46 戦慄 プロ現る
「へぶうぅ」
騒がしい部屋に響く、頬をぶたれた人の声。手近で騒いでいたための仕打ちでした。
「朝は静けさを尊ぶものよ。黙りなさい」
高圧的にエリンナは打った男に言いました。
「ふざけんな。目覚めたら全員縛り上げられていたなんて、大人しくしてられるかよ」
相手の言い分はごもっともでした。
「あんたらの行いを考えたらまだ温い処置でしょ。被害者ぶるんじゃないよ」
ビビビッと頬叩きするエリンナ。
「な、何て綺麗な腕の振り方をしてやがるんだ。畜生、羨ましいっ」
「「えっ!?」」
私とエリンナは、この突然の声に同時に声が出ていました。
口を封じるには物が足りなかったので、相手が好き勝手物を言えるのは仕方が無いのですが、まさか、その道のプロが居たとは……。
プロの登場に、場が静まり返りました。
打たれていた男も、仲間だろうに「こいつ、まじかっ!?」と今にも言いそうな表情でプロの方を見ています。
「あんた、そんなに羨ましいの?」
標的を切り替え、ニヤリと冷たい表情で笑みを浮かべるエリンナ。
(エリンナ、それはプロにとってはご褒美ですよ!?)
まだ何もしていない相手に与え過ぎですと、忠告しようか悩む所です。
「羨ましい。ああ、羨ましいさ。な、なぁ。俺の頬を叩いてみないか? あんたのその一切の乱れも振れも無い動きで俺の頬をさ。頬叩きっていうのはよぉ、互いの均衡が保たれてこそ良い音がなるんだ。俺には叩かれる者としての技術がある。あんたには叩く者としての技術がある。二人合わされば、限界の向こうへ、新しい扉が開かれると思うんだ」
(いえ、既にあなたが新しい扉を開いていますよね。あなたの熱弁は、場の人間を凍らせるには十分な熱量でしたよ。今、場内は冷えっ冷えで、鳥肌が立っていますよ)
本物の熱量の違いに驚かされ、私は開いた口が塞がりません。
「そこまで褒めてくれると、悪党でも嬉しいわね。でも、あげな~い。だって、それだと何もしてないあんたへのご褒美になっちゃうから」
(そ、そういう事でしたか、エリンナ!!)
突然のプロの出現に驚かされ、自分が冷静さを失っていたと気付きました。
そうです。エリンナは、プロから情報を得るための交渉を始めたのです。
「へへ、分かってるじゃあないか。ここですんなり教えるようじゃあ、俺達の扉は開かないからな」
(え、本当に何言ってるの?)
彼の発言一つ一つが異次元でした。異世界の異次元。それはもう、新世界です。
人攫いの組織の人々は、この人とちゃんとコミュニケーションを取れていたのでしょうか?
今の私の目に映っているのは、プロが発言する度に、同じに見られたくないと縛られている状況でも距離を取ろうと頑張っているドン引きしているお仲間の姿でした。
「なら、その扉を開くためにはどうするべきか分かる?」
プロの鼻先スレスレで素振りをしつつ尋ねるエリンナ。
プロは鼻先で感じる風に、餌を前にお預けをさせられているペットの様な表情をしていました。
「おい、止めろ。誰か、そいつの口を封じるんだ!!」
仕事意識が高いのか、先程まで叩かれていた男が、プロを黙らせるように叫びました。




