54 強者のにおい 拭いただけではだめですか?
「さ、里長!?」
とても驚くエリンナ。顔見知りのようです。
「お知り合いでしたか」
「知ってるも何も、隠れ里の長だよ。里長っ」
どうやら名前では無いようです。
確かに、長の一つや二つをやっていてもおかしくはない年齢のようですが、まさか里の長だったとは……。老齢であの速度を出せる事にも驚きです。
「くっ、人外に魅入られたか。裏切り者め。殺せぇっ」
とても威勢の良いお爺さんでした。くっ殺お爺ちゃんなんて、どこにも需要は無いでしょうし、早めに誤解を解くとしましょう。
「里長さん。エリンナはトロンさんから言われてここに来たんですよ。それから、私は彼女に誘われてここに来たんです。敵ではありません」
口調は丁寧で、お年寄りにも親しみやすい感じだったと思います。
「覇者の衣を纏う者を信用出来るか」
「覇者の衣?」
異国というよりも異世界の衣だという自覚はありますが、里長が言うような物を羽織ってはいません。
「エレナから出ている雰囲気かな」
俗に言うオーラでしょうか。
「私、普通の女子ですよ。そんな汗臭そうなもの出してません」
お城を出てからお風呂とは無縁でしたが、それでもまだ両手の範囲で数えられる程度の日数です。一応途中で体は拭きましたし。一回だけですけど。
お城で訓練していた時とは違い、汗だってほぼかいていません。
なので汗臭さとは無縁のはずです。仮に何かしらの悪臭を放っているとしたら、それは牢屋に居た時のカビ臭さでしょう。
「くっ、拘束した者に更に圧を加えるかっ」
「エレナ。抑えて、抑えて」
自分の中で、私、臭くないという自己弁護に夢中になっていたら、二人に言われてしまいました。
ここまで来ると、流石に私もピンと来ます。
「どうやら私は、興奮するとその覇者の衣が出てくるみたいですね」
ガイが強者の臭いと言っていましたが、あの時も初めての村を見つけてワクワクしていた時でした。
お城に居た頃はまだオーラ云々について言われていなかったので、アワーフレッタさんと過ごした時間の中で発現か開花したと見るべきなのでしょう。
(まさか、聖女様の次は覇者とか呼ばれるようになるだなんて……。次は王とか神とか呼ばれるの?)
先を考えると展開に不安を覚えます。でも、ワクワクもしていました。
「エレナ、エレナ。里長泡吹いてるから」
「え?」
無意識の内にまた垂れ流されていたのでしょう。当てられた里長は、エリンナの言う通りに泡を吹いていました。




