44 吊るし木の語り草
「どうしました? 回復魔法の出番ですか?」
「その必要は無いわ。あなたを見ているとまた痛みそうだから」
出来ると思った事を口にしただけだというのに、何て言い草でしょう。
「あまり繰り返したくはありませんが、エリンナ。私はあなた達が大事にしている聖女ですよ。聖女とは、この大陸の人を救う存在です。そんな存在があなたを悩ませる訳ないじゃないですか」
本人以外が持っているイメージで訴えかけました。
「そんなご立派な聖女様なら、人攫いに攫われて、こんな所で一緒に行動してないのよね」
全くもってご尤もです。痛い所を突かれました。
「では、お望みの聖女では無いので、今から一人で屋敷の四隅の柱でもへし折りに行きましょうか。それともこれから一緒にへし折りに行きますか?」
威勢の良い声でも出しながら行うと、尚良いかもしれませんね。
「いや、待って。ごめんて。屋敷を壊したなんて事になったら、色々と問題が起こるから」
必死になって止めてくるエリンナ。
分かります。私がやりましたと言っても、彼女のこれまでの反応と大陸の人に根付いた聖女様のイメージが一致しないので、確実に彼女が行ったという事にされるでしょう。更に酷ければ、聖女様に庇わせた。聖女様のイメージを傷付けたと、大罪になるかもしれません。
「まあ、へし折るのはしないとして、一度外へ出て、見張りから纏めて行きますか?」
見えている窓から外へ出て、風になって一周すれば簡単でしょう。
「もう発想が人外なんだよなぁ……」
「またそんな事を言って。では、一人一人を木に吊るしていきますか? 空中なら暴れもしないと思いますよ」
「容疑者一人一人を木に吊るしていくの? 昼間だってそんな木、見たくないよ。やるなら気絶させて牢屋に入れるまでだよ。あなたの計画を実行したら、この土地に人が寄り付かなくなっちゃうじゃない」
「悪者はこうなりますよと、末代まで語り継がれて良いんじゃないですか?」
「どちらかと言えば、聖女のありえない所業として末代まで語り継がれるよ」
「あなたの書く物語のせいで? ある事無い事書き足すんですよね?」
「え、ある事しか書かないけど。まあ、秘密部隊については誤魔化すし、度が過ぎれば薄めるけど」
「自分だけ村から連れ去られた美人村民とかにするつもりですか。まあ、呆れた」
「いやいや。そんな恥知らずな事しないから。直接見た、聞いたっていうのを触れ込みにするつもりだし」
「後で調整してくれるのなら、無理に聖女のように振舞う必要はありませんね。ですが、どうせ書くのなら、面白おかしくしてください。自分がモデルで暗い作品は嫌ですからね」
「もで? まあ、それは分からないけれど、聖女様を扱って全部が暗いお話しなんて書けないって。それに、あなたなら全部が観客を楽しませられる物語になると思うわ。逆に楽しませ過ぎて怒られるかもしれないけれど」
「楽しませて怒られるとは一体……?」
彼女の頭の中ではどのような構想が練られているのでしょう。
「さてと、お話はこれくらいにして行きましょうか」
「行くって外にですか?」
「違うわ。悪党が集まっている場所へ」
「この建物を知っていたのですか?」
「ううん、知らない。けど、大体把握したわ」
私と会話をしていただけだと思うのですが、謎です。
流石は秘密部隊という事でしょうか。身に付いている技術が人並み外れています。
「では、いきなり殴り込みに?」
景気の良い雄叫びが必須な雰囲気でしょうか?
「何であなたはそう血気盛んなの? そんなに鬱屈してる人生なの?」
「最近出来る事が増えたので、色々楽しくて」
血の気が多いのでは無く、体を動かしたくて堪らないのです。
「力を持っちゃいけない人が言う発言ね」
「肝に銘じておきます」
エリンナに言われた通り、以前の自分とは大分変ってしまったと思います。
要因としては、先に言った事に加え、一人だからやらなくちゃいけないとか、旅が一皮剥いたという所でしょうか。
「それはそうと、どうしていきなり中心に向かうと決めたんですか?」
「私、耳が良いのよ。魔法とかじゃなくて、生まれつきね。部隊で訓練していたら、人の場所とかも分かるようになってさ。一応、大陸内で要人が寝泊りする場所の見取り図は全部頭に入っているのよ。さっきは知らないって言ったのはそれでよ。聞こえてきた音の方向とかを照らし合わせた感じね」
種明かしをしてくれましたが、エリンナも人の事を言えないタイプだと思いました。
「エリンナも大概人外ですね」
同類だね、という仲間意識で笑顔の発言。
「え、恐れ多いんだけど」
エリンナは、とんでもなく嫌そうな顔をしました。
回復魔法では治らない傷が心に出来てしまいました。




