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 ドS訓練官の憂鬱と光明 後編

 範囲負荷魔法のグラビィを最小限の負荷で使用してから三分。

 範囲内の者は皆、大地に沈んでいた。 

「どうしたんですか。まだ初級の域ですよ」

 それぞれの団の訓練時と同じ格好に加え、ただ負荷魔法が使われているだけだというのに、全滅している様に、アワーフレッタの視線は冷たい。

「回復役の皆さんもどうしたんですか? もうへばってしまったんですか?」

 魔力切れ寸前でフラフラな聖属性使い達にも、同じ視線を向けていた。

 全ては、聖女様との訓練の感覚が抜けていないが故のものだった。

 ここで内訳を説明しよう。

 騎士団員の参加者は三十名。兵団は二十名。聖属性使いは十七名。そのうちの七人がシェマク習得者で、回復役は十人だった。

 五人ずつで班分けをして回復をしていれば、シェマク組の出番は無いだろう。聖属性使い達はそう考えていた。

 しかし、いざ訓練が始まってみると、腕立て五回目を境に、参加者達が脱落していく。

 回復班は、班分けがどうのと言ってられなくなり、十人全員が一斉に回復魔法を使わなければならない状況に追い込まれた。

 そうなれば魔力はすぐに尽きる。そうなれば、残りの七人がシェマクで気絶した回復役を叩き起こす。

 初期シェマクは、恐ろしいほどに使い勝手の悪い魔法。一度使えば、使用者の魔力は全て相手に行ってしまう。魔力回復が間に合わず、回復役の人数が減り、負荷魔法範囲内の者達が一人減り、二人減り、動けなくなっていった。

 想像よりも速く全滅してしまった事に、アワーフレッタはがっかりしていた。

 そんな中、一人の人物が彼女の目を留めた。

 その人物は、アワーフレッタが経験したように、見えない何かを噴き出す事の出来た唯一の魔術師団員。

(一般の魔術師団員の魔力量はほぼ横並びで、普通とは思いますけど……)

 アワーフレッタは、何故その人物だけが自分と同じ事になったのかが気になった。

「そこのあなた。あなたの魔力量は幾つですか?」

 アワーフレッタは、その聖属性使いの若い女に近付き尋ねた。

 すると相手は、戸惑い、躊躇しつつも答えた。

「二十五です」

 魔法適性があるのなら、魔術師団には入れる。それでも、新人の中でもやや魔力量が少ない持ち主だった。

 回復役は貴重である。魔力以外に消費するものが何も無いためだ。

 遠征時にその分の重量が減るという事は、それだけ速く移動出来るという事。

 また、聖属性と他属性の適性を持つ者なら、手柄をより得やすい多属性部隊へと志願する者が多い。なので、どれほど魔力量が少なかろうと、聖属性の適性があれば、それだけで重宝される。彼女もそんな理由で採用された一人なのだと、アワーフレッタは認識した。

(今までなら、数合わせ程度と見られていましたが……)

 長時間場に居られないという事で、期待出来ない存在というのが、魔術師団内での見かただった。しかし、聖女様との訓練を経たアワーフレッタは、その考えの愚かしさを知っていた。

「あなた、とても運が良いですね」

 逸材を見つけたとばかりの明るいアワーフレッタの声に、彼女は戸惑う。集められた中でも自身の魔力量が劣っていると自覚していたのだから、当然だ。

 何故ですか? とは、問いかける勇気と、返ってくる答えが怖くて聞けない。

 言葉を出せずにいると、アワーフレッタが訊ねた。

「方針を変えましょう。あなた、範囲回復は使えますか?」

 尋ねられた彼女は、その真意が分からず、振り絞った勇気で答えた。

「使えます。ですが、一回使うと魔力切れを起こしてしまいます」

「それは更に、とても都合が良いです。そう言えば、名前を聞いていませんでしたね。あなた、名前は?」

「シジルム・ビグタイです」

「では、シジルム。あなたにはこれから、範囲回復魔法のみを使ってもらいます。シェマク係りは、彼女が魔力切れを起こしたら、即起こすように。その時は必ず噴き出させるように」

 噴き出させるの意味が分かる者は誰一人居ません。それが聖属性使い達に恐怖を抱かせた。

(私、何をされるの?)

 唯一、噴き出した経験を知るシジルムは、身を震わせた。

 だが、アワーフレッタの指示を聞いて震えあがったのは、シジルムだけでは無かった。

「あの、他の魔力切れを起こした人は?」

 勇気を出し、一人が尋ねる。

「転がしておいてください。今はまだ役に立ちませんから」

 上機嫌なアワーフレッタは、笑顔のままで答えた。

「あの、私の方が役に立たないと思いますよ?」

 シジルムは、怯え切った瞳でアワーフレッタに進言した。

 アワーフレッタは、彼女の肩に手を置き、シジルムの瞳を見つめて言う。

「自分を卑下する必要はありません。あなたが今日を乗り越えたなら、私や師団長だって越えられるはずですよ。まあ、越えるようにしますしね」

 アワーフレッタは、彼女を勇気付けるつもりで微笑んだ。しかし、その笑顔が死刑宣告のような恐怖をシジルムに与えている事に気付いていない。シジルムは、泣き叫びたくなった。

 彼女はまだ知らない。

 後に師団長のもう片方の腕として、アワーフレッタと肩を並べるようになる事を。

「さてと……。それではもう少し負荷を加えますね」

 聖属性使い達ばかりの相手をしていられない。

 何故なら、範囲魔法で潰れている者達を育てなければ、彼女は罰せられるのだから。

 アワーフレッタは、範囲魔法の負荷に少しは慣れただろうと、動けなくなっている参加者達の負荷を、更に増やした。

「さあさ、動いてください。聖女様はこの数倍の負荷から訓練を始めていましたよ」

 騎士団員達は、何も言わなかった。いや、言えなかった。既に反応も抗議もする力も残っていなかったからだ。

「ほら、回復係りもです。少しでも回復したのなら、回復魔法を使うように。シェマクを習得した者は、直ぐに言うように。休んで良いのは、シジルム以外の魔力切れを起こした者だけです」

 シジルムには更に駄目押しの一言だった。

(待っていてください、聖女様。私、絶対に、絶対に……)

 訓練の日々が脳裏に鮮明に蘇るアワーフレッタ。

(あなたを捕まえてみせますから!!)

 授かった強化法で育てた一団をぶつけるその時を想像し、アワーフレッタは無意識に笑みを浮かべていた。

 その喜びの表情を見た訓練参加者達は、自分達の死にかけている姿を喜んでいるのだと勘違い。逃げた聖女様に、心の中で救いを求めるのだった。

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