させては、身を晒す事になる。警戒を緩めない彼にとって、一番危険が少ない物。それがそれぞれの部隊に所属した時に渡される舞台と名が入った首飾りだった。

「確かに騎士団の紋章だ。大変無礼な振る舞いを重ねました。どうぞ、お通りください。ダイブロス殿」

 男は首飾りをダイブロスに返し、膝を突いた。彼の動きに気付き、後ろに見えた二人も同じ動作をしていた。

「三人とも楽にしてかまわない。先も言った通り、ここへは人探しのために立ち寄ったのだ。何か知ってはいないだろうか?」

 ダイブロスは聖女様の特徴を上げ、三人に尋ねた。

 すると、三人の顔色が変わった。

「あの、その方は本当に聖女様なのですか?」

「信じられない。あれが聖女様だった……?」

「私、普通に話してたんだけど……」

 三人の動揺が激しい。正体を隠し、何かに巻き込まれたのだと、ダイブロスは考えた。

「今、その者はこの村に居るのか? 隠し立てすればただではおかぬぞ」

 一大事であったなら、早急に救い出さなければならないと、彼は語気を強めた。

「落ち着いてください。そのような物言いでは、民達が萎縮してしまいます」

 その様子を見たマクシタテルンは、冷静になるよう求めた。

「申し訳ない。我々も緊急なのです。それから、言動による無礼があったとして、あなた達が何らかの罪に問われる事はありません。ですので、民として正しい行いをしてください」

 隠し立てをしていなければ不問。その言葉に、三人は困惑した表情で見合っていた。

「すみませんが、俺達はその人物によく似た人と会話をしました。ですが、その人が聖女様とは思えません」

「異国の地から現れた方だ。一目見れば我が王国の民ならば違うと分かるぞ」

 ダイブロスの言葉に、男は言った。

「では、聖女様は扉を開ける際、その先にあった壁に大穴を開けられるのですか? 土煙を上げて走るようなお人なのですか? 俺達が見たのはそういう人です」

 今度はダイブロスとマクシタテルンが顔を見合わせた。

 二人は、聖女様が体を鍛えているという情報は掴んでいた。

 しかし、直接目にする事が無かったため、その内容を把握していない。

 それは、聖女様から距離を取られているので、王国との関係が良好になるまでの間の一時的な処置だった。

「ちょっと待て。それは本当に人なのか? それも変装などでは無く?」

 騎士団の人間でもそのような事は出来ない。故にダイブロスは、相手が真剣な表情で偽りの情報を出しているとしか思えなかった。

「ですよね。では付いて来てください」

 男に案内され、二人は村の中へ入った。

 二人は、村に入ってすぐに異変に気付く。

「人が居ないようだが、住民は何処へ?」

 尋ねると、三人の雰囲気が暗くなった。

「大人は皆、出稼ぎに出ているのです」

 巨漢の男が答えた。

「出稼ぎ? この村は税を正しく収めていたと記憶しているが、それは出稼ぎをしていたからなのか?」

 気付かずに重税を課していたのかと、ダイブロスは焦る。

「いえ、違います。俺達三人も騙されていたんです」

「騙されていたとは? ええっと、君」

 身の証明はしたが、互いに名乗っていなかったと気付くダイブロス。

「すまない。今まで名乗る事を忘れていた。私の名前はダイブロス。彼はマクシタテルンと言う」

「俺の名前はガイです。こっちがカンで、こっちがモンです」

「ガイ、カン、モンか。分かった。それで話を戻すが、騙されていたというのは?」

 ガイの言葉の意味を改めて問うダイブロス。

「この村の長。村長にです。あれを見てください」

 目的の場所が近付いてきたと、ガイは目的地を指し示した。

「王国に近いとはいえ、村。だというのにあれは余りにも……」

 周囲からも明らかに浮いている建物に、マクシタテルンは言葉を失う。

「もしや、あれを建てるために住人を出稼ぎに?」

「はい。ですが、それだけじゃなかったんです」

 これ以上に何があるのかと二人は思った。

「私達より下の子達も村長と一緒になって……」

 口に出すのが辛いと、モンは肩を震わせた。

「それは、すぐにでも取り締まらなければならないぞ。マクシタテルン」

「話を聞き次第、すぐに手配しましょう」

 二人のやり取りを見て、ガイは言う。

「聖女様かは分からないが、俺達が出会った女が言った事は間違いじゃなかったようだ」

 セントレディの言葉に偽りが無かった事を喜んでいた。

 その実、僅かでも追手の進行を止めるという理由が多分に含まれていた事を、彼らは知らない。



「ほ、本当に向こうの景色が見えている……だと」

 豪華すぎる村長の屋敷の玄関までやって来たダイブロスは、三人の言葉が真実であった事に顎が外れそうなほどに驚いていた。

「顎、顎」

 マクシタテルンがコソッと耳打ちで王子らしからぬ振る舞いを指摘する。

「す、すまない。いやしかし、これほどとは……。これをやった者は君くらいの体格だったのか?」

 モンに確認するダイブロス。

「私とそんなに変わらないのにすっごく速く動けて、カンよりも力持ちでした」

「そ、そうなのか。これは流石に、似ているだけで聖女様では無いな。無いよな?」

 比べる方が失礼だと、村を訪れた時にはあった絶対の自信が揺らぎ、疑うダイブロス。 

「そうですね。このような事が出来る聖女様など居られません。さあ、この村で行われた犯罪の話を聞き、次へ行きましょう」

 マクシタテルンも、聖女様がこのような行為を出来るとは思えず、やはり人違いだという判断をした。

 聖女様とこの行為を行った人物との類似する点に関して考察する事を頭が拒否していた。

 突き詰める事で、自分達の築いていた聖女様に対する印象が崩れ落ち、拠り所を失う危険を恐れていたのだ。

 二人は、この出来事から目を逸らすため、ガイ達が捕まえた者達の元へ急いだ。



 結局一日を村で過ごす事になったダイブロス達。しかし、二人に焦りの色は無い。

「その者はこの道を真っすぐ向かったのだな?」

「はい。歩いて行きました」

 二人が焦っていない理由。

 それは、聖女様と屋敷を貫通させた人物がそれぞれ違う存在だと逃げの認識をしていたから。

 そして、それほど似ている人物なら、聖女様に繋がる手がかりを持っているはずと考えた。

 加えて、相手は徒歩での旅で、自分達は馬を使っている。村を離れてから日も浅いのなら、十分に追いつくことが出来る。そう考えていた。

 だが、二人は見落としていた。

 徒歩での旅だというのならば、二人が馬でこの村を訪れるまでの間に追いついてる事を。

「使いは出しました。一両日中に王国から騎士団がやって来るでしょう。その時に証拠品を渡してください」

 別れ際、マクシタテルンは三人に言った。

「分かりました。ありがとうございました。聖女様が見つかる事を願っています」

「見つけねばならぬ。大陸のためにも、絶対にな」

 ダイブロスはそう言うと馬を走らせ、ギャッツ村を後にした。



「道沿いに進んでいるのなら、必ず出会うはず。周囲の確認を怠らずに進もう」

 しばらく進み、ダイブロス達は聖女様が途中で行き倒れていたら困ると、警戒しながら進んでいた。

「王子、前方に馬車が見えます」

 何台もの馬車がすれ違おうとしていた。

「何か知っているかもしれない。止めるぞ」

 ダイブロスは、近付いてくる馬車に手を振り、合図を送った。

 それに気付いた相手は速度を緩め、止まった。

「突然すまない。この馬車の責任者に会わせてはもらえないか?」

 先頭に居た御者に目的を伝えるダイブロス。

「話は聞こえました。用件は一体――!?」

 馬車から降りてきた、只ならぬ風貌の人物は、ダイブロス達を見て驚いていた。

「すまない。我々は騎士団の者だ。名をダイブロスと言う。共に居るのはマクシタテルン。今、人を探している途中なのだ。話を聞かせてもらいたい」

「そうでしたか。私の名はトロンと言います。それで、どのような人をお探しで?」

 ダイブロスは聖女様の特徴を伝えた。

「そのような人物なら確か……」

 押し込んだ記憶を引っ張り出すような素振りで顎を擦るトロン。

「ああ、思い出しましたよ。似た人物でしたら、ギャライア村で見かけましたよ」

「ギャライア村だって?大きく道を逸れているではないか。いや、それよりも移動速度が速すぎる。途中で乗合馬車にでも乗ったか?」

「ですが、彼女に手持ちがあるとは思えません」

「なれば、誘拐されたか? これはいけない。直ちに救出に向かわねば。トロンよ、足を止めさせてすまなかった。そして、情報提供感謝する」

 ダイブロスは早口で言い終えると馬を走らせた。

 去った二人が進んだ方向を見つめ、トロンは言う。

「すみません、王子。あなたにはもうしばらく無駄骨を折ってもらいます」

 秘密部隊は、代々の王とその側近のみにしか知る事を許されない存在。故に次期国王であったとしても、今はまだその素性を明かす訳にはいかない。

 その後、ダイブロス達がギャライア村に辿り着くと、人攫い組織の悪事について村長から伝えられ、対応に追われてるはめになった。

 証拠品と罪人は既に運ばれた後であったが、貴族が利用する屋敷が悪党の巣窟になっていたという事で、立場上、後回しにする事は出来なかった。

 数日後。屋敷の管理者がやって来た時、二人には新たな指示が下された。そのため、彼らは急いで城へと戻る事になるのだが、それはまた別の物語。

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