38 演技 一線を越えた優しさ(悪意)
「誰かー。ねぇ、ちょっと来て。彼女が倒れちゃったの。ねぇ」
中々に演技派でした。大慌てでひたすら叫ぶのでは無く、反応に困って助けを求めつつも感情が乗り切れていない感じがとても良く出ています。
人を呼ぶ理由を作った?
汚い牢屋に放り込むような人攫いが、急患を手厚く看護するでしょうか?
まだエリンナの行動を観察する必要がありそうなので、もう少し待ちましょう。
「うるっせぇぞ。女」
御者とは違う男の声。牢屋の見張りでしょうか。
「ねえ、助けて。私の友達なの。助けてくれたら何でもするからさ」
今度は必死さアピールです。人が来て、縋る感じが良く出ています。
とても私を気絶(演技)させた張本人とは思えません。
「おい、離せよ。腕に抱きつくな。俺は枯れ始めが趣味なんだよ」
そんな要らない情報は求めていません。ですが、エリンナは格子越しに色仕掛けを仕掛けたようです。
(当ては外れたみたいようですが、これはお約束のお色気展開ね。流れは読めたわ。お色気で鍵を開けさせて、入ってきたら気絶させるパターンね)
私は、色々な書物に触れています。なので、複数のパターンから状況に合わせたものを先読み出来ます。これはお約束パターンBですね。
どれがAとかCとかはありませんが、雰囲気で決めました。
「ちょ、おま、引き寄せすぎぃぃぃっ」
人間が話していると思ったら、汚い豚のような鳴き声が聞こえてきました。
(え、まだ鍵が開けられてないんだけど!?)
私は、読みが外れた事がショックでした。
私が動揺している間も、男は苦しそうな声を出し続けていました。
「鍵は……。これね」
鍵束を手に入れた音が聞こえてきました。まさか、自分で鍵を開けようとするだなんて。
ガチャリと鍵が開く音。どうやらエリンナは、奪った鍵を使ったようです。
「セントレディには悪いけれど、こいつと一緒に寝てもらいますか。う~ん。彼に腕枕されて目覚める展開が良いかな?」
すぐに脱出するのかと思いきや、エリンナは妙な事を言いながら、何かを引き摺っていました。
私の横に、呻く男の声。
「腕は伸ばして。セントレディの顔は男の胸の傍ね」
恐らくお風呂と距離を置いている人だったのでしょう。すえた臭いが鼻を刺激してきました。
(あ、駄目。耐えられない)
狸寝入りにも限界が来てしまいました。




