55 里長どっきりチャレンジ
「……ここは?」
里長が目を覚ましました。
私は今、エリンナの案内で里長の家に居ます。
「里長の家です。倒れたので運ばせてもらいました」
無理して起きないようにと手で示しつつ、エリンナが伝えました。
「おお、そうだったか。記憶が曖昧なのだが、とてつもない強者が里にやって来た夢を見た事は覚えている。奴は一斉に襲い掛かった里の者を自身が起こした風で吹き飛ばし、全力のわしですら捕まえる恐ろしい相手だった」
「そ、それは怖い夢でしたね」
「あれはこの先で起こる予知夢だったのか。それとも、自身を鍛え直せという神からのお告げだったのか……」
この世界にも神様って居るんですね。魔法がある世界ですから、私からすると存在していてもおかしくないと、元の世界よりも強く思えます。
「所で、何故お前はここに居るのだ? 人攫いの組織を壊滅させる任務を任せていたはずだが? もしや、トロン達が危機に瀕しているのか?」
かなり心配している様子です。私は、隠れ里の長であり、秘密部隊の本拠地というイメージから、冷酷無比な人を想像していましたが、そうでは無いようです。
私が捕まえた時のくっ殺発言をした姿と今とでは印象が全く違いました。
「え、ああ~。それはもう終わりました。今は休暇も兼ねてお土産を運ぶために戻ってきました。それともう一つ」
「もう一つ? 一体それは何なのだ?」
そろそろ私の出番のようです。私なりに存在を消し、里長が横になっている布団の上。つまりは頭上の先の視界に入らない位置で座って待っていました。
「今代の聖女様をお連れしたんです」
「せ、聖女様を!? なんという事だ。ここで寝ている場合ではないぞ。すぐにご挨拶をしなければっ」
泡を吹いて意識を失っていたというのに、元気に飛び起きる里長。
「して、聖女様はどちらに?」
隠れ里の住人であっても、聖女様への関心は高いようです。その期待に満ちた姿に、エリンナが困っているのが分かりました。
「ええっと、ですね。後ろに」
「う、後ろだと!?」
エリンナに言われ、振り返る里長。その年甲斐も無く期待に輝く瞳は少年のようでした。
お互いの視線が重なり、時間が止まったような状況になりました。
「う、うわぁぁぁぁぁぁっ」
少年のような憧れに満ちた表情は、間を置いて絶望に変わりました。
歳も歳でしょうから、外まで聞こえるほどの悲鳴は体に触るでしょうに。
「こ、ここ、こいつだ。こいつが夢に出てきたのだ。エリンナ、逃げよ。誰も奴には敵わぬ」
強者には自身が囮となり、次世代を生かす。その姿はとても感動的ですが、恐怖の対象が私である事を思うと、複雑です。
「里長、落ち着いて。彼女が今代の聖女様なんです」
エリンナが視線で私に訴えます。
自己紹介をするように、と。
私は、咳払いを一つして、喉の調子を整え、なるべく綺麗な声で自己紹介をしました。
「改めて始めまして、里長さん。私が今代の聖女です」
アワーフレッタさんとの訓練で外見的には変わりませんが、筋肉が成長しているのでしょう。
自分の中でも一番と言って良いほどに良い声で自己紹介が出来ました。
満足のいく一声に、里長はどのような反応で返してくれるでしょうか。
チラッと里長を見ました。
「お前のような聖女が居るかぁぁぁぁぁっ!!」
里長もまた、私が聞いた彼の声の中で一番の声量で叫んでいました。
「落ち着いて、里長。私は彼女がお城に居る時にその姿を確認しています。紛れも無く、彼女は聖女様なんです」
必死に宥め、落ち着かせるエリンナ。その姿は、祖父の世話をする苦労人に見えました。




