24 初めての村 土臭い女
お城を後にした私は、地図を持たない上に地理もさっぱりなので、この世界の街道と呼べるか分かりませんが、人が通って出来たような道を見つけ、すぐに捕まってはいけないので、それなりな速さで道を辿っていきました。
まだお城を出てから三十分も経っていないと思います。空はまだ、薄暗いままです。
当ても無く突き進んでいくと、柵に囲まれている場所を見つけました。家にも小屋にも見える建物が幾つもあり、距離があるせいで分かりませんが、何やら浮いたような建物が奥に見えます。
(あれは村? そういえば、この世界に来てからお城以外の建物を見た事が無かったな)
城下町はゆっくり見てはいられないので、記憶にございません。
おそらく、お城から一番近い場所にある人の住処です。
見えている建物は、この世界の或いは大陸の庶民にとって一般的な家なのでしょう。
奥に見える建物がやたらに浮いていますが……。
今後の方針を決めるためにも、一般人の生活がどのようなものなのかを知るためにも、私は立ち寄る事にしました。
流石に土煙を上げて入る訳にはいかないので、手前で速度を緩めました。
「おい、そこで止まれ」
男の人の声でしたが、私の視界に人の姿はありません。
ですが、声をかけた人物が柵に身を隠している事は分かっています。そして、他に二人ほど身を隠している事も。
「皆さんは何者ですか?」
以前では出来なかった事の一つです。一切面識の無い人に臆する事無く声をかけられました。
これもお城でアワーフレッタさんと過ごした時間の成果でしょうか。
「俺はこの町の門番をしているもんだ。さあ、今度はあんたの番だ」
自分が答えたから、次は私だという事でしょう。身を明かすという点ではそれで良いでしょうが、少々冷たさを感じます。それに足りません。
「私は、残りのお二人にも尋ねているのですが、名乗ってはもらえないんですね。それから、どうして姿を見せてもらえないのですか?」
これが、中では今、伝染病が流行っていてうつる危険性があるからだ、というのならば納得も出来ます。ですが、そうでは無い事は分かっています。
相手の人からこんなにも敵意と警戒を向けられているのですから。
でも、間違っていたら数日は引き摺ってしまうでしょう。
「あんたからは強者の臭いがプンプンする。あと、土臭い」
「つ、つちくさ……」
まあ、土煙の影響でしょう。土煙が追い付けない速度を心掛ける必要がありそうです。
「自分で言うのもどうかと思いますが、年端もいかない少女ですよ。言葉を選んでください」
お城でお世話をしてくれた中に居た若いメイド様と年齢はさほど変わらない。
そんな私に対して中々に酷い発言ではありませんか。
この世界では働く年齢なのかもしれませんが、それでもまだ大人の範囲では無いはずです。
「お前のような少女が居るか!! どんなバケモンの集まりの中で育てばそんな風になるんだよ」
ただお城で回復魔法を育てるために体を鍛えていただけなのですが……。
先ほどから随分と酷い言われようなので、流石に私も憤慨しています。
「ただ嫌がらせをしたいというのなら、私は押し通りますよ」
雰囲気的にも情報は得られそうに無いだろうと、突っ切る方向で決めました。
「町を襲うっていうのか。んな事はさせねぇ。カン、頼んだ」
二人目の名前でしょう。自ら仲間の名前を知らせるとは爪の甘い。
さて、相手はどのように攻めてくるのでしょう。
「何時ものだ、モン」
「任せて、カン」
女の人の声。三人目は女の人のようです。
身構え、警戒していると、まず素早い動きが私の視線を左右に揺さぶりました。
(カンという人は速度重視という事ですか。では、モンという人は?)
空がフッと暗くなりました。モンを視界から逸らすための陽動だったようです。
細身細腕細足の私の体に、鉄球のような重さが真上から降ってきました。巨漢が重いのは当たり前ですが、アワーフレッタさんの負荷魔法に比べたら軽いです。地面も凹んでいませんし。
「うおっ!? この女、耐えたぞガイ」
「やっぱりバケモンなんだよっ」
最初の一人であり、私と会話していた人の名前はガイだったようです。
(三人そろってモン・ガイ・カン。門外漢ですか)
どうしてこの大陸の人の名前は妙に私のツボを刺激するのでしょう。
もう、片っ端から名前を聞いて書き留めたくなるじゃないですか。
城内での運動のおかげでしょうか。また今までの私には無かった積極的な考えが浮かびました。と、いけません。三人組の事を忘れていました。




