23 時来たれり
「時来たれり」
すっきりしゃっきり目覚めた私は、何処かの組織の首領が言いそうな事を呟き、空の様子を確認しました。
夜明け前の程良く暗い時間帯。太陽の光と月の沈みが同時に見える狭間の時間。
聞こえるのは、鳥の声と木々が風に揺れる音のみ。
申し分ない時間である事を改めて確認し終えた私は、体を起こしました。
その流れで服を着替え、部屋の窓を静かに開けました。
外に出ると、夜に冷やされた心地の良い風が吹き抜けていきました。
柵越しに下を覗くと、当たり前ですが、地面が見えます。
元の世界換算でビル四階相当の高さでしょうか。以前なら震えてすぐに視線を戻していましたが、今は違います。
とても低い。自分なら楽に跳ぶ事の出来る高さだからでしょう。怖さがありません。
軽いストレッチを始めつつ、周囲の音と気配を探りました。
耳を澄ませ、目を凝らし、着地場所の周囲に人が居ないと確認した私は、片手を柵の上に置き、ひょいっと飛び降りました。
そうです。私は脱走するために常人越えを目指して鍛えていたのです。
外国のヒーローのようなド派手な着地はしません。
着地時の衝撃を減らすため、落下時に両手を広げ、鳥のように腕を数回羽ばたかせ、抵抗を減らしました。
静かに着地した私は、そのまま城壁に向かいました。
登るには途中までは気付かれにくい、より影が深い場所が良いと思い、そこを目指しました。
お城の周りを何週も走り回ったので、そんな条件の場所の目星は付いています。
城下町へと繋がる正門。そこから壁伝いに東に進むと、その先には木々が他よりも育っている場所があります。
ビル二階分くらいの高さまで育っているので、良い目隠しになります。
目的地に着くと、自分の手を揉みほぐしました。
今の私なら、ひょいッと城壁の上に跳べば楽が出来るでしょう。
お手軽な手段がありますが、私はそうでは無く、よじ登る事にしたからです。
流石に下からでは、城壁の上に居ると思われる警備兵の動きが分かりません。
なので、様子を窺いつつ、登って城壁を越えるという手段が一番だと思ったのです。
脱走に気付かれるのは、遅い方が何かと良いですしね。
という考えで、私は城壁を登り始めました。
これまで鍛えていた成果が存分に出て、疲れは微塵も感じません。
選んだ時間が時間なだけあって、未だ人に気付かずに居ます。
そうこうしていると、お城で私が借りていた部屋と同じくらいの高さまで登りました。登り切るまで後少しです。
最初は熟練度を上げるためにと始めた筋トレ。それがまさか、元居た世界の生き物全てを超越したようなくらいの身体能力を得るほどになるとは……。
おかげで、今の私なら、大抵の問題は片付けられるはずです。
後先は何も考えていませんが、とにかくお城を出たら、海を泳いで別の島を目指すのも良いかもしれません。
夢は無限大。逸る気持ちで城壁を登り切りました。
「よ~し。それでは皆さま、ごきげんよう」
誰もまだ気付いていませんし、誰も聞いていませんが、私は背後のお城に手を振りました。
そして、何人かの良くしてくれた人達の顔を思い出しつつ、私は城壁を飛び降りました。
先ほどと同じ方法で着地した私は、足から伝わる大地の感触に、更に期待を膨らませました。
「さあ、冒険の始まりよ!!」
興奮からの全力疾走。それが新しい私の始まり。ここから旅が始まるのです。
第一部 降臨聖女の脱城編 完




