59 聖女の証明 やっと会えたね?
「な、なんだ? 何故近付いてくる!?」
本来ならすぐに離れようとしたのでしょうが、里長は顔をこちらに向けて怯えるだけで動きません。
相当酷い状態のようです。
「聖女の力は癒し、という訳では無いようですが、私だって回復魔法が使えるんですよ」
「か、回復魔法だって!? 止せ、止めるんだ。お前のような常軌を逸した者の魔法など受けたくない!!」
全力での拒否でした。私はこれに対し、笑顔で返しました。
「もうお爺ちゃん。好き嫌いしてちゃ、早死にしちゃいますよ」
ゆっくりと里長の体に手を伸ばしました。
急に触って驚かせてはいけないと思ったからです。少しでも長く恐怖を感じさせるとか、そのようなサイコパスな考えがあった訳ではありません。
「せめて、せめて人として逝かせてくれぇぇぇぇぇ」
何時だってどうかと思いますが、夜中にその叫びは、尚更誤解を生みます。
断末魔のような叫び声を聞きつつ、私は回復魔法を使いました。
「ケチルア」
私の国の言葉だと渋ってそうですが、これが回復魔法なのです。
一番初歩だとケチルで、お城ではドンドン自分がドケチになりそうな自己暗示と戦いながら繰り返しました。それから程無くして覚えたのがこの魔法。私が習得した中で最上位の回復魔法であり、使い込む事で状態異常を除く軽度のマイナス状態を回復させる効果が追加されたケチルとは違い、使うと完全にマイナス効果を取り除く事が出来ます。
ですが、本来はかなり魔力を消費するようなので、連発は出来ません。完全にマイナス効果を取り除くというのも、私が使い込んだ結果なので、他の人が習得していても私が使うケチルと同等の効果止まりになるでしょう。
「えぇぇぇぇぇぇえ?」
断末魔が疑問形に変わりました。
「体の具合はどうですか?」
里長に尋ねると、仰向けのまま体を動かし始めました。それから上体を起こし、次に立ち上がり、屈伸したり、飛んだり跳ねたりと動いていました。
あらかた動くと、急に動くのを止めて私の方を向きました。
「この力、本当に聖女様だったんだな」
「認める気はありませんが、そうですとずっと言っていたではありませんか」
「今までずっと、人を超えた存在だと思っていた。いや、聖女様とはそういう存在なのだが、あなたのは聖女様とは違う方向の存在でした」
(回復してあげたら、急に敬われるようになった件。~今まで人外扱いされてましたが、私は普通の陰キャです~)
っと、いけません。何か、別の物語が始まりそうなタイトルが頭の中で浮かんでいました。
「私は一般市民なので、これを機に人として見てくださいね」
「いや、聖女様にそのような扱いをするのは……」
拒んでいますが、里長はこれまでその聖女様を人以外の存在として扱っていたのですが……。
里長の手の平は、肩並にグルグル回す事が出来るようです。
「とりあえず、里長が回復して良かったよ。それで、里長。エレナに用事とは何だったのですか?」
「おっと、そうだったな。実は、最前線に食料を運んでもらいたいのだ」
「最前線? それはもしかして……」
「そう。邪悪なるものとの戦闘が行われている地の事だ」
二人の会話を聞いて、もしやとは思いましたが……。
私の脱走の目的とは裏腹に、とうとう聖女の役目が私に追いついてきました。
「あの、里長さん。どうして私になのでしょう? お城の兵士。騎士団や秘密部隊では駄目なのですか?」
「駄目という事は無い。しかし、聖女様のお力。この場合はその常軌を逸した肉体の力を指してですが、その力を貸して頂くべきと考えました」
聖女の力では無く、純粋な腕力とは聞き捨てなりません。




