42 女子トーク 聖女が見た忍者
紆余曲折を乗り越えて手を取り合うというのは素晴らしいものですね。
と思いますが、感慨に浸ろうにも今浸け始めたばかりな状況です。
エリンナ的な優先順位はこうなっているそうです。
第一目標は組織の壊滅。第二目標が攫われた人達の解放。
敵の数は分かりませんが、生かして殺さずに無力化させていきましょう。
私としてはそうありたいのですが、エリンナ的にはどう考えているのでしょうか?
「そう言えば、立ち向かってくる人々は全員倒すんですか? 真っ赤な絨毯を作るんですか?」
「手っ取り早いけれど、そんな血生臭い事はしないよ。どれだけ好戦的なのさ、聖女様は」
血を見ないと高ぶる気持ちが抑えられません、なんて癖はありません。ですが、秘密部隊と言えば、自らの手を真っ赤に染める。殲滅目指せと心が叫ぶ。そのような感じだと思っていました。意外と良心的なのかもしれません。
「では、どうするのですか? 危ないお薬でも使うんですか? あ、この世界では魔法でしょうか?」
「薬? 魔法? はっ、秘密部隊の人間がそんなものに頼る訳無いでしょ。これよ、これ」
エリンナはそう言うと、自分の手を見せてきました。
「まあ、綺麗な手。真っすぐ綺麗な指ですね。これは行き届いてますね」
「えへへ。そうでしょ。荒れないようにちゃんと手入れしてるんだ。って、違う違う。そうじゃ、そうじゃないでしょ」
ええ、分かっています。暗い雰囲気を吹き飛ばそうと、明るさ演出です。
「天然装う聖女様ジョークですよ。冗談」
「任務中に冗談とか、どれだけ肝が据わってるんだか」
実は、据わって無いから誤魔化しているだけなのです。
ベタなやり取り、ベタなボケ。普遍は良い。それだけで平然を装えるのですから。
「にしても、牢屋の中はさっきの見張り一人だけみたいね」
「上では、仕事終わりで酒盛りをしていたり?」
「それで酔い潰れているのなら楽で良いわね」
「へへ、大将。両手足纏め上げて、猿ぐつわさせて首輪で拘束しましょう。何、連中の視界を塞いで、耳元で金属音か水滴が落ちる音を聞かせれば震えあがりますよ」
昔、何かで読んだ挿絵か漫画の一場面を思い出したので、言ってみました。
ドン引かれるでしょうか?
「良いわね、それ。やる前に水分取らせて無様な姿を晒すの待つっていうのも良いわ」
いいえ、更に一つ加えてきました。
流石は秘密部隊。いえ、中世的な世界です。やるとなったら徹底的です。
「あなた、聖女様を辞めて拷問官にでもなったら?」
「聖女を辞退するのには賛成ですが、そちらの道に進もうとは思いません」
「なんだぁ、残念。あ、でも、元聖女様の拷問官って設定は面白いかも。邪悪なるもののを打ち消した後に、人知れず悪を懲らしめ、世を正すみたいな感じで」
「お供を連れて、世間を行脚するんですか? 悪人を見つけたら、聖女の証を見せつけて控えさせるとか?」
「良いね、それ。締め上げて後は王国に任すよりも分かりやすいもの」
もう時代劇のパクリですね。それにしても、劇作家というのはこんな時でも新作の構想を練るものなんですね。
「っと、上に行く扉ね。ちょっと待っていて」
談笑モードから仕事モードへと切り替えるエリンナ。
足音を消すと、木製の扉に近づきました。
外の様子を窺うと、彼女は私に向け、手を動かしました。
呼んでいるようなので、彼女に倣い、静かに近付きました。
すると今度は、扉を指差した後に私を指差しました。
(扉、私?)
その後に口元で一本、指を立て、扉を開ける動きを見せました。
(ああ、私が静かに扉を開けると)
彼女の望み通りに出来るかは分かりませんが、やってみましょう。
理解したと、頷きました。
気付かれてはいけない慎重さが必要な役目です。ゆっくりと扉に手をかけました。
この時、エリンナは天井に張り付いていました。
その姿は蜘蛛の様。秘密部隊という肩書も合わさり、余計に忍者を思わせました。
生忍者に感動が止まりません。
(おっと、いけません)
力加減を間違えてしまうと、音が出てしまいそうなほどに扉が軽すぎて、村長の屋敷の扉のようになりそうでした。
扉と壁を固定している金具は整備されている様子も無いため、錆錆です。
エリンナに頼まれてやっていますが、これは結構難しい要求だったと気付きました。
(人一人分って、何センチでしょう?)
段々じれったくなってきました。金具さえなければ、普通に取り外せるのに……。
(あ、取り外せば良いんだ)
金具が錆びている。これが私には光明でした。




