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 エルルートの激震  オットデキンダーの悩み 後編

 私は今、謁見の間の閉じられた扉の前に立ち、ジッと見つめて考えていた。

(エレナ様は、本当に聖女様なのか?)

 今日、初めて私は聖女様にお会いした。

 数日、城の周辺をほぼ休みなく走り続けていると聞いていた私は、突然現れたエレナ様に驚かされた。

 数人がかりで開ける扉を、エレナ様は一人で開けたのだ。

 エレナ様が部屋を出た後、力自慢の騎士団員を呼び、本当に可能なのかを試した。

 結果は、最後の防壁としての意味合いを持つ扉の役割通り、一人ではびくともしていない。

 今、こうして立っている私も試してみたので分かる。

 力自慢の団員との肉体の差もあったので、分かり切った結果だったが、それ故に細腕の少女が扉を開けたという異常さが際立つ。

更に私を驚かせたのは、二度目の要望だった。

 聖女とは、鉄壁の中で邪悪なるものを払う存在。私達はそう認識していた。

 だが、今回のエレナ様の要望は、その認識を打ち砕くものだった。

(負荷魔法の使い手を探していると言われ、魔術師団から人を送ったが……)

 ニットレッカーが遠巻きに目にした情報を耳にした時、私ですら驚愕した。

 聖女様が何故、負荷魔法の使い手を探しているのか分からなかった。

 まさか、その目的が自身に負荷を与えるためだったとは……。

 負荷魔法とは、本来、敵対者に対して使う妨害魔法。まさかそのような魔法を訓練に利用するとは……。

 騎士団には絶対に言えぬ。騎士団もそうだが、兵団の者達も、日々辛い訓練で心身を鍛えているという自負がある。

 そのため、遠距離で戦う魔術師団に良い感情を持たない者も一定数居る。

 だが、エレナ様の訓練の内容を知ったならば、その自負が、自信が打ち砕かれてしまいかねない。

 自分達の訓練は、魔術師団の負荷魔法に負けるのかと。

 妬みは人を腐らせる。その腐敗が魔術師団を襲い、邪悪なるものとの戦局に影響を与える可能性がある。

 まだ時期尚早だと判断し、エレナ様の訓練中は、その周辺に兵士達が寄る事を禁じた。

 何、たとえ盗人風情が警備の穴だと目を付けても問題は無いだろう。何せ、謁見の間を一人で開けた聖女様がそこに居るのだから。



「な、なんという事だ……」

 朝食の時間に入った報告に、私は手にしていたナイフとフォークを落とした。

 エレナ様が消えた。

 城の中でその姿を見た者は居らず、侵入者による蛮行という線も無い。

 何より、発見を遅らせるためにメイド程では無いが丁寧にベッドを整える意味が無い。

 連れ去られたというのなら、部屋は荒れているはずだからだ。

 城内の者は、聖女様が誰にも気付かれずに城を抜け出すなど出来るのかと疑問に思っていた。

 だが、私は知っている。いや、私だけではない。

 ニットレッカー魔術師団長、昨日まで共に訓練をしていたアワーフレッタも、人の目に触れずに消えたという事実に対し、特に驚いてはいなかった。

 寧ろ、それぐらいは可能だと、二人は消えた事には動揺していたが、逃げ方に関しては、当然だと言わんばかりに冷静だった。

 この認識を他の者に伝えるのが一番だろう。

 しかし、それは今代の聖女様が、私達の認識を越える行動が出来るという事を知らない者達に伝えなければならない。

 だが、現実を知らぬ者達がその事実を理解する事は無いだろう。

 それだけ、エレナ様のような聖女様は異質であるのだから。

 私は、情報を整理しつつ、考えた。

 今、私が出来る事は三つだろう。

 一つは、騎士団に聖女失踪の捜査を任せる事。

 二つ目に、ニットレッカー魔術師団長とアワーフレッタへの調査依頼。

 エレナ様の特訓は、騎士団と兵団に行った場合の効果について。

 これは、失踪の手引きをした疑いを騎士団にかけられているため、すぐには動かせないだろう。

 しかし、その時が来たのなら、二人の良いように取り計らおうと決めた。

 そして三つ目は、城外への捜索。

 防衛などで人員的にギリギリなため、流石に騎士団に大陸の町を回れとは言えない。

 適任者は誰か。考えた末に私は決めた。

 そう、息子のダイブロスとその側近であるマクシタテルンだ。

 二人を呼びつけ、指示を出すと、息子は胸を張って私に宣言した。

「お任せください、オットデキンダー王。私は立派に役目を果し、今度こそ聖女様に、どれほど私が頼れる男なのかを理解してもらおうと思います。次に王と再会したその時には、私の左腕に聖女様が寄り添っていることでしょう」

 実に頼もしい事を言ってくれるようになったと、親心から視界が少しぼやけてしまった。

 その際、マクシミリアンの表情が曇っていた事が気にかかる。

 我が息子の身を気にかけつつの旅だ。

 マクシタテルンからすると、これからの準備等で頭を悩ませていたのだろう。

「一週間分の保存食と費用はこちらが準備しよう。旅の過程は任せたぞ」

 恐らく馬二頭での旅立ちを考えているはず。

 故に最小限だが、必要な物だけは用意させた。旅経つ息子への細やかな贈り物だ。

「ありがたく頂戴します、オットデキンダー王」

 これで少しでも早くエレナ様に追い付き、連れ戻すことに繋がればと、切に願う。

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