41 違いの一致 しかし、文化が無かった
エリンナを自由にしてあげました。
すると彼女は、呼吸を整えつつ、私の前に立ちました。
「聖女様の力を認めるわ。お願いします、お力を貸してください」
膝を突き、頭を下げるエリンナ。
この行動もビックリですが、もう一つ驚きました。
「今までのやりとりの後にそれをするのは遅すぎませんか?」
これまでの発言もあるので、仰々しくされる事に抵抗を覚えます。
「これは、歴代の聖女様が築き上げた地位への敬意よ」
「私、今代の聖女とされているんですけど。今代の聖女に対しては?」
「あると思う? 私を出し抜く速さと力を持っている城を抜け出した聖女に対して。本当に?」
中々に意地の悪い人です。ですが、慣れない敬いよりもずっと気持ちが良いです。
「あなたとは、良い関係が築けるかもしれませんね」
「私も、ネタに困らなさそうなあなたとは良い関係で居たいわ」
「ネタ、ですか?」
「世を忍ぶ仮の姿でね。役者と劇作家を兼業してるのよ」
「そうだったんですか」
(普通でも聖女様は後世に語り継がれるらしいので、これは身を正すべきでしょうか。いえ、全然聖女様とか認めて無いんですけどね。けれど、世間が言うから仕方なくですよ。これは聖女様らしく振舞わないといけないのかもしれません)
自分が主役となると、否が応でも意識してしまいます。やはり、こちらの世界での自伝的な一作になるのですから、ちゃんと監修しておくべきでしょう。
何はともあれ、互いの利害が一致した瞬間でした。
(この展開、握手が良さそうですね)
馬車内では色々とあって叶いませんでしたが、今なら出来そうです。
「改めてよろしくお願いします、エリンナ」
右手を上げ、彼女に言いました。
「そうね。よろしく。それじゃあ、早く片付けましょうか」
私の手には目もくれず、彼女は牢屋を出てしまいました。
(異文化交流は中々難しいですね)
やり場の無い右手で空虚を掴み、その感触を確かめた私は、無念の中で手を降ろしました。
「どうしたの? 早く行きましょう」
「はい。すぐに」
呼ばれた私は、気持ちを切り替え、牢屋を出ました。




