48 初見で山賊。秒でなりますよね。
「セントレディ。セントレディ」
覚えの無い名前を呼ぶ誰か。
「セントレディ、セントレディ」
何故そう呼んで私を揺するのでしょう。もう少し寝ていたいのですが……。
「見つけたぞ。逃げた聖女だ!!」
この言葉に、私は慌てて飛び起きました。
「お、追手は!?」
周囲を確認する私に、同性の声が聞こえてきました。
「居ないわよ。目覚めは最悪だろうけど、起きて良かったわ」
「え? あ、エリンナ」
エリンナ達の邪魔にならないようにと隅に生えていた適当な木に背中を預けていたら、いつの間にやら眠っていたようです。
「随分と優しい起こし方ですね」
まだうるさい心臓の鼓動を感じつつ、彼女に言いました。
「でも、効果はあったでしょ?」
それを言われると何も言えません。
「それで、このような起こし方をしてどうしたんですか? 事件ですか? 事故ですか?」
「ギャライア村を出る前に団長と顔合わせさせようと思ってね」
「ギャライア村? それはここの名前ですか?」
「そうよ。地図で見たら、王国の西側にある村ね」
地図……。そんな便利アイテムは何時手に入るのでしょう……。
当てが無いので、いっその事、自力マッピングしても良いかもしれません。
「そうでしたか。私は夜逃げして、道沿いを真っすぐ行った所にあった人里から来たのですが、そこの近くですか?」
「王国の近くというと、ギャッツ村かな。悪趣味で場違いな村長の屋敷がある村だった?」
「はい。扉を開けたら、その先の壁が貫通して景色が見えるくらい脆い建物でしたよ」
「全く状況が理解出来ないから、後で詳しく聞かせてもらえる?」
「ええ、大丈夫ですよ」
あの三人の居た村の名前が分かりました。
「お~い。話は出来たか?」
がっちり体型で山賊と間違えそうな男の人が近付いてきました。
私は、エリンナに向けていた表情を殺し、スンとしました。
「団長、出来ましたよ。ほら、この人がだん――」
スンッとなっている事に気付かず、エリンナが話しながら私に振り返りました。
「え、何で心殺してるの!? 聖女が持ってちゃ駄目な高等技術だよ、それ」
置物となるのが高等だというのなら、私の国の人はほぼ習得済みなので、異常だという事になりますが……。
「俺に気付いた途端に表情を消していたぞ。それにしても、この方が今代の聖女様か。聖女様にしておくには勿体無い逸材だな」
褒められましたが、ここは喜ぶべき所なのでしょうか?
「そんな事よりもどうしたのさ。さっきまで普通に会話してたじゃない」
同性である事、馬車からなんやかんやあった事。それが今まで普通に彼女と話せていた理由だと思います。
思えば、打ち解けられた相手は、この世界では二人目でした。かなり貴重だと言えます。
「まあ、そう慌てるな。聖女様も、いきなり俺みたいなのが現れたから驚いたんだろう」
ええ、全くその通りでした。見知らぬ男の人なんて、初対面だと最初の挨拶を交わすのがやっとです。ですが、この人の外見は、それが出来ないくらいに警戒させました。
いくら身体能力が向上し、多少の事なら力で解決出来るようになったと言えども、私の心は急には変わりません。
「っと、それに自己紹介がまだだしな。聖女様、お初にお目にかかります。自分はドロン・トロンと申します。エリンナに呼ばれているように、トロン一座という劇団の団長をしている身です。ドロンでもトロンでも、お好きに呼んでください」
ご丁寧な挨拶でした。そして、その後にエリンナが耳打ちしてきました。
「表の方だから」
私は、彼女の言葉に頷きました。
初めから聖女様と呼んでいたので、そうだろうとは思いましたが、確信が持てました。
秘密部隊の隊長と言われれば納得の風格です。劇団の団長と言われるよりも腑に落ちます。
その正体を知り、彼の外見にも目が慣れてくると、やっと会話が出来そうでした。
「その、始めまして。突然ですが、人前でその肩書で呼ばれるのは困るので、偽名の方でお願いしたいです。トロンさん」
まだちゃんと目を合わせられないですが、合間合間で合わせるように頑張りましょう。
「ああ、これは失礼しました。セントレディ様」
「様も取ってください。それと、こんな何処にでも居る普通の一般人に、目上のトロンさんが畏まっているのも不自然ですし、言葉遣いももう少し砕けて頂いた方が……」
互いに不自然にならないようにと提案をしていましたが、初対面なのに注文が多いなと自分で思いました。そのせいで、余計に恐縮度が増していきます。




