17 さよなら眼鏡 彼女は私が引き受けた
「ど、どうでしょうか?」
精神的な疲労で息切れを起こしつつ、尋ねました。
「凄いです、聖女様。勉強で落ちた視力が回復しています。私、眼鏡っ子卒業出来ました」
夜だけ眼鏡を使っていたのでしょう。
そんな分析はさておき、どうして彼女だけ眼鏡というアイデンティティが無くなってしまったのでしょうか。
私の数えきれないほどに自分に回復魔法を使ってきたというのに、未だ眼鏡が私の顔で寛いでいます。
(私と彼女の違いは何処にあったのかな?)
その差を探すのは簡単でした。
私は、アワーフレッタさんの顔を治そうと回復魔法を使いました。
きっと回数の問題ではありません。私は、私の体に対して回復魔法を使ってはいましたが、顔や目に対しては使った覚えがありません。
どうやら回復魔法というのは、自身に使用したとしても全身に回復効果が現れる訳ではないようです。その証拠に、筋トレで酷使した部分は回復をしましたが、目は回復していません。
後で目に回復魔法を使ってみるとしましょう。
謎も解けた所で、私は偶然にもメガネメイトを一人救ってしまったようです。
「おめでとう、アワーフレッタさん。もうメガネにならないようにね」
失われてしまったメガネメイトに寂しさを感じましたが、裸眼の幸せを噛み締めて生きてねと、私は彼女を祝福しました。
「そもそも、私はメガネではありませんが……?」
彼女は、私がアワーフレッタさんはメガネに姿を変えることがあると認識していると思ったのでしょう。困惑していましたが、そこの訂正をするのは野暮というものです。
私は特に出てもいない涙を拭い、彼女に言いました。
「それじゃあ、この恩に報いるためにも私に全力で負荷魔法をかけてくださいね」
「え、あ、はい……」
彼女が頷きました。私の巧みな交渉術の勝利です。
「あ、その前に体の確認をしないといけないですね」
回復魔法を使ったのは良いですが、バックドロップなどの予想外な事故もあったので、一応確かめておこうと思いました。別に滑ったから一端別の事をしてうやむやにしようとかは考えていません。
互いに問題が無い事を確認し終えると、いよいよ特訓を始めました。
「さあ、アワーフレッタさん。お願いします」
「分かりました。行きますよ~。ヘビウェイッ!!」
呪文なのでしょう。彼女がそう言うと、途端に下に強く引っ張られる感覚に襲われました。
ですが、私はまだまだ姿勢を維持出来ていました。
「まだです。まだまだいけますよ」
「ひ、ひぃ。ご勘弁を、ご勘弁をっ」
聖女に負荷魔法を使う事への抵抗が拭いきれず、許しを請いつつ、彼女は魔法の負荷を増加してくれました。
今度は、姿勢維持をするだけでも消耗し始めるほどの負荷。
これならと、私はスクワットを始めました。
(くぅ~、太ももに、ふくらはぎにと乳酸が溜まって来たぁぁぁぁ)
両膝を突かずには居られなくなるまでスクワットを繰り返しました。
太ももが震え、ミリ単位でも動かすことが苦痛に感じても、その先を求めました。
疲労骨折をしようが関係ありません。私の中のアドレナリンが、自覚した時から回復するまでの僅かな時間に生じた痛みを自覚しなければ良いだけですから。
「アワーフレッタさん、もっと。もっと限界越えていきましょう」
もっと私の体力は削れる。それを分かっているから、アワーフレッタさんに求めました。
「ひぃ~。もう限界ですよぉ~。これが私の全力ですしぃ~」
どうやら今の彼女では、これ以上魔力を込めても負荷をかけられないようです。
魔法の重ね掛けを試してくれていますが、変化はありません。
熟練度の低さが邪魔をしているようです。同じ程度の魔法を何度も使ったとしても、より効果が上がるという訳では無いようです。魔法の種類による違いなのか、全てにおいて共通しているのか。
それでも亀の歩みほどですが、使う度に僅かに熟練度は上がっていくので、数を熟せば確実に魔法は強化されていきます。
ですが、何時かは上がるからと言って、今はこの程度で良いかと満足なんてしません。
何せ、私は知っています。
魔法は使い続ければ成長させられる事を。そして、撫でる程度で使うよりも、地面にめり込むほどの強い重力を発生させた方が熟練度が上がりやすい事を。
「ならもっと魔法を使って。そしてレベルを上げてください。私に負荷をかける範囲を頭に限定したりして、負荷と熟練度の上がりを確認していきましょう」
励ましの意味も込めて、私はアワーフレッタさんに言いました。
「私の魔力が尽きちゃいますよ~」
その言葉で彼女の状態を確認するために視線を向けると、ギリギリのところで震えながらに踏ん張っている姿がありました。魔力切れの症状にどのようなものがあるのかは分かりませんが、彼女の震え具合を見ると、もうすぐ魔力切れが起きると理解出来ました。
「大丈夫です。私の魔力は無限です」
アワーフレッタさんの不安と心配を取り除こうと、私は言いました。
「それがなんなんですかぁ~あぁぁぁ」
確かに、事情が分からないと言葉の真意もくみ取れないでしょう。
事情を説明しようとしましたが、彼女はそのツッコミの後、その場に座り込みました。そして、そのまま体を維持出来ずに倒れてしまいました。
その瞬間、負荷魔法が消え、体が軽くなりました。
「魔力が切れてしまうと気絶してしまうんですね」
普通はこうなるのかと、私は彼女の状態をよく観察しました。
無限の魔力という恩恵のおかげで、これが初めての魔力切れだったから。
もし今後、共に行動する相手の様子がおかしくなった時、どのように対処すれば良いのか分からないのでは困ります。これは先を見据えた観察なのです。
(これはしばらく動け無さそうね)
呼びかけたり、触ったりしても反応が返ってきません。
魔力はその量には個人差がありますが、自然に回復していきます。私もステータスを見ながら魔法を使ったら、その瞬間は表示が減るのです。その後すぐに無限記号に変わるのですが……。
なので、こうなってしまったら、アワーフレッタさんを休ませるしかありません。
そう、普通なら。




