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 ドS訓練官の憂鬱と光明 前編

「はぁ……」

 アワーフレッタは気が重かった。

 彼女は今、騎士団に身を置いている。

 訓練のため、という名目なのだが、ある意味では処罰とほぼ同義であったためだ。

 彼女がこのような状況に陥っている原因は、聖女様にあった。

 聖女様との訓練に一区切りが付いたその翌朝の事。

 聖女様が城から姿の消したのだ。

 もっとも関係を深めていたアワーフレッタは、聖女様脱走の手助けをしたのではと真っ先に疑われたのだ。

 まさか、アワーフレッタも人並みな休みが取れると安堵した翌日にこのような事態が起こるとは想像もしていなかった。

 そもそも、聖女様が脱走するという前代未聞な事態を誰が想像出来ようか。誰も出来ない。

 しかし、王国側も、起こってしまった事態については調べなければならない。

 その為、アワーフレッタが真っ先に疑われたのだ。

 取り調べに当たった兵士は、とても厳しい態度で彼女に詰問した。

 怖がらせればすぐに全てを話すだろう。手早く済ませるにはそれが一番だと、兵士は考え、実行していた。

 兵士は読みを誤っていた。

 聖女様と出会う前であったなら、兵士が考えた通りであった。

 だが、今は違う。それは彼女も。アワーフレッタ自身も、詰問を受けて気付いてしまった。

 取り調べが始まり、兵士から改めて自身にかけられている嫌疑について聞いたアワーフレッタは、事もあろうに、遠い目をして鼻で笑ってしまったのだ。

 容疑をかけられたというのにそんな態度をとる彼女に、取り調べした兵は、演技では無く、本気で怒った。

 その剣幕は、よほど肝の据わった罪人でなければ縮こまるほどだった。

 だが、聖女様と共に訓練をしていた彼女は、全く動じなかった。

 怒る兵士の姿は、今の彼女の目には、温い訓練しか経験してこなかった存在としか映らなかった。

 そう。聖女様ほどには鍛えられなかったものの、彼女もまた異常成長を果した一人だった。

 エルルート王国では、魔術師団や騎士団の下に兵団と呼ばれる集団がある。

 兵団とは、言ってしまえば新人育成機関だった。

 そこでは、戦闘技術の他に兵としての礼儀作法や心構えを学ぶ他に、実戦時に使われる陣形や、それぞれの役割と立ち回りを学ぶ場所であった。

 兵団で教えられるのは、直接敵と対峙するのは騎士団。魔術師団は、攻撃もするが、後方で騎士団をサポートする集団であると教えられていた。

 実際、魔法を使うためには僅かばかりでも時間が必要である。

 その時間を稼ぐには、騎士団が魔術師団を守る必要があった。

 互いに守り、守られの対等な立場であるのだが、新人にありがちな憧れのせいで誤った認識がされやすい。

 勇敢さを、武勇を上げるのならば騎士団一択である。

 魔術師団は、騎士団の後ろに隠れていなければ実力を発揮出来ない集団だと思われていた。

 城内の警備や城下町や他の町を守るのも兵団の努め。

 故に、一定数は誤った認識を持ったままでいる兵士が残ってしまう。

 アワーフレッタに取り調べをしていた兵士も、その一人だった。

 なので、笑われた事が許せなかったのだ。

 そんな相手に、アワーフレッタは、至って冷静に言った。

「聖女様なら、一人で城を出るのは造作もありません」

 聖女とは、騎士団のように前線で果敢に戦う存在では無い。言ってしまえば、兵団の兵士よりも力では劣る存在だ。

 この王国の民が持つ聖女の姿とはそぐわないからありえない。

 兵士は、アワーフレッタの言葉を信じなかった。

「なら、聖属性使いと騎士団員を数名集めてください。私が体験したものを四日もすれば分かりますよ」

 自身が経験した訓練を体験すれば、そのような認識が間違いだったと気付くだろうと、アワーフレッタは言った。

 このようなやりとりの末、彼女の言葉が実証されなければ、虚偽罪と聖女様脱走ほう助の罪で牢屋に入れると言われ、騎士団に居る。

 今回集められた訓練の参加者達は、証明のためにと兵団と騎士団から集められ、アワーフレッタの補助として魔術師団から、聖属性適性を持つ者達が集められた。

 兵団と騎士団の者達は、聖女と同じ訓練をすると聞き、どうせ手緩いのだろうと、本来の訓練に比べ、やる気に欠けていた。

(この人達はまだ、聖女様を知らないんですよね……)

 その態度がどの段階で変わるのか。

 アワーフレッタは、参加者達がするであろう表情を想像した事で胸の高鳴りを感じた事に気付いていなかった。

「えー、皆さん。これから私は皆さんに、負荷魔法を一番弱い威力で使用します。準備運動をし始めてください。その間に聖属性使いの皆さんに改めて説明します。皆さんは、訓練中に動けなくなった者達を回復してください。両者の皆さんには、私と同じように、これから四日間、言葉通りに動き続けてもらいます。それと、シェマクが使える者は回復魔法を使わず、待機していてください。魔力切れになって倒れた人を起こしてもらう係りをやってもらいますので」

 単純で簡潔な説明だったが、これを聞いた皆は、自身の耳を疑った。

 人が四日間も不眠不休で動き続けるなどほぼ不可能。しかし、アワーフレッタは、何所もおかしな事が無いとばかりに言い放った。

 この特殊訓練は何かがおかしい。参加者の中で数名が勘づく。

 しかし、その勘で想像した以上の恐怖と狂気の四日間になる事までは、全く分かっていなかった。

「では、そろそろ始めますね」

 参加者への説明が終わり、騎士団と兵団の参加者の準備も済んだ事を確認し、アワーフレッタは負荷魔法を使用した。

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