4 私は靡かない
それはそれとして、返事をしていないのに勝手に入ってきた無遠慮な人達は誰なのでしょう。金髪サラサラヘアーの整った顔立ちの男とそれよりも苦労を重ねて表情に現れてしまっている、金髪男よりも何歳か年上に見える男に、私の警戒レベルは最大値でした。
私は無言を貫きつつ、相手を見た。
「まずはあいさつをさせていただきたい。私の名前はダイブロス・エルルート。この国の王子です」
金髪男の正体が如何にもな容姿に加えて肩書も王子とは……。どこの乙女ゲーのキャラでしょう。
何を? と追求するのは野暮ですけど、さぞや相手には困らない日々を送っている事でしょう。そんな陽キャとは関わり合いになりたくありません。
それにしても、声を聞けばどこかで聞いた覚えがありました。
気になるけれど、もう一つ。名前が気になった。私の故郷では、もうかなり手遅れで巻き返せないような酷い名前だったので。
そう思いながら、王子の隣りに立つ人物に視線を映すと、王子もそれに気付いた。
「そして、私の隣りに立っている者は」
「マクシタテルン・ダイブズリーです。ダイブロス王子の補佐をしております」
王子が促す形で、もう一人の人も名乗り、ぺこりとお辞儀で挨拶。
(王子自ら補佐を紹介した? こういうのって、補佐が王子の紹介をするものじゃないの? それに部屋に入ってきた時も、先頭に王子が居たような気がする。何ででしょう?)
この国? で知った数少ない情報を思い出してみる。聖女はかなり偉い地位だというような事を教祖(仮)は言っていた。
それを踏まえて考えると、まず先に王子が名乗ったのは、真っ先に覚えてもらいたいかったから? または、聖女に関しての責任者だから優先的に名乗った?
(あれ? 声に覚えがあるなと思ったけれど、もしかして教祖ってこの王子様?)
自分の疑問の答え合わせをしたくて、王子に視線を移して見つめていたら、相手の金髪男は事もあろうに笑みを浮かべてきた。
爽やかイケメンオーラを放つ王子。私の陰キャメンタルがゴリッゴリに削られていく。
(何で特別感のある感じで愛想を振りまいたの!? 私を利用するための布石ね。そうだわ。絶対にそうだわ!!)
普通なら優しい雰囲気だわ、とか、か、カッコイイ……とかの流れに、夜の同棲はなるのでしょうけど、そんなにすぐに場に流される人生なら、自室大好きな私にはなっていない。
今、私の心の扉はチェーングルグルで南京錠二桁越えで、ダイヤル式の錠前三桁越えまで用意して、正解の番号は既にゴミ捨て場で焼却済みという徹底ぶりで強固な守りに徹しています。
つまりは、相手が気持ち良くなるような行為はしてやらないという事。そもそも、私を有無を言わさず呼び出した張本人に良い顔をする訳がありません。
向けられた笑顔に、私は顔毎逸らしました。
すると、言葉の洪水を浴びせてきそうな名前の人が私に話しかけてきました。
「聖女様。儀式の際に、こちらの事情で一方的に呼び出してしまい、申し訳ございません。ですが、勝手を承知で申し上げますと、我々もそれほど切迫しているのです。聖女様にとっては身勝手な事を言っていると思われるでしょうが……。それについては唯々謝罪し続けるしか出来ず、申し訳ありません。その件とは別に、聖女様が降臨してくださったこの大陸と、この大陸における聖女の重要性について、お話させてはいただけませんか?」
名前とは反対に、マクシタテルンさんはこちらの感情を汲み取った話の振り方をしてくれる人だった。