25 胸キュンと最終決戦
「だから、女の子になんて事を言うんですかっ!!」
酷い事を言ってくれたガイに向け、カンを投げました。
「うっそ。受け止めただけじゃなくて、カンを投げ飛ばすなんて……。本当に女なの!?」
同性にまでそんな事を言われるだなんて……。まだ思春期の最中だというのに、トラウマになったらどうしてくれるんでしょう。私の心はガラス細工よりも繊細なのに。
「ガイ、カン。あたしが引きつける。流石に追い付けないでしょ」
次はモンが仕掛けてくるようです。随分と速さに自信があるようです。
ですが、彼女は大きな間違いをしていました。
先ほどは様子を窺っていただけなのです。
攪乱させようと、彼女が必要以上に動いていた姿は、ちゃんと追えていました。
「カンを投げた馬鹿力は認めるけど、こっちは付いて行けないでしょ?」
勝ち気な態度の彼女に、対抗心が湧きました。どうすれば彼女の度肝を抜けるでしょう。
(これで行きましょう)
考えた私は、彼女の動きに付いて行く事にしました。
私は普通の子なので、同時に動いて追いかけるなんて漫画的な動きは出来ません。
出来る事と言えば、彼女の向かう方向を見定めてから動き出し、彼女に追いついて真横に並んで視線を合わせるくらいです。
「な、嘘っ」
一回目には偶然と。二回目にはいやいやと。三回目にはもしかして。四回目には先の驚きを。
五回目には、追いかけっこを続けても仕方が無いので、彼女の両肩を掴んで止めました。
「んな、馬鹿力!?」
地面に押さえつける形で止めただけで、痛がるほどには力を入れていません。
「つーかまーえたー」
幼子がやるような茶目っ気を出して見ました。
すると、以外にもがっしりとした体型をしていたモンは、急に年相応のような幼い表情で涙を流し始めました。
これは、私が悪いのでしょうか? 化け物呼ばわりされて傷付いているのは私なんですけど……。
ちょっと動揺したら、私の背後に立ち、両方の脇の下から手を出す人が。
その手は、私の両手を跳ね上げたのです。
「もう大丈夫だ、モン」
私の手が無くなるとモンはすぐに距離を取りました。
背後に居た人物もすぐに離脱し、モンの元へ。
跳ね上げたその人は、泣き顔の彼女の前に立ち、自分の胸で受け止めました。
そんな少女漫画で見られるような行為をして落ち着かせたのは、ガイでした。
(何それ。ちょっと私もされてみたいシチュなんですけど)
胸キュン展開をする彼は、ナイスガイから名前を取ったという事でしょうか?
「カン。モンを頼む」
少し落ち着いたモンをカンに預けるガイ。
「あ、ああ。奴はとんでもないぞ……」
「分かってる。これは文字通り、命懸けだな」
今度は少年漫画的なやり取り。何なの、この男……。
もう彼の様子を見ると、私はラスボスで、あちらは捨て身覚悟の決死戦という雰囲気。
私相手に命を張る必要は無いですし、そもそもラスボスでは無いので、私も冷静になりました。
「えっとですね。お話しましょう?」
思春期の柔らかいメンタルを傷付けられて忘れていましたが、私は彼らとバトル漫画的なやりとりをする気は無いのです。
なので、ガイに共倒れ狙いの覚悟をした目で睨まれても困るのです。
「ここまでやっといてお話だぁ? 頭に花咲いてんのか、お前」
そんな頭をしていたら、今頃はあの削ぎ落し王子のお部屋で、キャッキャウフフと頬でも赤らめて笑っていたでしょう。もしくは、手を取り合って二人でぬくぬくポカポカお部屋でしていたかもしれません。
それにしても、彼は何だかこの状況にとてつもないやる気を出しているようです。
恐らくは、このような状況が彼の性格的に燃えるシチュであり、このような命を張る場面の想像を繰り返していたからなのでしょう。そうでなければ、ここまで主人公的な熱意を感じる理由がありません。
(これは……。止む無しですか)
こうなっては仕方が無いのでしょう。私は、ため息を吐いた後に言いました。
「さあ、来なさい。ねじ伏せられるものなら、ね」
言っている事は完全に悪役です。ですが、ちょっとたまに上映されている脳内演劇っぽくて楽しくなってきました。
「教えてやるよ。俺の恐ろしさってやつをな」
私の言葉は、彼のやる気が更に燃え上がるのにとても良い燃料になったようです。
私も乗ってはいけないものに乗ってしまったようで、わくわくしてきました。
もう一人の自分が私に言います。
「乗り物間違えてるから。今すぐ降りなさい!!」
残念ながら、お相手にブレーキが無いので、もう手遅れなのです。
「言葉があなたの恐ろしさなんですか? 早く見せてくださいよ。あなたの力が私を倒せると信じて、ね」
暗黒微笑とは何処で聞いた言葉だったでしょう。普段なら転げ回って跳ね飛ぶほどにもだえ苦しむ所ですが、今は全然大丈夫です。ええ、分かっています。これは後で転げ回るって事くらい。
と、そんな後の後悔は置いておいて、これがロールプレイ。
いえ、演劇の楽しさなのでしょうか。どれも未経験で想像だけの感想です。
そんな事を考えていると、ガイが動き出しました。




