50 方針転換 5秒前
「思いのままに操り、術者の私利私欲のための人形になっていたのかという事です」
まだこの世界では、グへへで全てを理解出来るほどには物語内で描かれていないようです。
「そんな都合の良い魔法は無いな。それこそ、心を壊す薬でも使ったというのなら話は別だが」
「と言いますと、心身共に良好だという事ですか?」
「ああ。食べたい物を食べ、飲みたい物を飲んで堕落して生きていくんだっていうのが組織の共通認識だった」
「その目的の割に、人攫いをして働いてますね。口だけ勤勉ですか?」
「そこを勤勉と捉えるのはどうかと思うが……。何でも、他の人間も仲間に引き込んで、堕落仲間を増やしたかったらしい」
「もう目を凝らさなくても崩壊が見えている思考ですね。そんな組織だというのに、よくもまあ、成り立っていましたね」
仲間外れはいけない事だから、寂しそうな人は絶対に仲間に入れてあげようね。というような保育園か幼稚園で言われていそうな事を信念にしているリーダーの意識が伝染していたのでしょうか?
「私もそう思うけれど、ここ最近みたいなのよ。組織の在り方が変わったのって。私が証拠を探していた時には、ちゃんと人身売買が行われていた記録もあったから、ほんの二、三ヶ月前よ」
かなり手際良く分別していたと思いましたが、しっかり中身も確認していたのですね。
一人で潜入したりしていたので、やはり出来る女なのでしょう。
「結構最近ですね。それにも驚きますけど、そんなにがらりと方針を変えては、離反する人が居ても不思議じゃないですよね。あ、もしかして、裏で悪事を働いていて、その罪を全て組織のした事にしているというあくどいやり口だったとかですか?」
「私の所見では無さそうね。そもそも、罪を着せたとして、組織の中に居続ける必要は無いわ。態々裏切りの証拠を裏切った相手の所に残しておく理由も無いしね」
話を聞けば、確かにそうでしょう。ですが、やはり不自然ですね。
「話は聞かせてもらいましたが、私が力になれる事は無さそうですね」
トロンさんの表情の理由も分かったので、お話も終わりだと思いました。
「いや、セントレディ様だからこそ、力になってもらえるのではと考えたんだ」
秘密部隊の人間でも分からない不可解な状況で、何故私なのでしょう?
「あなたはその……だから、俺達には分からないものを感じたり、見たり出来るのではと思ったんだ」
肩書を言わず、ニュアンスで私に求めてきたという事は、邪悪なるものが関与した可能性をトロンさんは考えたのでしょう。
「残念ながら、私には何も。黒い靄などの分かりやすく怪しいものを彼らが纏っていた訳ではありませんし。あの場に私が居てもおかしな挙動をした人は居なかったですよ。まあ、おかしな言動をする人は居ましたけど……。エリンナもそれは分かっていますよね」
「そうね。あなた自身のおかしさはあっても、あなたの周辺で不審と感じる事は無かったわ」
「そうでしょう、そうでしょう。と、私の何所がおかしいと?」
「扉の開け方」
「うぐぅ……」
それを言われると何も言えなくなります。
とにかく、改めて私では力になれないと分かったので、そろそろ彼女達とお別れしましょう。
「では私ももう行きますね。エリンナ、トロンさん。お仕事頑張ってください」
相手がお城の関係者なので、これ以上一緒に居ても良い事はありません。手を振って歩き出したその時です。




