60 複雑な事情と怪しい事実
「それは、かなり戦況がよろしくないという事ですか?」
「そう見るべきなのでしょう。どうも、最前線で戦闘が行われている様子が無いのです。次第によっては、既に前線に居る味方は全員やられてしまっているのかもしれません」
「そ、そんな……」
改めて言われるとショックを受けましたが、冷静に考えれば当たり前でした。
私が呼ばれたのは、王国が追い詰められていたからです。
王国の思惑通りに動くのは嫌ですが、私のせいで前線に居る人が全滅というのもモヤモヤします。
「里長。偵察なら私が行きます」
エリンナが手を上げました。
「いや、お前にはトロン達と合流してもらう」
「何故ですか?」
「もしもの時、頭数が多い方が良いからだ」
それは、私一人がトロン隊と同等という事でしょうか? それとも、トロン隊でぎりぎり状況を維持出来るという事でしょうか?
秘密部隊の力が分からないので、私には判断出来ませんが、一人だと人数的に無理があるようにしか思えません。
里長は他に活路を見出しているというのでしょうか。
そうだとすると、思いつくのは一つだけです。
「里長さん。もしかして、私が最前線に向かう事で聖女の力が目覚めると考えていますか?」
私は、筋トレをしてかなり身体能力が向上していますが、聖女の力については全く分かりません。無限の魔力だけで何が出来るというのでしょう。
それに、聖女の力とは、よくある展開としては“愛”だと思うのです。
私は、この世界に愛する人は居ません。友達は出来ましたが、世界を愛しているという訳でもありません。
なので、そもそも聖女の器では無いのです。もっと言うなら、何かの手違いだったとしか思えません。そんな私に期待されても困るのです。
「聖女様は、忘れていますね」
急に長らしい重々しい雰囲気を出してくる里長さん。
「な、何をですか?」
「わしらが邪悪なるものと戦えないと言うのであれば、今では無く、遥か昔に大陸はとうの昔に邪悪なるものの手に落ちています。そうなっていないのは何故かを」
「それは、騎士団や魔術師団の方達が頑張っていると聞いていますが?」
存在を知った今なら、秘密部隊もその一端を担っていると言えます。ですが、そういう事を言いたいという訳では無さそうです。
「実を言うと、歴代の聖女様がどのようにして邪悪なるものとの戦いに勝利したのかを誰も知らないのです」
ここに来て怪しい情報が出てきました。




