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 ダイブロス王子の思惑

 トルナール大陸にまた脅威が迫っていた。

 不定期に現れる邪悪なるものから民達を守るため、エルルート王家はその威信にかけて全力で事に当たっていた。

 だが、元を叩こうにも発生源が分からない。現れる理由も分からない。

 邪悪なるものを倒しても、奴らは際限無く現れる。

 奴らとの戦いは、そう、川や海を相手に剣を振り続けるようなものだった。

 その数から、始めは押し戻していた騎士団と魔術師団だったが、限りの無い増殖により、対処しきれなくなった。

 対峙する騎士団や魔術師団は、王国が重要と位置付けた場所を奪われないようにと、首の皮一枚で日々を耐えているに過ぎなくなっていた。

 このままでは大陸が邪悪なるもの達の手に堕ちてしまう。

 自軍では対処が出来ないと考えていたその時、王家に伝わる聖女召喚の書の封印が解かれた。

 聖女召喚の書は、とても不思議な書だ。大陸に危機が訪れた時、書に施された封印が解かれ、大陸を救う存在を。聖女を呼び出すその手段が明かされる。

 書の内容は書き写しても、口伝として残されたとしても、書に記されている内容についてあらゆる表現を封じられるという摩訶不思議な力を持っていた。

 故いに王家に口外を許されていたのは三つ。書の存在と書を用いて可能な行為について。そして、書が役目を終えた時に起こる出来事についてを伝える事。

 書の封印が解かれたという事は、かつて大陸を救ってきた聖女様を呼ぶほどの事態だという事。

 書が開かれた知らせを受け、父であるオットデキンダー王は私に指示を出した。

 それは、降臨の儀式の執り行いは私に任せるというもの。

 儀式には大量の魔力とそれを受け止める器が必要だった。

 やる事だけを見ればとても簡単だ。

 大量の魔力を術者を通して魔法陣に祈りと魔力を込めるのだ。

 手順としては簡潔で単純なのだが、魔力の確保と器の存在が頭を悩ませる。

 まず取り掛かったのは、器の選別。

 器とは、最大魔力量が多いほど良い。しかし、我が国でその条件を満たすのは師団長のニットレッカー殿。

 その立場上、聖女様降臨の役目を任せる訳にはいかない。

 ニットレッカー殿になるべく近しい魔力量を持ちつつ、儀式後に戦力の低下にならない人物が必要だった。

 選別した結果、私が器になると決めた。

 恐らく、王もそう判断したのだろう。次期国王としての功績を残すと同時に、現在の戦力を維持しつつ、最悪の場合には代わりを用意出来る存在。それらと一致するのは私しかいない。

 儀式が失敗したとしても聖女様が降臨されないだけだと言うが、器を越える魔力を一人の人間に集めるのだ。

 常識的に考えて、体に悪影響が無いなどありえない。

 私も国のため、もしもの時には王に私の弟か妹を用意してもらうしかない。

 愛情なら、一身に受け続けた。今更嫉妬などしない。寧ろ、もしもの時にはその原因をはっきりさせ、続く者が無事であるように努めてくれれば良いのだ。

 このような時の為に、私は民達によって生き永らえてきたのだ。なればこそ、王族として、民達のために。先の未来で生まれる民の子孫達のため、私は動くのだ。

 器が決まると、後はどのようにして魔力を確保するかだ。

 大量に消費される魔力。儀式の成功を確実にするのならば、魔術師団全員を呼び戻すべきだろう。

 だが、当然そのような事は出来ない。魔術師団を全員参加させては、守りが維持出来ない。

 魔力回復も皆が同じ速度ではない。回復薬を使うにしても、この状況で儀式用に全てを囲んでは、大陸が落ちる。それでは意味が無い。

 様々な縛りの中から、儀式成功に必要な人数、薬、防衛の維持を考慮しつつ準備を進めていった。

 その全ての準備を終え、私は儀式当日を迎えた。

 残る気がかりは聖女の心のみ。

 降臨の儀式において、一つだけ確実な事がある。それは、聖女を元の世界に戻す方法は無いという事。

 同じ世界ならば、故郷に送り届けることも出来る。または、親族を王国に呼ぶ事も出来る。

 しかし、聖女様についての記録を全て読むも、その最後は全員がこの世界で迎えている。

 これは絶対であり、紛れも無い事実だ。故に我がエルルート王家が、聖女様に行える事は一つだけ。

 降臨させた責任として、聖女にこの世界で不自由の無い暮らしをしてもらう事。

 歴代の聖女様は、皆が当時の王族と結婚をしている。それは、生涯聖女様を守ると同時に、苦労の無い生活を提供し、大陸を救っていただいた褒美としているからだ。

 別の世界がどれほどこの大陸とかけ離れているのかは分からない。挨拶や文字以外に、あちらでは当たり前でも、こちらでは最大の侮辱になってしまう振る舞いがあるかもしれない。

 また、逆も起こりえる。

 故に王家は最高権力という鎧で聖女を守り、その功績を以て兜とし、代々の聖女を守ってきた。

 次は自分の番なのだ。

 最大限、愛を注ぎ、聖女様には自身の居場所が私の隣だと思ってもらうように努めよう。

 それが、聖女様から故郷を奪った我が王国の罪滅ぼしとなる。

 聖女が絶対的に信頼を置き、安心出来る人物であろうと努力しよう。

 そう、私は揺るがぬ大地のような存在となり、聖女様が安らぎを感じられる振る舞いをするのだ。

 改めて言おう。私は決意し、今日の儀式に挑むのだ。



 儀式は無事に終了した。

 しかし、本当に成功と呼べたのだろうか?

 降臨された聖女様は、私達と言葉を交わす事を拒み続けていた。

 私が事情を説明しても、彼女はひたすらに声を出す事を拒み続けていたのだ。

 それでもやっと聞かせてくれた声は……拒否。

 家に帰してという求めも、私は応じる事が出来なかった。

 代わりに私が傍に居ると言った私の言葉は届かず、元の世界へ帰れないという残酷な事実に取り乱してしまった。

 心苦しいが、聖女様を眠らせる以外に落ち着かせる方法を思いつかなかった。

 一晩明け、目覚めた今となっても、成功の喜びよりも不安が私の心に居座っている。

 そこに、聖女様が目覚めたという知らせが入った。

 私は今度こそと思い、聖女の部屋へ急いだ。

 今度こそ、彼女が手を取ってくれるようにと願いながら……。

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