37 相牢 聖女に迫る恐ろしく早い手
さて、困った事になりました。
気絶させられ、馬車で運ばれたその先で、待っていたのは汚い牢屋でした。
一人ではとても耐えられそうにありませんが、二人ならある程度は耐えられそうです。
そうです。もう一人、同居人がいるのです。馬車で知り合ったエリンナです。
どうやら、男、女、子どもで分けられたみたいです。
私達は、こちらに連れて来られる間に、手枷、足枷を外され、牢屋の中では自由の身です。
非力認定され、私達が暴れても痛くもかゆくもないと判断されたみたいです。
正直、面白くありません。
すぐにでも反旗を翻して牢屋から出ようかとも思いましたが、エリンナが居るので、大っぴらには動けません。
「どうしましょう……」
「本当にね……」
私達は、これからの事を考え、頭を悩ませていました。
「ねえ、セントレディ。あなた、今すぐ眠くならない?」
いきなり彼女は何を言い出すのでしょう。苦痛に耐えられなくなった時には眠れば良いと、そういう事でしょうか?
「この状況で寝るとしたら、気絶させられたくらいじゃないと」
ありえないので、大袈裟な例を出して見ました。
「いいね。それじゃあ」
と言った彼女から、恐ろしく速い手刀が私に襲い掛かりました。
「いきなり何をするんですか」
本当にいきなりです。現実ではありえない事を話していて、それをやりだすくらいにいきなりでした。
「え、眠ってもらおうかと」
まるで私の言い分がおかしいとばかりに、彼女は平然とした表情で言いました。
ゆっくりと、静かに、互いに立ち上がり、一進一退、攻防戦の始まりでした。
「だから、どうして眠らせようとするんですか」
「この先の戦いにあなたは付いて行けないだろうから」
彼女は何と戦おうとしているのでしょう?
「とりあえず、説明です。説明してください。それを聞かなければ寝られません」
「それって、話を聞いたら、納得しなくても寝てくれるって事?」
答えにくい質問をしてくる人です。
「沈黙という事は、どうあっても寝る気が無いじゃない。嘘吐きっ」
返答を考えていただけなのですが、彼女はせっかちでした。
「とにかく話を聞かせてください。ほら、お互いに座って。ね?」
私は、理由も分からずに不毛な言い合いをしてもしょうがないと、自ら座る事で、会話をするという空気を作りました。
「分かったわ。じゃあ、事情を説明」
言葉の途中でエリンナが私の視界から消えました。
「する前に背中をドーン」
私を出し抜いて背後に回った彼女は、背中を両の親指で押してきました。
いくら回復魔法で何ら問題無いとはいえ、筋肉を酷使していた事には変わりありません。
指圧的な気持ち良さを感じました。
「悪いわね。でも、仕方が無いのよ。あなたのような世間知らずなお嬢様は、足を引っ張るって相場が決まっているから」
何やら私を守るためだとばかりな台詞です。すぐに反撃せずに出方を待って良かったです。ただ、普通に背中の凝っていた部分を指圧した程度で、何を大袈裟な。
(よく分からないけれど、ここは彼女に付き合って倒れてみましょう)
指圧されたので、力が加えられた方向に倒れるだけの簡単なお芝居です。
怪しまれないように、受け身を取らずに前のめりで倒れました。防御魔法が無かったらさぞ痛かった事でしょう。
さて、この後の彼女は、どのように行動するつもりなのでしょう。




