61 張り切りお爺ちゃん 旅立ちの聖女様
「それはどういう事ですか? 聞いた話では、歴代の聖女様は歴代の国王と結婚したと聞いていますよ。であれば、それまでの経緯も記録されているのではないですか?」
「どの歴史書にも聖女様のお力で大陸は救われたと記されている。しかし、その詳細までは記されていないのだ」
私はてっきり、魔法の力か聖女様だけが持つ力によって時代時代の邪悪なるものが消えたのだとばかり思っていました。
「今代の聖女様。つまりはあなたです。わしはあなたを見て思うのです。聖女様の力とは武力だったのではないかと」
「な、えぇっ!?」
そんな世紀末で鍛えられた肉体一つで戦うような展開が正解だったら、それはそれで嫌です。
それなら聖女様では無く拳女様です、いえ、この場合は拳一つで全てを統べるのですから、拳王の方が威厳があって相応しいかもしれませんが……。
「そっか。エレナの強さだったら騎士団全員が相手でも勝てるもの。それに、里の人相手に汗一つかいてないし。それなら邪悪なるものだって倒しきる事が出来るかも」
これは大発見だとばかりに、エリンナは感動していますが、聖女様を大層崇拝しているこの大陸の人として、それで良いのでしょうか?
「なので聖女様。あちらから要請されている補給物資と共にすぐに向かってください」
「えっ! 今からですか!? 夜ですよ。流石に夜目は利きませんよ」
いえ、そういう問題ではありません。拒否権無く行かされようとしている事が問題です。
「……と言う事をわしは伝えたかったのです。日中ならば」
えらい肩透かしでした。
「そうですか。流石にそこは考えてもらえてましたか」
「邪悪なるものに関する事以外で、聖女様を危険な目には遭わせられません」
では、里での日々は危険では無かったと?
可能性でも聖女様であると思うのなら、無限組手なんてしないと思いますが……。
「では聖女様。明日の出発に備え、今日はもうお休みください」
「はい、分かりまし――いえ、何をさらりと行く流れにしているのですか?」
「えぇ、行かないの? わし、滾る体で動きたくてうずうずしてる所なのに」
熱が下がって元気が溢れてきた子どものような感じでウキウキソワソワな里長。
「それは、里長こそ歳を考えてもう寝るべきです。子どものような事を言わないでください」
「聖女様。男って言うのはな、馬鹿みたいな事をしたがる生き物なんだよ。湧き上がる活力を今生かさずに何時生かす?」
声の質というか、話し方が若返っている感じがします。
それはそれとして、そんなの、翌日に回せば良いと思います。里の人も、きっともう寝ているか、それぞれの時間を過ごしている頃です。そこを一人だけハツラツとしているご老体が無茶苦茶にしなくていいのです。
「はぁ……。仕方ありません」
私はこれだけは使いたくありませんでしたが、やるしかありませんね。
里長の両手を取りました。
「急にどうした?」
「こうするのです」
私は軸。里長はカゴ。水平と垂直の差はありますが、私が回れば里長が回る。
加速度を付ければ高速回転。そうです、私達は今、高速観覧車。
流石にメリーゴーランドと言って、里長を馬に例えるのには抵抗がありました。
何故って? あれは白馬ですから。
人がどれほどのGに耐えられるのかは分かりませんが、そこはやってみなくては分かりません。一回、二回と回るごとに加速させていきます。
グルングルン回るGの力に里長はどれほど耐えられるでしょう。
(さあ、回れ。回るのだッ!!)
何となく気分は悪役で、回数を頭の中で数えました。偉大な記録は出るのでしょうか? と期待していました。
ですが残念! 十も持たず、里長の体から力が抜けてしまった!!
「エレナ。いきなり何しだすの」
「何って、回っただけですよ。見てください。里長は御覧のように眠っています」
力尽きてぐったりした様子の里長をエリンナに見せました。
「いやいや。それもそうだけどさ。この惨状を見てよ」
そう言われても、私達が回っている間に火が消えてしまったので、何も見えません。
「えっと、言葉で説明してもらえると助かります」
エリンナのため息が聞こえました。
無言で歩き始めるエリンナ。何かを探している音が聞こえ、少しすると彼女の周りが明るくなりました。
彼女が探していたのはロウソクでした。
「ほら、これ見て」
ロウソクを渡されました。上から渡された事を疑問に思いつつも、ロウソク越しで部屋を見ました。
「あっ!!」
思いつきで行動してやらかしてしまいました。
そうです。ここは部屋の中。そこで人が気絶するほどの回転を起こせば、それはもう台風とほぼ変わりません。部屋に在ったものは全て、端へと追いやられ、それはもう酷い有り様に。
加えて私が回転した所も穴が開いていました。通りでエリンナの身長を高く感じた訳です。
「み、見なかった事にしましょう」
パンッと手を叩き、はい、おしまいです。
「それで済ませられる訳無いでしょ!!」
叱られてしまいました。
まだ鳥だって寝ぼけ眼を擦っているような朝の時間。
弱みを握られ、突かれ、旅立ちの朝を迎えていたのです。
私は、渋い顔で里長とエリンナの前に立っていました。
「分かってください、聖女様。この旅に馬は付いて行けません」
「急ぎと言うならそうですが……」
「だ、大丈夫だって。ほら、馬よりはや~いとか言ってたでしょ?」
そう言った気もしますし、そうだという自負もありますが、心中は複雑でした。
ここで今後の私の旅の仲間を紹介しましょう。
隠れ里製の特別強化荷車(馬車サイズ)です。
説明によると、どんな悪路でも難なく走り、どんな振動でも丈夫に耐えるそうです。
中には、荷車一杯の食料(酒含む)と私用の食料です。
かかる日数は分かりませんが、一週間分の携帯食料を用意してくれました。
この頼れる物言わぬ相棒が私の旅の友となるのです。
「森を抜けた後、三又の道まで戻ってください。そこから東へ進むのです」
私が最初に進もうとした道の先。それが聖女様の最終目的地だったとは、危ない所でした。
ゲームでもそうですが、準備不足で突っ込んではいけません。
本意ではありませんが、回り回って、巡り巡って、支度が済んだ状態で向かう事になりました。
「ところで聞き忘れていましたが、その最前線に地名はあるのでしょうか?」
ずっと最前線と聞かされていたので、名を知る機会がなかったのです。今が丁度良い時でしょう。
「尽きず現れる者が生まれる地、オワンネ」
ん~、耳がおかしくなったのでしょうか。もう一度確認してみましょう。
「もう一度お願いします」
「ですから、オワンネです」
間違いでは無かったようです。無限に邪悪なるものが生まれる地だからオワンネ。
聞かなければ良かったと思いました。
「エレナ、ちゃんと無事に帰って来てよね」
肩透かしされた私を戻すように、エリンナがちゃんと場面に合った心配してくれました。
「大丈夫です。私はなんとしても家に帰るんですから」
「そう。でも、帰る前にちゃんと旅の内容を聞かせてね。中途半端じゃ、物語として成り立たないから」
執筆方面での心配でしたか。
「それもちゃんと話しますから」
「うん、絶対だからね」
彼女はそう言って、私の手を強く握りました。
茶目っ気を含んだ励ましを受け、私はその手を解きました。
「では、行ってきます」
現地の状況が芳しくなかったのなら、すぐに逃げ帰ろう。そう決意し、私は二人と別れました。
荷車と共に最前線を目指して。
第二部 ぶらり聖女の成り行き旅編 完




