39 お礼という名の交代
「悪趣味な事をするのは止めなさい!!」
ガバッと起き上がり、私はエリンナの腕を掴みました。
「!?」
まるでおばけでも見ているかのような驚きの表情。その表情をするのは私の方なんですけどね。
「人に妙な事して、更に妙な事して、何を考えているんですか」
「いや、だって。気絶してたでしょ? 何で全部分かってるみたいな事言うの?」
随分とすっとぼけた事を言う人です。答えなんてたった一つ。とてもシンプルなものです。
「私がずっと寝たふりをしてたからですよ」
掴んだ腕を引っ張り、私は彼女の頭を男の脇の間に置きました。
馬乗りになり、もう逃げられません。
頭の上から男の臭い。二重苦の中、何分持つでしょうね。
「改めて聞きます。あなたの目的は何ですか?」
「い、言えない」
強情です。こういう子を見ると、もう少し攻めてみたくなるのは、姉として生まれたからでしょうか。小さな頃は、ぐずったり、嫌がる妹を懐柔して、言う事を聞かせたり、嫌いだった食べ物を食べさせる事に喜びを感じたものです。
もしくは、私のまだ見ぬ一面が顔を覗かせているのでしょうか。
私は、左手で男の体を引っ張り、脇をエリンナに近付けました。
「エリンナさん。こんな目に遭う必要があるほどの隠し事何ですか? 今、私はあなたを出し抜いて、馬乗りになっていますね。そんな私でも足を引っ張ると思っているのですか?」
少しずつ、ゆっくりと、彼女の鼻先に男の脇が近付いてきました。もう彼女の視界は、男の腕で隠れてしまい、嗅覚と聴覚が状況を教えるだけです。
私は、駄目押しとばかりに、脇の臭いを嗅がないように、彼女の耳元に口を近づけ、一息で言いました。
「言っちゃえ」
自分の顔を逃がした私は、男を引き寄せました。ここまで来ると、もう寸でで止めるという考えはありません。そして脇と鼻は、運命的な出会いをしました。
「言う。言うから止めて。聖女様ぁっ」
一分も持たずに彼女は屈しました。ですが、それに満足し、喜んでいる場合ではありません。
(せ、聖女様!?)
私を呼んだ? それとも、過去の人の事?
まさかの発言に、エリンナから飛び退けました。
「ひ、酷いよぉ。聖女様。こんな事する聖女様なんて、絶対に居ないって」
涙目で訴えるエリンナ。間違いありません。彼女は、私に対して“聖女様”と呼びかけています。
「あなた、何者ですか?」
事と次第によっては、ここから本格バトル漫画展開になりえる状況です。
「私は、王国の秘密部隊の人間です。聖女様」
「王国の秘密部隊!?」
まさか、そのような部隊が存在しているなんて。それこそ小説や漫画的な展開です。
ですが、秘密部隊で連想されるのは後ろ暗いお仕事。なのでこれは、王国の闇に触れたという事になるのでしょうか?




