2 受け入れられなくて…… 教祖様(仮)
「おい、ちゃんと言語魔法は成功しているよな?」
目の前の邪教の人が、他の邪教徒に確認をし始めた。
(言語魔法って何? 今使ってるのは日本語じゃないの?)
確かめたい。けれど、話せば相手を喜ばせる事に繋がる。
会話が出来ると分かったら、儀式がとんとん拍子に進んでしまう気がする。
条件が揃ったとばかりに、生贄の鮮度が命とばかりに、速攻デッドエンドの未来が待っているに違いありません。
「ふむ、魔法は成功しているのだな? では、まずは事情を説明させていただこう」
場を仕切り、一方的に話しかけてくるこの人は、邪教の偉い人なのでしょう。教祖にしては声が若いようなので、教祖の血縁者で次期跡取り? とにかく、この場だけのまとめ役なのでしょうか?
けれど、声優さんだって五十代で学生役をしていたり、果ては赤ん坊になったりします。
声だけで判断するのは早計でしょう。
ここは、場を仕切っているので教祖という事にしておきましょう。
「聖女様、ここはエルルート城にある聖女降臨の儀式の間。私達は、古より伝わる邪の復活を知り、大陸を救うという大義によって聖女降臨の儀式を行い、聖女様をお呼びした次第なのです」
なのですと言われても、私の意思無く勝手に呼び出すなんて……。
ゲームとかでの始まりは何時も唐突だけど、何時だって相手の事情だけれど、それが自分の身に起こるだなんて考えた事が無かった。体験してみて分かる。うん、堪ったものじゃない。
現実は嫌な事ばかりだけど、別世界に来たからって、私に人生が好転する訳が無い。
なら、少しでも快適に文明を謳歌出来る世界に居たい。
こんな状況に身を置いた今だから気付けた思い。
それ邪魔された上に、強制的に連れて来られた不快感が合わさり、がっちり硬い意志が生まれました。そうです、絶対に口を開かないと意固地になったのです。
そんな私に痺れを切らせ、教祖(仮)が周囲に問い出しました。
「何故こうも話さぬのだ。聖女様は口無しなのか? 医師に聖女様を調べさせるのだ」
その指示で数人が私の体に手を伸ばす。別の場所へと運び出そうとしているのでしょう。
「いや、触らないでっ」
力では到底適わず、咄嗟に声を出してしまった。
「おお、聖女様。やっとお声を聞かせてくださいましたね」
私が発した内容については触れる気が無いらしい。
「帰してください。家に帰して」
ならばと、こちらの要求を告げる。
「大変心苦しいのですが、それは出来ません。降臨された聖女様を戻す術を私達は持っていませんので。ですが、ご安心ください。大陸をお救い頂いた後は、私があなたを妻として迎え、生涯聖女様をお守りいたします。なので聖女様は、大陸の安寧を願い続けて頂きたい」
勝手に呼び出しておいて、余りにも一方的な要求でした。
そもそも、こんな怪しい宗教の教祖(仮)とお墓の中まで末永く連れ添うつもりもありません。
性格的にも強く出る事が得意では無い私ですが、このままでは見ず知らずの人達に拘束されて、よく分からない世界の平和を祈り続けるだけの存在に成り果ててしまいます。
そんなのは当然拒否です。助けてくれる人が居ないので、自分で頑張るしかありません。
頼れる人が居らず、追い込まれた状況は私に力を与えてくれました。奮い立つ意志という力を。
「そんなの嫌です。帰してください。今すぐ家に帰して。早く!!」
肌で分かる緊急事態に、私は勇気を出して、先ほどよりも強く訴えました。
すると、私と教祖(仮)がまた周囲に指示を出しました。
「いけない。聖女様が御乱心だ。一先ず眠らせるのだ!!」
こんな状況で眠れるものかと思っていましたが、このすぐ後に私の意識は途切れました。