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 マクシタテルンの憂い

「何故、王子は……」

 マクシタテルンは執務室でため息を吐いていた。

 今日、初めて聖女様と会った彼だったが、その結果に頭を悩ませているのだ。

 王子が聖女様からの信頼を得ようとすればするほどに空回りした挙句、自身の評価を下げ続けている事実に気付いていないからだ。

 ダイブロスの心については、既に聞いている。

 そのため、一番客観的に両者の様子が分かるようになってしまったが故の悩みだった。

 だからこそ、歯痒くあった。

 聖女様が儀式後に取り乱したという話は、ダイブロスと報告によって知っていた。

 ならば、聖女様が時間を置いた事で冷静になってくれたなら……という風に考えていたが、実際に会った結果、その期待は如何に淡く脆いものだったのか理解した。

 そして、当初想像していたものとは全く別の印象を受けた。

 マクシタテルンの目には、聖女様が王子を完全に拒んでいるようにしか映らなかった。

 どうあってもここから二人が共に暮らす未来が想像出来なかったのだ。

 彼のその印象は間違っていなかった。聖女様は、王子とのあらゆる接触を拒み続けているのだから。

(王子は頼りがいのある人間だと思われるようにと、自分を推し過ぎています。このままでは聖女様は、私達をお救いくださらないかもしれない)

 マクシタテルンは王国滅亡の足音が遠くから近付いているような気がしていた。

 そして、王様への報告は、ダイブロス王子の言動については、少し濁した表現にしようと決めた。



 マクシタテルン達が聖女の部屋を訪れてから四日が過ぎた。

 彼はまだ執務室で頭を抱えていた。その重さは、四日前の比ではない。

 この四日間、聖女様は入浴など以外で部屋を出る事は無かった。

(記録にある聖女様達は、大陸の危機を訴えると協力を約束してくれたと記されていますが……)

 歴代の聖女様の記録を読み返し、状況の打破をと彼は動き続けていた。

 ダイブロス王子も、未だ聖女様と交流出来ていない事に焦りを感じ、あれやこれやと策を考えていたが、肝心の聖女様が会おうとしない。

 聖女と共にあった王国でこれは異常事態。

 王子が駄目ならば他の相手を用意しよう。そうやって国と聖女を結び付け、縛る事は簡単だ。

 しかし、それでは聖女様からの信頼を得られなくなり、未来の王国に絶望を与えかねない。

 故にマクシタテルンは安易な策を取る事には反対だった。

 そして何より、聖女様が王族よりも位の劣る貴族と婚姻してしまうような事があれば、王族の歴史に傷が付いてしまう。

 更には新たな国王にと聖女様のお相手の貴族が妙な欲が湧きかねない。

 王族以外の相手をと動くのは、本当に最後の手段だと、彼は考えていた。

 次の国王になる前にこのような大問題を抱える事になるとは、マクシタテルンも思ってもいなかった。

「何か、聖女様の心の氷を溶かす手段はないものか……」

 何分情報が少なすぎた。メイドが話題を振っても、聖女様の反応は薄い。ならばと、聖女様の世界の事を尋ねても、あちらの世界の事が見えてこない。

 そのため、聖女様の好みの味すらも分からない始末。

 この世界の同年代の女性が好む話題ではきっかけすら引き出せずにいるので、マクシタテルンは日に日にやつれていった。そんな状況の中、誰かが彼の部屋を尋ねた。

「問題ありません。どうぞ」

 ノックの音に応えるマクシタテルン。

 返事を聞き、入って来たのは、魔術師団の師団長であるニットレッカーだった。

「どうされたのですか? まさか、聖女様の儀式に不備が!?」

 不備であったなら、聖女様では無かったというのなら、どれほど救われるだろうとマクシタテルンは思った。

 しかし、儀式に落ち度は無く、全て滞りなく、書に記されていた通りに完璧なものだった。

「いえ、そうではありません」

 それを理解しているからこそ、ニットレッカーの疑問を否定した彼の声は重く沈んでいた。

「そうでしたか……」

 マクシタテルンの疲弊した様子に、力になる糸口も見つけられないと、ニットレッカーの反応も若干弱々しくなっていた。

「あなたが王子と王国のためにと心を砕いていることは把握しています。何より、王国に携わる問題であったのならば、我々にも打ち明けていただきたい。共に王国を支え、民を守る者なのですから」

 協力出来るなら、出し惜しみはしないというニットレッカーの優しさだった。

「ありがとうございます、ニットレッカー師団長。実は、聖女様について悩んでいたのです。こうも表に出てしまうほどに困り果てているのです。せめて新しい風でも吹いたなら……」

 溜息を吐くマクシタテルン。

「新しい風? ならば丁度良い話でしょう。そろそろ聖女様の魔法適性を調べたいので、都合を確認しに来たんです」

 ニットレッカーの言葉に、マクシタテルンの中の勘が働いた。

「魔法適性!? そうですよ、それがありました!! いやー、よく来てくれました。ニットレッカー師団長」

 突然上機嫌になるマクシタテルン。

 何にも関心を示さなかった聖女への最後の手段は魔法しかないと思い至ったがための変化だった。

 余りの変わりように、警戒するニットレッカー。

「急に怖いのですが、マクシタテルン殿」

「何、怖がる必要はありません。ささ、すぐに向かってください。聖女様なら、変わらず部屋に居られますので」

「い、今からですか!? あまりにも急すぎますよ。行うにしても、事前説明と聖女様の心の準備が必要でしょう」

 別世界の住人だというのなら、それくらいの配慮は必要だろうと、ニットレッカー。

「大丈夫です、心配ありません。さあ、今日中に済ませてください。聖女様がどの属性に適性があるのかを、しっかり調べて来てください。なんら、今日から実戦をしても良いでしょう。いえ、するべきです!!」

 マクシタテルンはそうやって矢継ぎ早に話を推し進めると、ニットレッカーの背中を押し、部屋から出した。

「ふぅ。上手く魔法が使えない聖女様に王子が優しく手ほどきをする。するとそこから二人の間に良い繋がり生まれるはず。それが育てばやがては、淡い想いが生まれもするでしょう。ふふ、ふはははははっ」

 悪魔的な妙案だと、疲れた頭で閃いた策に浮かれ、酔いしれるマクシタテルン。

 だが、この時の判断が最後の時まで自身を苦しめることになるとは、知る由も無かった。

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